東京貧困女子。―彼女たちはなぜ躓いたのか
中村淳彦(著)
/東洋経済新報社
作品情報
この本に登場する女性は、あなたの娘や妻かもしれない!
東洋経済オンライン2億PV突破の人気連載、待望の書籍化!
風俗で学費を稼ぐ女子大生、明日が見えないシングル派遣社員、子供たちの未来を奪うシングルマザー・・・・・・、
貧困に喘ぐ彼女たちの心の叫を「個人の物語」として丹念に聞き集めたノンフィクション。
いま日本で拡大しているアンダークラスの現状が克明に伝わってくる。
もっとみる
商品情報
- シリーズ
- 東京貧困女子。―彼女たちはなぜ躓いたのか
- 著者
- 中村淳彦
- ジャンル
- 教養 - ノンフィクション・ドキュメンタリー
- 出版社
- 東洋経済新報社
- 書籍発売日
- 2019.04.01
- Reader Store発売日
- 2019.03.29
- ファイルサイズ
- 1MB
以下の製品には非対応です
この作品のレビュー
平均 4.0 (123件のレビュー)
-
【感想】
「コロナで苦しい生活が続くから、風俗に美人が入る」と言って炎上したのはナイナイの岡村さんだった。この発言がモラル的に許されるかはさておき、事実、貧困と風俗嬢の供給には相関関係がある。水商売を…始める女性の大部分は生活苦による収入目当てだからだ。
ただし、裸やセックスの価格は今や暴落の一途となっている。もう10年ほど前から、裸の世界は一般女性であふれ返っており、安い店の嬢はそれだけでは暮らしていけない。稼いでいるのはひと握りのスペックが高い女性だけなのだ。
本書はそうした「貧困女性」を取り巻く現状を、当事者たちへのインタビューを通してまとめた一冊だ。本書で出てくる女性のほとんどが、生活費を稼ぐために水商売をしている。中には夜の生活が長く続いたため病気になり、社会復帰が困難になっている人もいるぐらいだ。
夜の仕事をしている女性に対して、世間は非常に冷たい。内容がわいせつであることもそうだが、何より水商売は「金の亡者」のような印象があるからだろう。
ただし、「やりたいことを全部やっているからお金がない」のか、「全てを我慢してもなおお金が足りないのか」は、大きく異なる。
ほとんどの女性は後者に該当する。例えば、冒頭に出てくる国立医大生の広田さん。彼女は高学歴でかつ美人だが、学費と東京での生活費の高さに圧迫され、勉強や部活に手が付けられていない。かといって時給1000円程度のアルバイトでは、ほんの足しにしかならず、貴重な時間をさらに無駄にするだけだ。そんなとき、「生きるために稼ぐ手段」として、「風俗」や「パパ活」が真剣に候補に上がってくる。
彼女に対するネットコメントは辛辣だ。「何で部活を辞めないのか」「部活と売春を天秤にかけて部活を選ぶなんてどうかしている」「自己顕示欲による軽率な行動だ」……。多くの人は彼女が「既に持っている女性」で、そこに+αが欲しいから水商売していると思っている。そして彼らは口々にこう言うのだ。「それって『貧困』なのか?」と。
だが、学生生活に必要なお金はあまりに多い。使える時間はあまりに少ない。その中で「効率的にお金を稼ぐ」という選択がベストなのは当然だ。もし風俗を嫌ってコンビニのアルバイトなどを選べば、それこそ真の貧困に落ちてしまうだろう。真っ当に働いて餓死するか、なりふり構わずカラダを売るか。選択肢の少ない学生がどちらを選んでも不思議ではない。
性風俗の中には、「自分の欲しい物が買えるようになる」という触れ込みのバイトが多い。そして、多くの男性はそれが目的だと誤解している。
だが、事情はそう単純ではない。彼女たちは「生きるため」にカラダを売っている。そして、水商売から卒業しても貧困の土台は変わらない。彼女たちは悪循環から抜け出せないまま、また貧困に落ちていくのだ。
――取材から明確に見えてきた未来は、終わりのないさらなる下り坂と、それにともなう苦しみ、目の前の人々が憎しみ合う分断だ。 たまたま転落することなく生き残った中流以上の人々は、離婚や養育費未払い、奨学金利用などの些細なキッカケで貧困に転落した人々に自己責任の暴言を浴びせかけ、これからもっと貧富、世代、男女で苛烈な分断がはじまる。そして、延々といがみ合って罵り合ってさらに沈んでいく。
