陰陽花伝 天雲に翼打ちつけて飛ぶ鶴の
この作品のレビュー
平均 4.5 (2件のレビュー)
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このレビューはネタバレを含みます
ラッキースケベを経験しておきながら男装している主人公が女性だと気付かない鈍いヒーローなのに(まあ気付かれると色々厄介な状況ではあったが)最終決戦では案外手が早かったヒーロー。
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いや、君まだ気付いていないよね。
男性でもいいかと開き直ったか。
ともかく、あの場面では読んでいるこちらも大分驚かされました。
ラストの話からしてしまいましたが、呪いのせいで男装し男と偽って生きるしかなくなってしまった陰陽師の女性と、検非違使の男性コンビが平安京を思わせる都であやかし絡みの事件を解決していく物語。
あとがきにもありましたが、平安警察・刑事ものと称すると非常に分かりやすい。
一時間ドラマを見るように一話一話コンパクトに、でも推理要素や戦闘シーンなどの見どころをちゃんと押さえていて読みやすかったです。
特に第二章の話が、刑事や探偵ものを見るような謎解き感があってワクワクしました。
そう、歴史小説風ではありますが、文章そのものからして非常に読みやすく、するする読めたのも個人的にはポイント高かったです。
サブキャラも憎めない親しみやすいキャラも多かったですし。
ヒーローのお姉さんが巫女さんなのに、今回はあまり巫女らしい出番がなかったので、もし続編あるならお姉さんの活躍にも期待したいところ。
何より、女バレした後のヒーローの言動が非常に気になるので、この恋がどうなるのかも見られたらなと切に願います。
勿論、息ぴったりな二人の「刑事」っぷりも見たいです。
今回みたいなコンパクトな事件ものもたくさん読めたら嬉しいなあ。投稿日:2019.10.25
鶴よ、鶴よ、本当はそこにいるのだろう?
『私は隣の田中です』にてデビューされた秋月忍先生の第二作です。
前作は平凡な女性を主人公に据え、現代の陰陽師の世界に飛び込んでいく筋書きを物語の入れ子構造を活…かして魅せましたが、今回は陰陽師の本場と言える平安時代に題を採ります。
とは言っても、レーベルからわかるように本作は本格的な歴史ものを試行したわけではありません。
あとがきでも触れられている通り、平安「風」の都で繰り広げられるあやかしと人の戦いという大枠を取っています、
役職自体は実在の物が多く用いられている一方、君主の号が「皇帝」であることをはじめ架空世界と明言されているので歴史に詳しくない方はもちろん、本格志向の方でも肩肘張らずに楽しめると思います。
ところで平安時代と一言に述べるとしても、ヨーロッパの中世をどこからどこまで定義するかという問題と同じで本当に幅広く追究可能で歴史学者に聞いたところで各々違った見解が返ってくる相当に難儀な時代だったりします。
まずは官僚機構が整備され、僻地はともかく中央畿内は統制が効いていた中央集権体制という側面があります。
唐風文化の吸収を経て雅やかな宮廷文化が花開く一方、制度の疲弊から荒廃した「羅生門」のイメージも根強い。
荘園制によって独自財源を得た大貴族が国政を思うがままに動かす一方、不規則な生活と多忙さから倒れる公卿も存在するなど、腐敗した貴族制度というステロタイプで語るのも案外乱暴だったりもします。
後の鎌倉武士の有するような蛮性も一部の貴族は秘めていたと聞きますし、要は一言で述べるのは不可能です。
その上ですごく乱暴に言わせてもらえれば、時代劇が江戸時代の文化を折衷したパブリックイメージ、市民権を得たように平安時代に対して現代人が抱く感想は「十二単」などの平安装束、延いては「陰陽師」に他なりません。
鬼が姫君をさらうことができ、非業の最期を遂げた公達は怨霊に、長じては神となることが許される。また、呪いを公的に裁くことができる。などと、後世では物語として消費される「ファンタジー」が実際にあったかもしれない最後の時代が平安時代なのかもしれません。
貴人は生む呪いも強い。病と呪いは同根である。呪いはそれを生んだもの、もしくは向かうものを滅ぼすまで止むことはない。時には方向性を善き方に誘導してなだめ、鎮めるしかない。
などと、その当時を支配した「呪い」にまつわる法則は本作における真理として機能しています。
前置きはここまで。先に挙げた要素を盛り込みつつ、本作ならではの要素を挙げていきます。
本作は男装の陰陽師「塚野鶴丸」を主人公に据え、都の治安維持を担う検非違使の若手ホープと名高き少将「大江孝行」とタッグを組んで聖俗両面の線から都を騒がす事件の捜査を進めていくという形式を取っていきます。
人が変じたのもそうでないものも、あやかしや鬼が確かに息づく都でも、人間の賊はいないわけでなく。
また実体を持った妖には弓引く腕が物を言う。
