内閣調査室秘録 戦後思想を動かした男
志垣民郎(著)
,岸俊光(編)
/文春新書
作品情報
内閣調査室は本当に謀略機関だったのか・・・・・・謎のヴェールを剥がす第一級の歴史史料!
松本清張は、昭和36年に「文藝春秋」に連載した『深層海流』で、「内調の役目がその辺を逸脱して謀略性を帯びていたとなれば、見逃すわけにはいかない」と書いた。あれから60年たっても、内調については関連する公文書も公開されなければ、組織の正史も作られておらず、依然としてその実態は謎のままだ。
本書は、昭和27年に吉田茂首相が、旧内務官僚の村井順に命じて内閣調査室が発足したときの、4人のメンバーの1人、志垣民郎氏の手記である。この手記のポイントは、内調は日本を親米反共国家にするための謀略機関だったのか、という問いに明解に答えているところにある。
志垣氏の主な仕事とは、優秀な学者・研究者に委託費を渡して、レポートを書かせ、それを政策に反映させることだった。これは、結果的に彼らを現実主義者にし、空想的な左翼陣営に行くのを食い止めた。そして本書には、接触した学者・研究者全員の名前と渡した委託費、研究させた内容、さらには会合を開いた日時、場所、食べたもの、会合の後に出かけたバーやクラブの名前・・・・・・すべてが明記されている。まさに驚きの手記だ。
100人を超えるリストの面々は豪華の一言に尽きる。時代を牽引した学者はすべて志垣氏の手の内にあった。とくに重要なのが藤原弘達。「時事放談」で知られる政治学者は、東大法学部で丸山真男ゼミに所属した俊才であった。「彼が左翼に行ったら、厄介なことになる」。そこで志垣氏は、彼を保守陣営に引っ張り込むために、あらゆる手立てを尽くす。戦後思想史を塗り替える爆弾的史料である。
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商品情報
- シリーズ
- 内閣調査室秘録 戦後思想を動かした男
- 出版社
- 文藝春秋
- 掲載誌・レーベル
- 文春新書
- 書籍発売日
- 2019.07.19
- Reader Store発売日
- 2019.07.19
- ファイルサイズ
- 0.5MB
- ページ数
- 344ページ
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この作品のレビュー
平均 3.7 (7件のレビュー)
-
作家の佐藤優氏が雑誌の連載で取り上げていたので、興味を持って手に取った。
「独立するからには、日本にもCIA(米中央情報局)のような情報機関が是非必要である」とのことで、第二次世界大戦後、「内閣総理…大臣官房調査室」は発足。
著者は日記をもとに、その当時の記録をひもといていく。
テレビ番組「時事放談」などで昭和に華々しく活動した評論家がいる。
羽に衣を着せぬ言論で、特定の個人や団体を攻撃することもしばしばだった。
著者の大学の同級生でもあった彼も、月数回のペースで接待を「内調」から受けていた。
食事をし、酒を飲み、情報交換をするわけだ。
自然の内に、政権にとって都合の悪いことは「忖度」して言わなくなり、書かなくなる。
佐藤氏も外務省時代に同様の「インテリジェンス」活動をしたので、その仕事ぶりはよくわかるとのこと。
だが読み進めていく中で、多くの違和感があった。
今も存在する内調。
テレビや雑誌で人気の論客の言葉。
耳さわりのよい、華々しいものだけが正解なのではない。続きを読む投稿日:2020.10.10
日本版CIAを標榜して作られた内閣調査室。本書内にも「日本版CIAと買いかぶるひともいるが」ということで、実態は情報局といえるほどのものでもない。ちなみに本書の舞台は主に戦後から70年代くらいまでであ…る。
反共産、核問題、学生運動などに対する情報工作、といえば大言壮語にも聞こえるし、陰謀論的な考えが想起させられるひともいるかもしれない。(実際、本書に絡んだネット上の言葉にはそのようなものも少なからずあった)
しかし、いざ細かく読んでみると、どこまでそれが成功していたかは甚だ怪しい。委託費といっても、受け取らない者も多かったようで、堤清二に至っては「委託費は必要なかった」と書いてある。そりゃそうだろう。
最初に著者の同級生である藤原弘達の話が出てくる。これも20年以上かけて結局は懐柔に失敗している。
ちなみに情報工作の話だけでなく「沖縄の祖国復帰が実現しない限り日本の戦後は終わらない」という佐藤総理の言葉の原作者が藤原であること、藤原の創価学会批判本への政府による出版妨害など、ちょっとしたエピソードもある。
本書でページを多く割かれているのは学者たちへの懐柔工作なのだが、その実態を簡単に言えば接待、つまり飲み会である。一読した印象は、CIAや情報工作というより、民間企業の営業や仕事の雑談に近い。
本書を読んでおもしろかったポイントはふたつあった。
ひとつは、政府の学者に対する意識がいまとまったく違うこと。志垣氏の日記が詳細なこともあるが、飲み会の数、時間の割き用が凄まじい。ここまで躍起になったのは、学者…特に人文系の権威への信頼があったからこそだろう。それは政府だけでなく、社会からも教養が信じられていたからこそ、であろう。
ふたつめは、日本版CIAを標榜したにもかかわらず、けっきょくは飲み会で仲良くなろう!というあまりにも日本的すぎるやり方。記録のほとんどが会食である。サブタイトルには「戦後思想を動かした男」という大仰な言葉が躍っているが、その動かし方は飲みニケーションだったのである。
先に書いたが、本書の舞台はせいぜいが70年代までで、それ以降のことは書いていない。教養の権威も飲み会もウェイトが割かれなくなりつつある現代、陰謀論的な話というより志垣個人の思い出話程度に聞くのが良い。続きを読む投稿日:2024.02.20
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