外国語上達法
千野栄一(著)
/岩波新書
この作品のレビュー
平均 4.2 (85件のレビュー)
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ただやみくもに外国語習得を開始するのではなく、戦略を立て、無駄のない努力をしたいところである。本書は、過去の自分の方法ではダメだったのだと気付かせてくれた。早速スマホで単語帳アプリをダウンロードし、1…000語の暗記から始めている。また、友人にお金を払い、毎週一回一時間半の授業をしてもらうように依頼した。生涯をかけて、5カ国語を楽しめるようになるのが目標だ。
以下、本書より抜粋。
「言語の習得にぜひ必要なものはお金と時間であり、覚えなければ外国語が習得できない二つの項目は語彙と文法で、習得のための三つの大切な道具はよい教科書と、よい先生と、よい辞書ということになる。」
「もし、辞書を引き引きその言語で書かれたテキストを読みたいというのであれば、二~三千語で足りる。ここまで覚えれば、その言語に関しては一応の”上がり”である。」
「もし、あなたが学習しようとしている言語に語の頻度数を示す資料があったら、それは絶対に見る必要がある。」
「外国語の習得に際して、語彙に関してはこれまであまり無視されていたので、もっと関心を持つ必要があり、語彙の習得にもっと計画的に時間をかけることが絶対に必要である。」
「一冊の学習書の中の変化表を全部切り抜いてビッシリ貼り直すと、大体10頁内外になる。(言語により異なる)もし読者の方がモノにしようと思っている外国語の骨組みが、10頁を完璧にモノにすればできると分かれば、誰にでも勇気がわいてくるに違いない。」
「先生は各人に小さなノートを用意させ、それを単語帳にする。毎時間の最初に、その時間で扱う文法事項の手短な説明があり、ごく少数の語彙が与えられてから授業が始まる。授業の圧倒的大部分の時間は、母語から外国語への翻訳にあてられる。まず語彙を覚えるための易しい短文が繰り返し当てられ、新出の語彙が覚えられたのが確認されると、その日の文法事項がその作文の中に組み込まれてくる。学生が単語でつっかえると、すぐ小さなノートにその単語を書き加えることを要求し、更に、その語が入ったいくつかの分を訳させる。そのノートの単語は学期が深まるについれて一人一人で違ってくるので、やがて学生を当てるとき一人一人からノートを提出させ、それを見ながら作文が要求される。」-ブラジミール・トグネル先生の授業方法
「先生は授業の最初の日に葉書程度の大きさの紙に、氏名・専攻・住所・電話を書いて提出させ、これがその後の授業で重要な役割を果たした。まず出席をとって、欠席の人のカードを抜き、その裏面にその日付をつける。そして残りのカードをよく切り、裏返しにしてから、授業では順に当てていかれた。一巡するとよくカードを切り、学生に自分の順番を予測させないようにし、しかも皆が公平に当たるよう配慮して、質問の難易で学生にひいきのないように、裏にしたカードをめくるまで誰に当たるかわからないようにふせておき、そして質問に答えられない学生がいると、カードにどの変化ができなかったかを記入して、次の週には必ずそれを復習させるのである。」-ヨゼフ・クルツ先生の授業方法
「繰り返しは忘却の特効薬である」続きを読む投稿日:2020.05.12
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千野栄一
1932年東京に生まれる。東京外国語大学ロシア語科、東京大学言語学科を卒業。1957年から9年間プラハに在住。カレル大学スラブ学科を卒業する。東京外国語大学名誉教授・和光大学教授。…訳書は「しりたがりやのこいぬ」シリーズ、『ロボット』など多数。2002年、没。
神様が公平だと思うもう一つのことは、短期間に急激に習得した語学は短期間に急激に忘れるが、長い時間をかけて習得した語学は忘れるのに長い時間がかかるという事実である。
「覚えなければいけないのは、たったの二つ。語彙と文法」 これまた実に明快な答であった。なんだと思われる人もいるかも知れないが、すべての外国語の学習に際して絶対に必要なのは、この二つである。単語(言語学では、単に「語」という)とは何かを厳密に定義するのは非常に困難であるが、それはまあここではそれ以上追求しないとして、単語のない言語はないし、その単語を組み合せて文を作る規則を持たない言語はない。すなわち、何語を学ぶにしても、この二つを避けて通るわけにはいかない。
絶えず辞書を引かなければならない外国語学習がいかに悲惨なものであるかは、多くの人が痛いほど経験しているところである。それだから、単語を覚えるという努力を着実に続けられる人は、ひとたびこの困難を乗り越えたときの楽しみを知っているか、それを想像できる人である。一つの外国語をモノにした人は次の外国語の習得でも成功率が高いことが、その一証拠といえよう。
