この作品のレビュー
平均 4.2 (34件のレビュー)
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このレビューはネタバレを含みます
読了2012/02/23
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【まとめ】
Ⅰ、不思議な存在としての会社
近代市民社会のもとにおける法人としての会社には、株主に所有される「モノ」としての側面と会社資産を保有する「ヒト」としての側面がある。会社の形態を巡る争いは、両者のうちどちらに重きをおくかという立ち位置の問題であった。コーポレートガバナンスはこの両義的な立ち位置を巡る争いから生じている。
法人は会社を契約主体とするものであり、法人制度は契約関係を安定化させるためのものとして生まれた。ここで、法人は観念的なものであるため、実際の運営には手足となって働く専門的な経営陣が必要とされる。しかしながら、法人の代表として彼らが結ぶ契約は、得てして自己契約になる恐れがある。これを防ぐために、(信任義務など)法律上、経営者には信認受託者としての一定の倫理性が課せられている。経営と所有を近づけようと言うアメリカ型のコーポレートガバナンスは、所有と経営の一体化した古典的企業のガバナンスと株式会社のそれを同視する理論的誤謬であり、この倫理性を解放したため必然的に失敗する。
Ⅱ、おカネの支配力の低下
ポスト産業資本主義においておカネの支配力は低下する。ポスト資本主義においても、差異性から利潤を獲得する資本主義の本質は変化しない。しかし、ポスト産業資本主義の時代は、「情報の商品化」など、差異性を意図的に創出し続けることが必要とされ、重厚長大な設備投資を行い労働生産性を高める産業資本主義とは異なる。そこでは従業員が築く人的資産の重要性が高まる。それはインセンティブによって引き出せても、おカネで買うことは出来ない。このことから、おカネとヒトの重要性が後者に傾き、株主主権論が主流化することはない。会社に求められるのは、従業員たちが、組織特殊的な人的資産を共同で築けるような心地よい環境である。株主からの支配(ホールドアップ)を拒み、長期的関係から従業員間の信頼を維持することが会社にとって重要となる。
【感想】
インタビュー形式だったためか、やや冗長な印象で2/3ぐらいにまとめられる感じがした。
基本的に、『モノとしての会社≒株主主権論≒欧米型コーポレートガバナンス≒法人名目説』に『「ヒト」としての会社≒法人実在説≒筆者のコーポレートガバナンス』を対置し、前者が企業と会社の混同から生じた理論的誤謬で、日本とは馴染みにくく、実際失敗しているかを示し、後者が倫理性の点で勝っており、ポスト産業資本主義に相応しいものかを説くものとなっている。
日本的経営はポスト産業資本主義に必要とされる組織特殊的な人的資産を育む制度として優れた面が合った。しかしそれは高度に産業資本主義的な会社として適応しすぎており、ポスト産業資本主義に相応しい形にはなっていないという主張には既視感ならぬ既聴感がある。戦前の軍隊よろしく日本の「家」制度的な官僚制度なのだなあと変に納得してしまった。
山本七平はかつて、日本の「家族的組織」について、家族は目的を持たずその存続のために機能することが望まれ、そのために、目的のために正当化は必要とされず、自身の存続のための調和が必要である。組織が目的に対応して正当化出来ている間は、家族内部の調和によって最大の力を発揮する。その一方で、目的から自己正当化できなくなっても家族的調和の原則は存続してしまうから、目的に対応出来ないまま存続し続ける。との旨を述べたが、もし筆者の言うようにポスト産業資本主義では、会社の新陳代謝が高まり、寿命は短くなるとすれば、どのようにして生存のみを組織の目的とする「家族的組織」の新陳代謝を高めうるのだろうか?短期的に痛みを伴う大改革か、現在ある仕組みからのモデルチェンジか?
山本氏は、この問いについて、日本人の日常性という規範が変化しない限り、つまり日本人が日本人である限り根本的に解決は出来ないとする。よって、考えるべき問題は、家族的組織が植物組織化(植物状態化)した際に、いかに倒産させ、遺産を継承しながら、いかにその構成員を別の組織に調和的吸収し、新しい組織的家族に相続させるかである。今要請されるのは、新しい事態へ対処するために自己の伝統、すなわち通常性の規範に基づいて、もっとも少ない混乱による社会改革の方法論を考えることである、と『なぜ日本は変われないのか』で述べている。「停滞」への焦りから、「欧米仕込み」の改革に飛びつくことだけは辞めてもらいたい。投稿日:2012.02.23
書店で目に付き購入しました。これまで岩井氏の本は何冊か読んでいましたので、その意味で本書はこれまでの岩井氏の主張のおさらい、という位置づけでしたが、大変読みやすく改めて岩井理論の面白さを再確認できまし…た。岩井氏の主張を一言でいうなら、会社はヒトでもありモノでもある存在ということ、そしてその中心に位置しているのはフィドゥーシャリー・デューティ(信任義務)だ、ということです。
私自身はこの主張に同意できましたし、本書を読むにつれ、いかに世間の多くの識者の視野が狭いか(あたかも「群盲象を撫でる」という故事のように)、またロナルド・コース流の、会社は情報流通の効率化のために組織化されている(つまり社外の人との取引費用が大きいため会社が組織化されている)、という取引費用理論が本質をついていないということを再認識しました。
本書ではまったく議論されていませんが、本書の法人理論を読むにつれて、はたしてAI(人工知能)はどのような存在として将来位置付けられるのだろうかと感じました。おそらく遠くない未来に、人工知能にも「人格」を与える、という国が登場するでしょう(これまでの例にもれず英国あたりがその最初の国かもしれません)。するとAIはヒトかモノかという論争がビッグイシューになるであろうこと、その際は、「A or B」ではなく、岩井氏の法人論のように「ヒトでもありモノでもある(A and B)」存在としてとらえるべきなのだろう、と本書を読んで想像を膨らませました。続きを読む投稿日:2023.05.08
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