新哲学入門
廣松渉(著)
/岩波新書
この作品のレビュー
平均 3.7 (7件のレビュー)
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著者の哲学の入門書。認識論、存在論、実践論の3部で構成されている。
第1章では、著者の「四肢的構造」論が解説されている。著者はまず、意識対象・意識内容・意識作用という三項図式を取る近代的認識論の枠組…みの問題点を指摘し、現にあるがままの知覚風景的な場面から出発しなおすべきだと説いている。その上で著者は、知覚的現相には「個別的・直接的でレアールな所与を、それ以上のイデアールなあるものとして覚知する」という機制がそなわっていると論じる。それ以上の「あるもの」は「所識」と呼ばれ、「所与」と「所識」という二肢構造に基づいて、哲学的判断論を再構築するための道筋が簡潔に示されている。
一方、こうした覚知をおこなう主体のほうに目を向けてみると、私たちが何らかの判断をおこなうとき、文化的・社会的に同型的な判断主体として振舞っていることが確かめられる。そのつどの個別的・具体的判断をおこなう主体は、共同主観的な主体を僭称しつつ、判断をおこなっているのである。つまりここにも、具体的・個別的でレアールな主体である「能知」と、共同主観的でイデアールな主体である「能識」という二肢構造が認められるのである。対象の側の「所与-所識」と、主体の側の「能知-能識」の連関を説くのが、著者の四肢的構造論である。
第2章では、こうした著者自身の存在論に基づいて、従来の存在論の再検討がおこなわれる。とりわけ、世界には客観的な合法則性がそなわっているという理解がどのようにして成立したのかが論じられている。
第3章では、本格的な実践論に向けての導入として、著者自身の役割存在論の骨子と、行為の妥当性や価値、さらに人格が、どのようにして説明されるのかが論じられている。続きを読む投稿日:2013.03.26
1988年に出版された同書のアンコール復刊を手に取りました。本書ではまず哲学とはどういう学問なのかという著者の見解が示された後に、認識論、存在論、実践論の大きく3つのテーマが取り上げられています。ただ…著者も冒頭に述べているように、1番のウェイトは最初の認識論に割かれていて、そこでは廣松氏の代名詞とも言える共同主観的な視点からの認識論が展開されています。
その意味で本書のタイトルは「新哲学入門」となっていますが、廣松理論入門という方がふさわしい気はしました。認識論では、カメラモデルと呼ばれる知覚論、すなわち「意識対象–意識内容–意識作用」という三項図式がこれまで当たり前と思われてきましたが、著者はそれを否定し、一体化した「所与−所識」構造の中で所識がいかにして生まれるのかを共同主観という概念から解説します。たとえば広場に柵が張り巡らされていたとします。我々がその柵を見たときに、柵という「所与」だけでなく我々はそれに意味を感じ取ります。その意味は人によって千差万別であり得るのですが、その意味は一定の枠内におさまる可能性も高く、例えば「この柵は私有地との境界線でこの柵を乗り越えることは法律違反になるのかもしれない」といった「所識」です。これは現代の先進国に生きている人であれば共有している価値観であって、いわゆる共同主観になります。
廣松氏の理論や哲学そのものにあまり触れたことがない人は著者の独特な言葉遣いなどに苦戦するかもしれませんが、それこそ頑張って読み進めて行くと、著者との「共同主観」が徐々に形成され、チンプンカンプンだった言葉遣いも徐々に理解できるようになります。認識論はとても興味深く読みましたが、存在論、実践論はやや物足りなく感じましたので星4つとしました。続きを読む投稿日:2023.05.04
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