――――――――――――――――――――――――――
【まとめ】
1 安くなるカラダ
裸の女性たちの取材は、ずっと東京を舞台に行ってきた。 貧困問題のフィールドワークという自覚はないながら、「もしかして日本はおかしくなっているのではないか?」と、うっすらと違和感を抱くようになったのは2006~07年あたりからだ。
裸どころかセックス映像を世間に晒して売る、というリスクの高いAV女優に「出演料が安すぎて、とても普通の生活ができない」という層が現れた。競争が起こるようになって出演料と撮影の数が減り、東京の高額な家賃に圧迫されて生活が苦しいという状態からはじまって、現在は自分の生活が支えられるのは上位の一部というところまで追い込まれている。
2000年代半ばから援助交際や売春の代金も本格的な下降の一途となった。カラダを売りたい女性が急増したために、価格が急降下したのである。
貧困は生まれや育ち、家庭環境、健康状態、雇用、政策や制度、個人や配偶者の性格、人格などなど、さまざまな要因が重なって起こる。現実は十人十色、それぞれである。問題解決の糸口を見つけるには、個々の生活をつぶさに見ることで真実を浮かび上がらせるしかない。
2 学費を稼ぐために体を売る
パパ活をしてお金を稼ぐ、国立医大生の広田さん。相手の男性に身元がバレるのが恐ろしいので、男性とはすべて偽名で接している。大学名やプライベートのことは、すべて噓をついている。お金のことで悩む、掲示板に書き込む、知らない男性とやり取りする、食事をする、セックスする、噓をつく、また不安で悩む、パパ活のすべてがストレスとなっているようだった。
「お金のためだけにやっていることです。だから、プライベートに入ってこられるのが怖い。結び付きが強くなるのは、ちょっと嫌だなって。だからパパといっても、すごく中途半端な感じ。あと大学1年の夏休みから風俗もやっています……。歌舞伎町のハンドヘルスです。」
彼女は絵に描いたような優等生であり、現在もこれまでも周囲には優等生しかいない。学業以外の知識や情報がないのと、また割り切りや柔軟性がないので、違和感ある行動をしている自分を責めていた。彼女はアンダーグラウンドであるパパ活も性風俗も、まったく向いていない。本来は歌舞伎町など歩くのさえもやめたほうがいい、といった女の子だった。
「彼氏に対しては、バレなきゃいいって。社会のことはまだよくわからないけど、お金を持っている人は持っているじゃないですか。まわりはみんな親からお金をもらえて、恵まれている。けど、私は普通にお金がない。そういう星の下に生まれたのだから、風俗で働いてお金をもらっても、それは仕方ないことなんじゃないかって」
裸やセックスの価格は世の中のデフレに最も巻き込まれている。価格は暴落の一途となっている。最も旬な年齢である現役女子大生といえども、3万円は相対的に「上の下」な価格である。
彼女の記事が東洋経済オンラインに掲載された後、数日間に及んで、続々と辛辣なコメントが書き込まれた。彼女の「学生生活に必要なお金が足りない」という悩みに寄り添う意見はほとんど見当たらず、基本的にカラダを売っている行為を誹謗中傷する意見がほとんどだった。
3 親の借金を返すために体を売る
親の借金を返すために風俗で働く、有名女子私大3年生の小倉くるみさん。筆者の「10年後、どうなっていると思う?」という質問にこう答えた。
「暗い話ですけど、たぶん自殺していると思います。将来のことはよく考えるけど、幸せな自分は当然、生きている自分の姿も想像つかない」
貧困家庭や不遇に育った女性ほど、自分のために合理的に稼ぐより、人の役に立ちたいという意識を持って低賃金の福祉系職に就く傾向がある。簡潔にいえば、親からの仕送りのない地方出身の単身大学生は、水商売か風俗をしなければ、学生生活は送れないということだ。彼女のように経済的な苦境に陥る女子大生は、膨大に存在している。男子大学生もまったく同じだ。
4 カラダを売ったことで生活が壊れた
学費と生活費に追われて、貧困に苦しむ現役女子大生。そのうちのひとり、山田詩織さん(仮名、24歳)は、現在、アルコール依存症で関東近郊の精神病院に入院している。