語彙の習得が文法の習得と違う大きな特徴は、言語による難易がないことである。語彙の習得はどの言語でも同じだけ時間がかかり、日本であろうと留学先の外国であろうと、意識して覚えない限りどうにもならない。「外国語は好きなんだけど、単語が覚えられなくてね」という人は、自分が勤勉でないことを告白しているのである。そして、この自称〝記憶力の悪い〟人がひとたび天皇賞となると、舌をかみそうな馬の名前だけでなく、馬の血統、経歴、所属 厩舎 名から、 重馬場 での対応能力、さらに騎手の性質までそらんじているのだから、記憶力が悪いということに同意するわけにはいかない。必要なのは超満員の電車の中でも○や△や◎の記号の意味するところを必死で学習するその熱意で、単語の習得にはそれがないことが問題なのである。そして、あんな込んだ電車の中ででも赤鉛筆を使って大事なポイントを区別するという効果的学習を、単語の習得に際しては使わないということである。
この千語を覚えるのに、辞書を引いて覚えるのはむだである。辞書を使うのはもっと後のことで、この段階ではすでに訳のついている単語を覚えればいい。この千語は、どれでもいいという訳ではない。この単語の選び方についてはすこし先で述べるが、もしよい教科書なり自習書なら、そこにこの千語が含まれていなければならない。必要なことは単語を覚えることで、辞書を引くことではない。そして、その単語の記憶を確実にするのには、それを書くことをおすすめする。この段階では、理屈なしに覚えるだけである。そのエネルギーとしては、どうしてもその言語をモノにしたいという衝動力を使い、そのエネルギーの燃えつきる前に千語を突破することである。従って、この千語習得の時間は短くなければならず、そこで十分に時間のとれるときに新しい言語を学び始めるよう計画をセットする必要がある。
もし千語をモノにできれば、その言語の単語の構成がなんとなく分かるようになり、千五百にするには最初の千語の半分よりはるかに少ないエネルギーで足りるようになる。そして千五百語覚えさえすれば、もう失速することはない。ただし、この千語なり千五百語を覚えるというのは確実に覚えることで、なんとなく霧の中にあるような覚え方は意味がない。確実な五百語は不確実な二千語より、その言語を習得するのに有効である。
小説や詩を楽しみ、会話もでき、その言語で手紙も論文も書けるというようになるには最低四〜五千の語が必要になり、その学習には三〜四年は必要である。この五千語をさらに六千語、七千語、八千語……にすることは、その道のプロ以外必要ではない。いくら覚えてもきりがない単語の学習には、目安が必要である。使いもしない語を無理して覚えるのは、ナンセンスとしかいいようがない。もし、辞書を引き引きその言語で書かれたテキストを読みたいというのであれば、二〜三千語で足りる。ここまで覚えれば、その言語に関しては一応の〝上がり〟である。
単語習得の第二のポイントは、その言語をどれだけできるようにするかによって習得する単語の数を定め、それを突破したらお祝いすることで、一つ一つの目的の達成に喜びを味わい、その実感を次のエネルギーに転じていくことである。
言語学の知識が教えるところでは、言語により差があるとはいえ、大体どの言語のテキスト(書かれた資料)でも、テキストの九〇パーセントは三千の語を使用することでできている。すなわち、三千語覚えれば、テキストの九〇パーセントは理解できることになる。そして、残りの一〇パーセントの語は辞書で引けばいい。これならもう絶望的ではない。頻度数の順で五千番から六千番までの千語を覚えても、全体の理解範囲はほんの数パーセント上がるだけであるが、頻度数の高い単語を千覚えることは、理解できる範囲をぐっと拡げることになる。そのもっとも重要なのが、最初の千語なのである。
「コナン・ドイルの『まだらの紐』を読むといいよ、面白いのでつい英文でも読んでしまうから」という外国語習得のヒントは、テキストが面白いことは大事だという点では評価するが、一生に二度と出会わないインドの蛇の名前のたぐいが多くでてくるという点ではよくない。何年に一度しかお目にかからない語を外国語で覚えるなんていうことは、記憶の負担になっても、得るところはほとんどない。
読者の方々はあまり意識していないであろうが、日本語を読んでいるときでも、分からない単語はいつも出て来ている。しかし、必要がないときは飛ばして読んでいるのである。新聞のスミからスミまで読んで、その中に分からない単語が一〇以下の人なんて、永年新聞の編集にたずさわっているベテラン記者か、新聞社を受験しようとしている大学生ぐらいである。
チェコ語にはそれを表わすうまい表現がある。Čím více kdo zná jazyků, tím vícekrát je člověkem.──いくつもの言語を知れば知るだけ、その分だけ人間は大きくなる。続きを読む投稿日:2024.01.16
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