翻訳語成立事情
柳父章(著)
/岩波新書
この作品のレビュー
平均 4.1 (28件のレビュー)
-
日本の学問・思想の基本用語が幕末・維新期にどのような試行錯誤の末に定着したのかを10の事例から紹介したもの。前半の6つが、社会、個人といった翻訳のために造られた新造語。後半の4つが自然、自由などそれま…での日本語にも日常語としてあった言葉に、さらに翻訳語としての意味が加わったもの。個人的には後半の方が面白かった。旧来の日常的な意味に新たな意味が加わったことによる混乱や、それが今にも引き継がれていることが分かる。続きを読む
投稿日:2021.09.30
「社会」「個人」「近代」「美」「恋愛」「存在」「自然」「権利」「自由」「彼、彼女」という幕末から明治期に生まれた翻訳語が、なぜそう訳されることになったのか、実際の意味がどのように歪み、分かりにくさや…矛盾を孕んだまま急速に受け入れられ広まっていくこととなったのか、という点について述べている。
訳語そのものの成立の歴史もさることながら、結局今の我々がどういう意識でその言葉を使っているのか、ということに目を向けさせる点が、ドキッとしてします。例えば、「今日、私たちがsocietyを『社会』と訳すときは、その意味についてあまり考えないでも、いわばことばの意味をこの翻訳語に委ね、訳者は、意味についての責任を免除されたように使ってしまうことができる。」(p.8)ということで、実は「社会」と訳したところでそれが何なのかはよくわかっていないでしょ、という指摘。「そして、ことばは、いったんつくり出されると、意味の乏しいことばとしては扱われない。意味は、当然そこにあるはずであるかのごとく扱われる。使っている当人はよく分らなくても、ことばじたいが深遠な意味を本来持っているかのごとくみなされる。分らないから、かえって乱用される。文脈の中に置かれたこういうことばは、他のことばとの具体的な脈略が欠けていても、抽象的な脈略のままで使用されるのである。」(p.22)ということになってしまっている。individualの訳語についても、「独一個人」という翻訳語を作り、「むずかしそうな漢字には、よくは分らないが、何か重要な意味があるのだ、と読者の側でもまた受け取ってくれる」(p.36)という漢字の効果=「カセット効果」についての指摘が多い。「それはあたかも思考の困難を解決するかのごとく現れている。この未知のことばに、それから先は預ける。(略)ことばは正しい、誤っているのは現実の方だ、というところで、一見、問題は解決したかのごとき形をとる。それは、以後今日に至るまで、私たちの国の知識人たちの思考方法を支配してきた翻訳的演繹論理の思考であった。」(p.40)ということらしい。でも今の世の中なんて翻訳すらしないで、シームレスとかトレーサビリティとか言って、それこそカタカナ語のカセット効果、の方が著しい気がする。というかもはや考えることすらも放棄した結果、ということになるのだろうか?あるいは原語は原語のままで理解すべき、ということなのだろうか?いずれにせよ、漢字もカタカナ語も、つまり外国のものには多かれ少なかれカセット効果があるのか、と思う。「ことばが先にあって、その日常的意味をもとにして、『哲学者及審美学者』は、これをつごうによって抽象し、限定して使うのである。しかし、この限定された意味、翻訳語として受け止め、従って、完成された意味として受け取ることの多い日本では、この順序はとかく逆転して理解されがちである。」(p.78)というのが日本人の傾向、ということなのだそうだ。「一般に、どんな翻訳語が選ばれ、残っていくのか、という問に答えることはやさしくない。しかし、およそ、文字の意味から考えて、もっとも適切なことばが残るわけではない、ということは言えるであろう。」(p.186)なので、英文を訳していて意味が分からない時はその定訳自体が変なんじゃないか、ということは大いにありそうだ。最後にビックリすることは、heと「彼」の話で、「第一に、heは三人称代名詞だが、『彼』はもともと指示代名詞である。日本語には、三人称代名詞はなかったし、今日でも、実はないと言った方がよい、と私は考える。このことは私たち日本人にとって、とくに外国語教育を十分受けた人ほど、以外に分りにくいようである。」(p.197)という部分。英語のheは、すでに言及された人物のことを言う、日本語の「彼」は3人称ではなく「遠称」、つまり「発言者と聞き手から外の、遠くのものを指す」(p.197)、つまり「初めてみたものを指して『アレ』とか『彼』とは言えるが、heとは言えないのが原則である。」(p.198)という、こんな簡単な事実も、(英語の先生がやることで、スライドで人物を見せたら、まずはThis is...とやらないといけないところを、いきなりHe is...とやってしまう、というのはよく聞く話なので、そこから考えれば良かったことなのだけれど)考えたことなかったなあと思い、でもこの違いを意識することが外国語を知る面白さだよなあとも思った。
ただ全体としては英語が云々というよりは、日本の知識人がどう考えたか、という話なので、言葉自体よりは当時の思想的な背景を勉強する本。(22/10)続きを読む投稿日:2022.12.16
新刊自動購入は、今後配信となるシリーズの最新刊を毎号自動的にお届けするサービスです。
- ・発売と同時にすぐにお手元のデバイスに追加!