「カラダを売る自分はダメな人間だ、という感覚はなかった。ただ、夜の世界で仕事をしたことが、自分の中ですべてになってしまった。夜の仕事をしたことで大学に通えたし、留学もできた。お金がないっていう精神的な苦痛もなくなった。風俗が自分にとって、単なるお金を稼ぐための手段という以上の存在になって、自分が将来やりたいことを叶えていくための一時的な拠り所って方向には向かなかった。夜の世界が私の居場所になった」
女性がカラダを売る仕事に就くキッカケはほぼ100%が経済的な問題であり、もう10年ほど前から、裸の世界は彼女のような一般女性であふれ返っている。いま夜の世界の女性たちに、かつてのような過剰な消費を繰り返して破綻したり、闇金に手を出してやむをえず風俗で働いたりするというケースは数少ない。ほとんどの女性は月3万~5万円程度のお金が足りなくて、その選択をしている。
5 国と企業が貧困を作り出す
奨学金制度は貧困家庭の子どもも高等教育の機会が与えられるように、という建前だ。しかし、逃げ場のない貧困家庭の子どもに自己破産相当の負債を背負わせて、高等教育を活かして貧困の連鎖を防ぐどころか、決して少数ではない学生をさらなるマイナスに向かわせているのが現実である。
貧困女子大生たちの話から見えるのは、そこに転落する原因は親が低収入、親の離婚、親の虐待、経済的虐待などで、国の制度や中高年世代の無理解、自己責任論がその状況の悪化に拍車をかけていた。
企業は人件費圧縮のために女性を中心に雇用をどんどん正規から非正規に置き換えている。最低賃金の基準があってフルで働いているので貧困までいかないが、賞与もなく、昇進や昇給は望めず、長期的展望は見えようがない。現在、女性の非正規雇用率は55.5%と全体の過半数を超えてしまっている。
官製ワーキングプアとは地方自治体の役所や公共施設などで臨時職員、非常勤職員という形で雇用されている労働者のことだ。また低賃金が社会問題になっている介護職や保育士なども、賃金のおおよそは制度設計している国が決めるので官製ワーキングプアの範疇となる。介護や貧困の取材をしていると、国の意図や意向は透けて見えてくる。正直なところ、国や行政の公務員以外の職員には、お金を払うつもりはまったくないといえよう。公的事業を手伝ってくれる国民や市民を貧困層として生活させようという自覚があって、意図的に労働者を貧困ギリギリのラインに落とし込んでいる。
貧困を測る指標として「絶対的貧困」と「相対的貧困」がある。絶対的貧困は衣食住にも不自由して餓死を想定にいれるような絶対的な貧困状態のことをいう。先進国では一般的に「相対的貧困」が貧困の指標として使われている。相対的貧困は「世帯の可処分所得を世帯人数で割って算出した金額が全人口の中央値の半分未満」という定義である。厚生労働省「国民生活基礎調査」での可処分所得の中央値は244万円だった。その半分なので年122万円未満で生活する人は、相対的貧困に該当、貧困であるという判断がされる。
日本の貧困はOECD加盟国の中で7番目に高く、国際的には貧困化が進んでいる国という評価だ。
シングルマザーの貧困は簡潔にいえば、お金が圧倒的に足りないことがすべての原因だ。実家からの支援がない、非正規雇用しか就けないひとり親世帯の母親が、元夫に養育費の支払いを拒絶されるともう致命的だ。女性が男性並みに稼げれば、長女が高校進学を拒絶するような深刻な貧困には陥らない。
取材から明確に見えてきた未来は、終わりのないさらなる下り坂と、それにともなう苦しみ、目の前の人々が憎しみ合う分断だ。 たまたま転落することなく生き残った中流以上の人々は、離婚や養育費未払い、奨学金利用などの些細なキッカケで貧困に転落した人々に自己責任の暴言を浴びせかけ、これからもっと貧富、世代、男女で苛烈な分断がはじまる。そして、延々といがみ合って罵り合ってさらに沈んでいく。続きを読む投稿日:2022.08.09
貧困女性のエピソードをリアルに描いている作品。あまりに可哀想で、読んでいると辛くなってくるが、現実にこのような境遇の人がいると知る良いきっかけとなった。
ドキュメンタリーが好きな人、重めのストーリーが…大丈夫はぜひ読んで欲しい。続きを読む投稿日:2024.03.28
新刊自動購入は、今後配信となるシリーズの最新刊を毎号自動的にお届けするサービスです。
- ・発売と同時にすぐにお手元のデバイスに追加!
