ひみつの王国―評伝 石井桃子―(新潮文庫)
尾崎真理子(著)
/新潮文庫
作品情報
ノンちゃん雲に乗る、クマのプーさん、ピーター・ラビットなど作家・翻訳者・編集者として幾多の名作を世に送り出し、溢れる才能のすべてを「子ども時代の幸福」に捧げた101年の生涯。200時間に及ぶインタビューや書簡、綿密な取材をもとに、戦前戦中の活動や私生活にも迫る。子どもの本で人々を勇気づけ、児童文学の星座で強い光をはなつ石井桃子の稀有な人生を描いた、初の本格評伝。(解説・川本三郎) ※当電子版には、新潮文庫版に掲載の写真の一部は収録しておりません。ご了承ください。
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商品情報
- 著者
- 尾崎真理子
- ジャンル
- 教養 - ノンフィクション・ドキュメンタリー
- 出版社
- 新潮社
- 掲載誌・レーベル
- 新潮文庫
- 書籍発売日
- 2018.04.01
- Reader Store発売日
- 2018.09.21
- ファイルサイズ
- 26MB
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この作品のレビュー
平均 4.6 (8件のレビュー)
-
2020.8
石井桃子さんの人生。激動。石井さんの歴史がこれでもかというほど書かれていた。石井さんが生前語らなかったことも深く掘って書かれており、なんだか石井さんに怒られそうだなと思いながらひたすら読…む。この方がいなかったらどうなっていたのかと思うほど日本の児童文学の根っこを作ってきた人だか、それも一面。児童文学以外でも様々な人に出会い、縁に導かれ、道を切り開いてきている。印象的なのが「手紙をかく」ということで人と繋がり続けていること。何をしていても「物語」と「書く」っていうことはずっとあった。そこに信念があったのかもしれないと思う。死ぬまで。年齢は言い訳にならない。いくつになっても死ぬまで自分の物語は紡ぐことができるんだな。
続きを読む投稿日:2020.08.17
この夏読んだ「働くわたし」の中にブックガイドがあって、そこで紹介されていた石井桃子、いや幼い日の記憶にある、いしいももこの評伝です。かなり厚めの文庫でしたが圧倒的な面白さ。ご本人の山荘のある軽井沢での…ロングインタビューをベースに新聞記者ならでは取材力と推論の組み立て、要点を明確にする簡潔な文章で、「くまのプーさん」「小さなおうち」「ピーター・ラビット」などの翻訳、あるいは「ノンちゃん雲に乗る」などの著作で児童文学の巨大な最高峰である石井桃子の101年の人生を大きく描き出しています。「しゃべりすぎた」「聞きすぎた」「生きている間は書かないように」というように本人の中だけの箱をあける作業も含めて、頂きだけ仰ぎ見ると眩しすぎる桃子山の山麓の小道を調べ尽くしているし、本書にも描かれない場所もまだまだあるのだと思われます。その調査取材が秘密を明らかにする、というものではなく、そもそも石井桃子の著作により本が好きになるという原体験を得て、さらには読売新聞の女性記者のフロントランナーとして念願の文芸欄の担当になった著者の石井桃子への憧憬と共感があるからこその仕事になっています。本書の巻頭にも「大人になってからのあなたを支えるのは、子ども時代のあなたです」という石井桃子の言葉を掲げています。YouTubeに著者が本書によって2016年の日本記者クラブ賞を受賞した時の記念講演がアップされていて、尾崎真理子記者がいかに本書に向き合ってきたかが、本人の声で語られていてグッと来ます。本書で描かれる石井桃子山を登る道は、まずひとつ、大正から昭和へかけての出版文化の流れ、文藝春秋や岩波書店での編集者としての仕事によって石井桃子が石井桃子になる下地としての道です。ふたつめは、同時代の働く女子との絆、これは作家として一生のエンジンになるものだったのかもしれません。これはウィラ・ギャザー、エリナー・ファージョン、ビアトリクス・ポターなどの海外の女性の仕事からのインスパイアも含まれるかもしれません。みっつめは、生涯独身だった彼女の恋です。ここに「ノンちゃん雲に乗る」誕生の秘密が隠されています。よっつめは、戦前の仕事と戦後の仕事の境目の「ノンちゃん牧場」のこと。石井桃子がもっとも触れられたくなかった時代です。しかし出版界や作家の世界が戦争責任をあいまいにしたのに比しての真面目さ、と生活することの大変さ、を正面から受け止めた証です。いつつめが、「幻の朱い実」(知らなかった!)という児童文学を超えた仕事について、です。本当は作家になりたかった、という憶測を超えて、自分の中にある「私というファンタジー」に向けて書かれた、というこの作家の本質を見出します。本書は文庫版でしたが単行本版も含めて表紙に使われているのはヘンリー・ダーガー。現在、東京芸術大学美術館で展覧会が行われているアール・ブリュット、アウトサイダー・アートが有名になるきっかけの人ですが、石井桃子も、子どもに向けているだけでなく、自分の内側への語り掛けが、作品なのだ、というこれも尾崎記者ならではのすごいボールだと思いました。とにかく満喫、すごい本ありがとうございました!続きを読む
投稿日:2020.08.30
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