ものすごくうるさくて、ありえないほど近い
ジョナサン・サフラン・フォア(著)
,近藤隆文(訳)
/NHK出版
作品情報
全米ベストセラー、人気若手作家による9・11文学の金字塔、ついに邦訳。9歳の少年オスカーは、ある鍵にぴったり合う錠前を見つけるために、ママには内緒でニューヨークじゅうを探しまわっている。その謎の鍵は、あの日に死んだパパのものだった・・・・・・。全米が笑い、感動して、心の奥深くから癒された、時代の悲劇と再生の物語。ヴィジュアル・ライティングの手法で編まれる新しい読書体験も話題に。
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商品情報
- シリーズ
- ものすごくうるさくて、ありえないほど近い
- 著者
- ジョナサン・サフラン・フォア, 近藤隆文
- 出版社
- NHK出版
- 書籍発売日
- 2011.07.28
- Reader Store発売日
- 2019.02.20
- ファイルサイズ
- 34.1MB
- ページ数
- 488ページ
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この作品のレビュー
平均 3.9 (101件のレビュー)
-
『一度、真夜中に目が覚めたら、バックミンスターの足がぼくのまぶたの上にあった。きっとあいつはぼくが見たこわい夢をさわっていたんだろう』-『グーゴルコンプレックス』
ここには、一義的な正義に対する柔ら…かな批判があって、喪失に対するセラピーの処方箋があって、果たせなかった約束に対する無言の言い訳があって、それに対する雄弁な許しがあって、シニカルなユーモアがあって、シリアスなペーソスがあって、何にもまして混乱がある。文字は無力で、言葉は何も残せなくて、文字で埋められた紙を積み上げた山はビルを燃やす燃料になったり、埋められて永遠に伝えるという重荷から言葉を解放したりするってことは、それだけ聞けばおとぎ話のように聞こえてもしまうけれど、しっかりと現実の重さを持った出来事で、だから自分は本を読んでいるようでいてもちっとも本を読んでいるような気持ちにはなれないけれど、何かが身体の表側から裏側へものすごい勢いで通り抜けてゆく感覚だけはとてつもなく感じてしまう。その感覚で、この本の中にあることは現実の重さを持ったことなんだということだけは、解ってしまう。
あの夜、いつまでもテレビの前から離れられなかったのを思い出すし、その直後に単身で海外に赴任したことや、この前の大震災の時もまた家族と離れて海外で暮らしていたという今の自分の在り方のことにもやっぱり思い至ってしまい、強烈に無力を感じたりする。結果として何でもなかったということと、何かあったらどうするということの間には、永遠に解り合えない溝があって、そのこちら側からあちら側へ自分自身を移動させることは、本当は無理なことなのに、でも僕らはその無理を難なくこなす。「もし」を忘れたことにして。
こういう本は、本の中の物語がどうこうというよりも、自分の中の物語に常に引き戻されてしまうような本だと思う。それは、余りに強烈なフラッシュを見たとしても、脳がそれを受け入れるのを拒否してしまうのと同じ原理が働くからだし、それでもどうしようもなく残ってしまう視覚的残像に手持ちの意味を脳が張り付けるのと同じ作用が起こるからだ。
あるいは、自分の身を現実の世界から引き離して映画を見るようにこの物語を眺めていれば、時間の経過と供に一つの謎は一つの行動を引き起こし、一つの行動が次の物語に繋がってゆくのを、遠く離れた世界の出来事としてみてやることもできて、ああそれはいい話の展開だなとか、随分実験的な小説だなあとか、そんな感想をつぶやくことだってできる。でもそれは、自分がその時間を生きてきたことに対する裏切りでもあって、例えば村上春樹のアンダーグランドを読むことや、ドン・デリーロのFalling Manを読むことと、この本を読むことは基本的に同じ地平線の上にある行為でしかありえない。もちろん、ドレスデン大空襲や広島の原爆投下のことが過去から現在の物語の中に挿しこまれるのには意味がある。その意味は自分の善みたいなものに刺さってくる。
忘れたいことは常に忘れてしまうことができずに、忘れたくないことは簡単に忘れてしまうのは、一体どうしてなんだろう。続きを読む投稿日:2012.02.07
文字通り「ものすごくうるさく」て「ありえないほど」訳がわからなくて、1ページあたりの情報量が多い本書。今年の7月に神保町の書店、豊崎由美さんの棚でこの本を見つけた時は、その夥しい付箋や書込みの量に驚い…たけれど読んでいる間は全然気にならず、むしろ赤くて細い線の文字や鉤括弧、棒線に励まされるような不思議な気持ちになった。もし、同名映画を観ていなかったら、そして実際に豊崎由美さんが所有していた本じゃなかったら途中でギブアップしていたかもしれないが、結末を知っているからこそ今のタイミングで読めて良かった。「圧倒的な力で襲いかかってくる歴史の悲劇に愛するものを奪われ、それでも立ち直ろうとする家族の姿」
訳者あとがきにある文章が忘れられない。
#豊崎由美 #PASSAGE続きを読む投稿日:2023.09.15
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