炎の岳―南アルプス山岳救助隊K-9―(新潮文庫)
樋口明雄(著)
/新潮文庫
作品情報
“幻の名峰”として人気の新羅山。その日も登山客で賑わうなか突如、群発地震が襲う。不穏な空気が漂い火山学者は警告を発するが、行政に黙殺される。やがて噴火が始まり、逃げ遅れた人々を救うべく、救助隊員の静奈と夏実は相棒の犬と共に山頂へ向う。だが山中には凶悪な殺人者も潜んでいた。荒れ狂う山、襲いかかる魔手。決死の救出に挑む彼女たちにタイムリミットが・・・・・・。『火竜の山』改題。
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商品情報
- 著者
- 樋口明雄
- ジャンル
- 小説 - ミステリー・サスペンス・ハードボイルド
- 出版社
- 新潮社
- 掲載誌・レーベル
- 新潮文庫
- 書籍発売日
- 2018.11.01
- Reader Store発売日
- 2019.04.19
- ファイルサイズ
- 1.5MB
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この作品のレビュー
平均 3.9 (8件のレビュー)
-
〈南アルプス山岳救助隊〉シリーズ。未読と思っていたら第四作「火竜の山」を改題したものだった。だがせっかく借りたので再読してみた。
昨日読んだ「クリムゾンの疾走」とは違い、こちらは山のシーン盛りだくさ…ん。
とはいえ、舞台は南アルプスではなく岐阜県の新羅山という架空の火山。人気の山で登山者で賑わう新羅山が噴火したことからパニック状態になる。
作中で触れられているように御嶽山のような状況だが、御嶽山と違い前兆として様々な現象が起きていた。微細な地震や山体の膨張、そして本格的な地震。
救助犬を使った山岳救助の講演会のため新羅山麓に来ていた夏実と静奈、新羅山の噴火予兆の研究をしている研究者、ネットで集まった登山パーティ、身代金目的で少年を誘拐した男女と逃げ出した少年、暴力団に雇われた殺し屋と、様々な視点の物語が並行して進んでいく。
最初はゴチャゴチャしている印象だが、次第に登山パーティの話と誘拐犯グループの話に収束していき、最終的には一つの物語にまとまっていく。
初読の時は詰め込みすぎてゴタゴタした印象だったが、今回はそれぞれにドラマがあり上手く折り畳んでくれた印象で面白く読めた。改題と共に改稿もしたのだろうか。
初読の時にも思ったが、山の中で二度も地震が起きているのに下山をせず登頂を目指すという感覚が分からない。ましてや御嶽山の例もあるのだから私なら恐ろしくて直ぐに引き返したくなる。
しかしこれが『正常化バイアス』というものらしい。それに沙耶のように周囲に流されたり逆らえない人もいそうだ。
それにしても許せないのはパーティのリーダー。彼はリーダーでもなんでもなく、ただメンバーを集めただけの身勝手な登山者だった。こんな見掛け倒しのどうしようもないヤツは江草署長にこってり絞られて欲しい。逆に第一印象は酷かった北川が実は頼れる人でホッとした。
一方殺し屋は何だか新宿鮫シリーズの『毒猿』を彷彿とさせるような哀愁ただようキャラクターで印象深かった。生まれた国と時を間違えただけで、もっと違う生き方が出来ていれば…と思ってしまう。しかしこれだけ人を殺めたのだからこの結末は致し方ないか。
火山灰と火山岩が降り注ぐ新羅山の中を登山者の誘導や救助に駆け回る夏実と静奈、そしてそれぞれの相棒犬が頼もしい。ハンドラーとバディ犬との絆も固い。
そして危険を顧みず夏実を救出に山に戻る静奈も格好良い。多分逆の立場なら夏実もそうするだろう。
そういえばこの作品で静奈と出会った自衛隊員が良い雰囲気になったのを思い出した。このまま上手く行きそうな二人だったのだが、武闘派クールビューティーと爽やか自衛隊員カップルではベタ過ぎて樋口さんの趣味に合わなかったのか。今ではおじさん刑事が相棒になっている。
解説が大倉崇裕さんなのも嬉しい。やはり山岳小説が多い大倉さんだが、登山の方はすっかりご無沙汰らしい。まぁあれだけハイペースで作品を書かれていたら登山に行く時間は作れないだろう。続きを読む投稿日:2021.06.03
<南アルプス山岳救助隊K-9>シリーズの4冊目。今度は新潮になった。
見慣れた北岳周辺の地図ではなくなったと思ったら、今回の舞台は幻の名峰として人気の新羅山(岐阜県のどの辺りにあるか調べたが架空の山だ…った…)。
やくざの世界から抜けるために誘拐を企てた男女と攫われた少年、彼らを追う組織に雇われたヒットマン、噴火の兆候を感じる火山地質学の大学教授、登山サイトで募集された山岳ツアーの参加者、そして救助犬チームの講演に招かれた夏実と静奈にメイとバロン。
前半は物語の舞台に集まってくる人々が丹念に描かれて、少しじれったくなるくらい。
しかし、舞台が整ってからは一気呵成。山は動き出し、教授は焦り、少年は脱出し、誘拐犯はそれを追い、ヒットマンは更にそれに迫り、ツアーの参加者はバラバラになり、救助隊は山に入る。
これでもかという噴火の描写に加えて、それぞれの行動が徐々に距離を詰め縦横に絡みあって畳み込むような展開に頁を繰る手が止まらず。
前作に続いて静奈とバロンが頼れるところを見せるが、今回はメイにも見せ場あり。異様な状況の中でも人を信じて駆け回る姿が出色。続きを読む投稿日:2022.04.16
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