とは言え、穢れや呪いに対して予防策を講じることはできても、直に祓えるのはやはり専門家ということで。
よって、腕利きの陰陽師である鶴丸は出向という形を取るわけですが、最前線で戦う都合上、官庁同士の確執やいがみ合いはありません。捜査にあたって必要ならば公卿の宅であっても立ち入りが許されるなど、話の進行を阻害する要素は案外少なく、情報収集自体はスムーズです。
ちなみに主人公が男装している理由も至極全うです。
幼少期に起こった皇位継承をめぐる暗闘が飛び火して、返しきれずに今も残る呪詛の矛先を逸らすためというもの。
正体がバレれば恥を通り越して「死」に近づくため、女と見違うばかりの美貌の陰陽師という外聞に安住せざるを得ません。
男装のヒロインというのはこういう外向けと実際の性別のズレを使って逆に女性の美しさを際立たせつつ、同性と思っているヒーローとの距離感を縮めていくのでしょう。紅を差すような美貌の描写が好きです。
それに加えて共に鉄火場を潜り抜けることで、物理的に距離を近づけ心を解きほぐしていく。
ピンチを抜きにしても常時「つり橋効果」が発動しているといってもよいのかもしれません。
職分の違いを弁えて謹厳実直に大江に接してくれる中、互いに噛み合わない好意が恋心に変じていくのはまさに王道ですね。
なんにせよ恋の歌が多く残っている平安時代、たとえ千年前だろうとも人を愛する心は不変と思わせてくれます。
しがらみこそ多いんですが、障害あってこその恋物語、女子向けのラブロマンスとの相性は極めて良好です。
習俗こそ現代からするといい悪い以前によくわからないところが多いものの、権力闘争を抜きにすれば家族間の親愛などは全く同じか、なんなら今より上と思わせるところなども好きです。
時に、その当時を生きる者たちはその当時の思考の枠組みの中で、折り合いを付けて生きていくのですね。屋敷に籠る姫君であっても文芸など自己実現の場が無いことはない。
それが女の体に男の立場というありえない、はぐれた位置から見つめていく鶴丸の視点だからこそ共感を誘ってくれているところもあります。あやかしや化生相手でも元が人であった以上は、ある程度心に寄り添うことが解決の早道になることもあるということで。
もちろん、大江が「武」をもって庇い立てする前提あってなので、その辺の相互関係がしっかりしていていいのですよ。現実的な職業人やってくれているバランス感覚と安心感が秋月先生の味とも言えるのかもしれません。
なお、本作における陰陽の術は派手なエフェクトがないわけではないんですが、実用重視でトーンは抑え目、あくまで陰陽のバランスを整えるためという鉄則を外すことはありません。
呪いが公的に認められ、実在しているという原則は大きいですね。ゆえにある程度高位の貴族であろうと悪用が認められれば法的な執行力が働いても排除が叶う。それは社会にとって共通の脅威であるための必然であるから。
よって全体的に地味かもしれませんが、リアルに寄せたファンタジーとしての完成度は高いかと存じます。
当時の価値観をしっかり捉えたリアリティとファンタジー要素の共存が図られています。
当時で言う賤業に関わる人々とのかかわりもさらりと書かれているのですが、愛嬌を持たせることで(主人公からの)好感を稼ぎ、職務上認識は必須だけれど、深くかかわりすぎることもない。
住む場所が違い、主題からズレるとは言っても庶民を全く書かないのは嘘に思えるのでいい塩梅だと思います。
あと、副題は「歌聖」柿本人麻呂の歌からの引用となっているのですが「本当はそこにいない」鶴丸の本当の姿を見つけよう捉えよう捕まえようとしている大江の視点と解釈すると面白いですね。
鶴丸のことを抱き寄せた終盤から明らかに「女性」を意識した動きになっているのがポイントです。
この辺り、鶴丸視点に終始しているのがなかなかに心憎い。
幻の中から「本当」を捉えようとしているのは本人も同じ。揺れ動く心理は恋愛の常道ということでどうかよしなに。
一応気になったところとしては単発の事件を追っていく中で見え隠れする(一応の)黒幕の影、そして直接対決へという構成は悪くないながらに、ラストの一幕はいささか駆け足に感じたところでしょうか。
生きながらに死んでいるような破滅的な生き方しかできない男に割く文量は無いと、私としては思いますが。
一方で華やかな宮廷の裏側が「伏魔殿」であろう匂わせはしっかり働いているので、その後背を考えれば語らずも得も言われぬ迫力は伝わってくるようにも感じられたのでその辺は好みかと。
今はただ、話の一旦の区切りは付けつつ、どこかシック、だけど臆病にならざるを得ない恋愛模様に今なお思いを馳せるとだけ言って論を閉じるといたしましょう。
冬は盛りを終えると信じ、新たな年を迎えつつあるこの頃合いにあって。続きを読む投稿日:2019.12.08
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