- ・買い逃すことがありません!
- ・いつでも解約ができるから安心!
※新刊自動購入の対象となるコンテンツは、次回配信分からとなります。現在発売中の最新号を含め、既刊の号は含まれません。ご契約はページ右の「新刊自動購入を始める」からお手続きください。
※ご契約をいただくと、このシリーズのコンテンツを配信する都度、毎回決済となります。配信されるコンテンツによって発売日・金額が異なる場合があります。ご契約中は自動的に販売を継続します。
不定期に刊行される「増刊号」「特別号」等も、自動購入の対象に含まれますのでご了承ください。(シリーズ名が異なるものは対象となりません)
※再開の見込みの立たない休刊、廃刊、出版社やReader Store側の事由で契約を終了させていただくことがあります。
※My Sony IDを削除すると新刊自動購入は解約となります。
お支払方法:クレジットカードのみ
解約方法:マイページの「予約・新刊自動購入設定」より、随時解約可能です続巻自動購入は、今後配信となるシリーズの最新刊を毎号自動的にお届けするサービスです。
- ・発売と同時にすぐにお手元のデバイスに追加!
- ・買い逃すことがありません!
- ・いつでも解約ができるから安心!
- ・優待ポイントが2倍になるおトクなキャンペーン実施中!
※続巻自動購入の対象となるコンテンツは、次回配信分からとなります。現在発売中の最新巻を含め、既刊の巻は含まれません。ご契約はページ右の「続巻自動購入を始める」からお手続きください。
※ご契約をいただくと、このシリーズのコンテンツを配信する都度、毎回決済となります。配信されるコンテンツによって発売日・金額が異なる場合があります。ご契約中は自動的に販売を継続します。
不定期に刊行される特別号等も自動購入の対象に含まれる場合がありますのでご了承ください。(シリーズ名が異なるものは対象となりません)
※再開の見込みの立たない休刊、廃刊、出版社やReader Store側の事由で契約を終了させていただくことがあります。
※My Sony IDを削除すると続巻自動購入は解約となります。
お支払方法:クレジットカードのみ
解約方法:マイページの「予約自動購入設定」より、随時解約可能ですReader Store BOOK GIFT とは
ご家族、ご友人などに電子書籍をギフトとしてプレゼントすることができる機能です。
贈りたい本を「プレゼントする」のボタンからご購入頂き、お受け取り用のリンクをメールなどでお知らせするだけでOK!
ぜひお誕生日のお祝いや、おすすめしたい本をプレゼントしてみてください。※ギフトのお受け取り期限はご購入後6ヶ月となります。お受け取りされないまま期限を過ぎた場合、お受け取りや払い戻しはできませんのでご注意ください。
※お受け取りになる方がすでに同じ本をお持ちの場合でも払い戻しはできません。
※ギフトのお受け取りにはサインアップ(無料)が必要です。
※ご自身の本棚の本を贈ることはできません。
※ポイント、クーポンの利用はできません。クーポンコード登録
Reader Storeをご利用のお客様へ
ご利用ありがとうございます!
エラー(エラーコード: )
ご協力ありがとうございました
参考にさせていただきます。