- ・買い逃すことがありません!
- ・いつでも解約ができるから安心!
※新刊自動購入の対象となるコンテンツは、次回配信分からとなります。現在発売中の最新号を含め、既刊の号は含まれません。ご契約はページ右の「新刊自動購入を始める」からお手続きください。
※ご契約をいただくと、このシリーズのコンテンツを配信する都度、毎回決済となります。配信されるコンテンツによって発売日・金額が異なる場合があります。ご契約中は自動的に販売を継続します。
不定期に刊行される「増刊号」「特別号」等も、自動購入の対象に含まれますのでご了承ください。(シリーズ名が異なるものは対象となりません)
※再開の見込みの立たない休刊、廃刊、出版社やReader Store側の事由で契約を終了させていただくことがあります。
※My Sony IDを削除すると新刊自動購入は解約となります。
お支払方法:クレジットカードのみ
解約方法:マイページの「予約・新刊自動購入設定」より、随時解約可能です続巻自動購入は、今後配信となるシリーズの最新刊を毎号自動的にお届けするサービスです。
- ・発売と同時にすぐにお手元のデバイスに追加!
- ・買い逃すことがありません!
- ・いつでも解約ができるから安心!
- ・優待ポイントが2倍になるおトクなキャンペーン実施中!
※続巻自動購入の対象となるコンテンツは、次回配信分からとなります。現在発売中の最新巻を含め、既刊の巻は含まれません。ご契約はページ右の「続巻自動購入を始める」からお手続きください。
※ご契約をいただくと、このシリーズのコンテンツを配信する都度、毎回決済となります。配信されるコンテンツによって発売日・金額が異なる場合があります。ご契約中は自動的に販売を継続します。
不定期に刊行される特別号等も自動購入の対象に含まれる場合がありますのでご了承ください。(シリーズ名が異なるものは対象となりません)
※再開の見込みの立たない休刊、廃刊、出版社やReader Store側の事由で契約を終了させていただくことがあります。
※My Sony IDを削除すると続巻自動購入は解約となります。
お支払方法:クレジットカードのみ
解約方法:マイページの「予約自動購入設定」より、随時解約可能ですReader Store BOOK GIFT とは
ご家族、ご友人などに電子書籍をギフトとしてプレゼントすることができる機能です。
贈りたい本を「プレゼントする」のボタンからご購入頂き、お受け取り用のリンクをメールなどでお知らせするだけでOK!
ぜひお誕生日のお祝いや、おすすめしたい本をプレゼントしてみてください。※ギフトのお受け取り期限はご購入後6ヶ月となります。お受け取りされないまま期限を過ぎた場合、お受け取りや払い戻しはできませんのでご注意ください。
※お受け取りになる方がすでに同じ本をお持ちの場合でも払い戻しはできません。
※ギフトのお受け取りにはサインアップ(無料)が必要です。
※ご自身の本棚の本を贈ることはできません。
※ポイント、クーポンの利用はできません。クーポンコード登録
Reader Storeをご利用のお客様へ
ご利用ありがとうございます!
エラー(エラーコード: )
ご協力ありがとうございました
参考にさせていただきます。