望み
雫井脩介(著者)
/角川文庫
作品情報
年頃の息子と娘を育てながら平穏に暮らしていた石川一登・貴代美夫妻。9月のある週末、息子の規士が帰宅せず連絡が途絶えてしまう。警察に相談した矢先、規士の友人が殺害されたと聞き、一登は胸騒ぎを覚える。逃走中の少年は二人だが、行方不明者は三人。息子は犯人か、それとも・・・・・・。規士の無実を望む一登と、犯人でも生きていて欲しいと願う貴代美。揺れ動く父と母の思い――。心に深く突き刺さる衝撃のサスペンスミステリー。
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商品情報
- シリーズ
- 望み
- 著者
- 雫井脩介
- ジャンル
- 小説 - ミステリー・サスペンス・ハードボイルド
- 出版社
- KADOKAWA
- 掲載誌・レーベル
- 角川文庫
- 書籍発売日
- 2019.04.24
- Reader Store発売日
- 2019.04.24
- ファイルサイズ
- 2.3MB
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この作品のレビュー
平均 3.9 (200件のレビュー)
-
雫井脩介さんの「望み」、初読みの作家さん。非常に重厚で難解なテーマの作品だった。
自分の高校生の息子が失踪し、高校生同士の殺人事件に関与している事が発覚する。
息子は被害者なのか?加害者なのか?
親…はその重い心情を胸中に抱えながら事件の進展と同時に希望を張り巡らす。
この作品の核なのがこの「希望」の部分で、当然家族としては息子が殺されているとは考えたくない。そうなると逃亡している加害者になってしまう。
逆で加害者ではないとすると被害者として殺されてしまっている事になる。
どちらを「望む」か?
それを終始問いかけられている。
そしてこれは究極の2択の選択になるのかもしれないが、そうなる前に手を打つべきだと考える。
中高生では先の展開や近い未来が見えず、大きな過ちを犯してしまう事も容易に考えられる。
「道徳」や「現代社会」「朝礼」「ホームルーム」等の学校、授業、もしくは家庭内でも注意喚起も含め啓発し考えさせておくべきだと感じる。自分のせいで親や家族の立場や境遇が変わる可能性、自分の今後の人生、罪そのものにもきちんと事前に向き合わせておく。
そうする事で事件はゼロにはならないだろうが、少なからず数件の予防策にはなるのではないか?
今の自分でも答えの出ないこの「望み」の核の部分。
深く難解な事だけれど、とても深刻で大事な事だ。
そして「望む」ならばこういう事がないこと、それに尽きる。続きを読む投稿日:2024.02.19
雫井脩介さんは『火の粉』に続き2作目。
『望み』
今回も非常に重たい内容だったが、シンプルな構成でテンポよく進むため一気読みしてしまった。
【あらすじ】
建築デザイナーの石川一登は、妻・貴代…美と、高一の長男・規士、中三の長女・雅の四人暮らし。
9月のある週末、規士が家を出たまま連絡が途絶えてしまう。程なく規士の友人が殺害される事件が発覚し、胸騒ぎを覚える石川一家。事件後逃走した犯人は2人だが、行方不明の少年は3人。
果たして息子は加害者なのか、それとも被害者なのか・・・
【レビュー】
行方不明の息子が事故と何らかの関係があるとは分かりつつも、それが加害者なのか、被害者なのかによって立場が180度変わる。
被害者ならば、恐らく命は助からないが無実だ。加害者ならば、命は助かってもその後の人生は家族共々茨の道を歩むこととなる。
父と母でどちらを望むのかに差異が生じ、年頃の受験間近の妹も心中穏やかではいられない。
おまけにマスコミも押し掛け、仕事の関係者や親戚からは息子を加害者として疑われ、風当たりは強くなる一方で・・・
いくら家族が大切といっても、家の外との社会生活が保たれて成り立つ家族である以上、綺麗事だけでは済まされないことを読み手に迫って来る作品だった。
自分ならどうするだろうか・・・
建築士として一家の大黒柱の父親だったら、
或いはお腹を痛めて産み育てた母親だったら、
或いは一歳違いの妹だったら、
自分ならどう考えただろう・・・とそれぞれの胸中に思いを巡らして胸が苦しくなった。
結末を知った後、行方不明だった規士から見えていた景色はどんなだっただろうと思いを馳せた。
規士が行方不明の間、石川家の身の回りでは様々な変化が起こった。
誰が正解でもないし、
誰が間違っている訳でもないと思う。
けれど真相が分かるまでの数日間で、人間の深層心理に深く迫った描写は、どれも痛い程に生々しく重かった。
人と人が関わりながら暮らしている社会の中で、いつ我が身に降り掛かるかもしれないからこそ、リアルでセンセーショナルな本作は胸に響き、読後もしばし放心状態になってしまった。
また、社会生活を営む最小単位の「家族」が鍵となる本作の中で、父親の職業がその象徴とも言える家を設計する建築デザイナーという設定も巧みだった。更に『火の粉』と同じく、母単体、母親と娘、母親と実母・実姉といった女性或いはその関係性を描く心理描写が秀悦で、その微妙な距離感や感じ方が際立っていた。
哀しい物語だったが、どの様な事件が起きても、家族も含め、自分が接してきた方々との血の通った付き合いにおいては、周りに影響されず、見る目が曇らない様にブレない自分でいたいと思った。
私もそうだったが、思春期の多感な時期といっても、意外と親や周りの声はしっかりと本人に届いている。
ただ、成長過程における繊細過ぎる部分が邪魔をしたり、自分の内面を表現する術を持ち合わせていないもどかしさが胸の内の大半を占めていたんだと思う。
けれどこの成長過程に、痛ましい過ちから起きる事件が後を絶たない。
その様な事件が起こらない為にも、事件が及ぼす社会的な影響については、本作の様な作品を通じて学生の頃に学ぶ機会があることが望ましいと感じた。
読後、頭を整理した先に漸く私が辿り着いた望みの境地がこれだった。
タイトルの『望み』が意図する中に、作中の登場人物の望みだけでなく、読み手のこんな胸中まで見越されている所に、作者の強い意志を感じる作品だった。
続きを読む投稿日:2024.03.24
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