限界の現代史 イスラームが破壊する欺瞞の世界秩序
内藤正典(著)
/集英社新書
作品情報
シリア、イエメンなど中東で頻発する虐殺や弾圧、それから逃れる大量の難民、欧米で繰り返されるテロなどの問題に対して有効な手立てを失った国際社会。その背景には、アメリカ、EU、国連、領域国民国家、西欧啓蒙思想など、第二次大戦後の世界の安定を担ってきたシステムと秩序の崩壊という現実がある。この崩壊過程の末には何があるのか? トルコを中心としたスンナ派イスラーム世界の動向と、ロシア、中国といった新たな「帝国」の勃興を見据え、展望を解説する。現代の“限界”の理由を概観し、文明の衝突を超え、日本はどうあるべきかを考えるための、現代史講義。 【目次】はじめに/第一章 限界のEU、啓蒙の限界/第二章 限界の国民国家/第三章 限界の国連/第四章 限界を超えるためのパラダイムを求めて/終章 帝国の狭間で/おわりに
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商品情報
- 著者
- 内藤正典
- 出版社
- 集英社
- 掲載誌・レーベル
- 集英社新書
- 書籍発売日
- 2018.10.22
- Reader Store発売日
- 2018.11.16
- ファイルサイズ
- 2.3MB
- ページ数
- 256ページ
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この作品のレビュー
平均 4.7 (6件のレビュー)
-
内藤正典氏(1956年~)は、中東の国際関係を専門とする地理学者・国際政治学者。
本書は、著者曰く「私が専門とする中東とヨーロッパ、イスラーム地域を切り口に現代の「限界」を浮き彫りにしようとする試み」…であり、80年代前半にシリア、90年代前半にトルコに留学した経験を活かし、「シリアとトルコとヨーロッパ諸国で起きてきた地殻変動をつないで、世界的な規模での危機の構造を描こうとした」ものである。
本書では、書名に表された、今や「限界」にあるものとして、「EUの限界と(進んでいるヨーロッパが遅れている他世界を見下した)啓蒙の限界」、「国民国家の限界」、「国連の限界」を示している。
しかし、読み終えてみると、それらは独立した問題ではなく、突き詰めれば、ヨーロッパが「共通で普遍的な価値観」と考えて疑わなかったパラダイムが、実はそうではなく、その限界と矛盾が露呈して様々な問題が起こっているのだということがわかる。大航海時代から産業革命以降の世界の大きな潮流は、他地域に先駆けて近代化を果たしたヨーロッパが、自分たちの価値や制度を他地域に押し付け、それと異なる考え方に立つ価値や制度を排除しながら相手を征服して地球規模に広げてきたということであるが、そうした「exclusiveなグローバリズム」は限界に達したのである。
著者はイスラーム地域の専門家であり、そうしたヨーロッパのパラダイムと異質のものとして、現在対立が最も表面化し危機的状況にあるとも言えるイスラームについて詳しく述べているが、問題の本質を「ヨーロッパ対イスラーム」に求めてはいない。重要なことは、世界にはヨーロッパ以外の複数のパラダイムが存在することに気付き、お互いにそれらのパラダイムを認めることである。パラダイムの相違は「違い」であって「優劣」ではない。それを認めようとしないと、自分たちのパラダイムで相手を差別し、見下し、敵意を持ち、疎外する。そして、そうした姿勢を正当化しようとすれば、衝突が起こることになる。それらを避けるためには、双方のパラダイムを尊重し、(ヨーロッパ的パラダイムが作り出した)国家という枠組みを超えて、その差異を柔らかく内側に包み込むことのできる「inclusiveなグローバリズム」をめざさなくてはいけないとしている。
また、21世紀に入ってからの「ヨーロッパ対イスラーム」の対立は、サミュエル・ハンチントンの「文明の衝突」の理論が顕在化したものと説明されることが多いが、著者はそれについて、ハンチントンの「文明の衝突」は“理論”ではなく“シナリオ”であり、「文明の衝突」が起こったのは、その理論が正しかったからではなく、そのシナリオに沿って、イスラーム文明が西洋文明に敵対するものと見做され、意図的に引き起こされたのだと述べているが、上記の文脈を踏まえると、その見解も説得性がある。
私は、イスラームのパラダイムについての積極的な賛否は持たないが、著者の「ヨーロッパ的パラダイムによるグローバル化の限界」と「それを乗り越えるための多様なパラダイムの尊重の重要性」という主張には全面的に同意するし、非ヨーロッパ人である我々こそ、それを声に出し、世界の変革をリードしていかなくてはならないと思うのである。
(2018年11月了)続きを読む投稿日:2018.11.04
このレビューはネタバレを含みます
著者の筆の勢いから著者の危機感がひしひしと伝わって来る。
レビューの続きを読む
西欧諸国が築いてきた世界秩序及び領域国民国家の欺瞞が崩れ始め、欧米は保護主義化し、今後、ムスリム同士の連帯は「領域」を超えて拡大し、敵対的…共存という難しい政治バランスをとるトルコとロシアを例に帝国割拠の世界における外交の困難さも極めることを示し、米国に依拠してきた日本の外交のあり方やその意識に危機感を顕わす。
本著者の講義を受けている、または研究を指導されている学生が羨ましい。続きを読む投稿日:2020.12.20
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