平安保険グループの衝撃―顧客志向NPS経営のベストプラクティス
ジャーイン・シュ(著)
,チャン・ホン(著)
,株式会社ビービット(翻訳)
/金融財政事情研究会
作品情報
中国の金融コングロマリットが実践する「顧客本位の業務運営」の真髄
徹底的に現場の業務に落とし込まれた世界最高レベルの顧客体験を提供するメソッドとは
NPS(ネットプロモータスコア)
顧客が製品やサービスをどの程度ほかの人に勧めたいと感じているか調査し、顧客の自社製品・サービスに対する愛着度合いを点数化する手法
「今回、本書の翻訳・監修を行っているビービットは、長年顧客体験(UX)向上のコンサルティングに従事してきた(中略)、いままではわれわれの知見とあわせてアメリカ企業の事例を紹介することが多かった。NPSという顧客ロイヤルティを測る指標がアメリカで生まれたように、顧客体験の研究・実践でアメリカが世界に先駆けていたためである。
しかし、実は現在では、中国企業の事例を紹介する機会が増えてきている。なぜならば、中国では顧客体験競争が熾烈を極め、顧客体験の研究・実践に各社が取り組まないと生き残れない状況になっており、その結果優れた顧客体験を提供する企業が続出しているためである」(訳者前書きより)
平安グループ:
1988年に深センで保険会社として設立された。保険を中心に銀行・証券・消費者金融など金融業界全般に進出し、さらに娯楽・移動・住居・医療といった生活全般にかかわるエコシステムを構築している。その時価総額は中国の非国有企業でテンセント、アリババに次ぐ第3位となっている(2018年1月時点)。
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この作品のレビュー
平均 3.3 (5件のレビュー)
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第3編 平安のNPS向上の実践例に、要旨が集約されてる。
メーカー↔︎小売 的な流れで商売してる業界は参考になるかと。
第3編の内容をもっと知りたいから、この部分を深掘りしてほしい。
#平安保険グ…ループの衝撃
続きを読む投稿日:2018.10.21
もちろん、中国平安は顧客からの評価もすこぶる高い。ビービットは中国にもオフィスをかまえており、現地でもいままで数千人に対してインタビューを行ってきたが、平安保険の調査を行った際は耳を疑うような発言が…続出しとても驚いた経験がある。平安保険のユーザに調査を行うたびに、「平安は私の生活を守ってくれる存在なんです」「平安保険は大好き!」「電話は基本出ないことにしているけど、平安保険の営業マンは私のためになることをやってくれる信頼があるから、この人からの電話だけは絶対出るんです」という発言が続出したのである。…なお、中国平安は現在NPSの実数は公表していないが、NPSを使い始めてからすでにグループ全体では11ポイント、子会社の平安人寿(生命保険会社)は32ポイント、平安産険(損害保険会社)は33ポイント、平安証券(証券会社)は27ポイント、NPSを上げているとのことであり、定量的に見てもかなり高い水準に位置していることが容易に想像できる。
■顧客接点NPS計測システム
①各接点におけるアンケートの自動送信
このシステムでは、顧客データ、業務システム、接触履歴、アンケートプラットフォームを連携させることにより、顧客との接触が発生した瞬間にシステムがそのことを認識し、その接触がどのチャネルで起こっているかにかかわらず、自動でリアルタイムに調査アンケートが送信できるようになっている。例えばオフラインの店舗での保険加入やカスタマーセンターへの電話、PCやスマートフォンでのインターネットバンキングを利用した送金、クレジットカードの利用、アプリやWeChat公式アカウントでの取引など、どんな顧客のどんな接触でも、この顧客接点NPS計測システムによる調査対象になりうる。
②接触チャネルごとにアンケート送信方法を自動選択
平安グループと顧客の接点となるチャネルは、店舗、営業員、電話や自動応答の音声、ショートメッセージ(SMS)、ウェブサイト、アプリ、WeChat公式アカウント、店頭の端末、ダイレクトメール、電子メール、保険代理店のスタッフなど、40種類を超える。接触するチャネルが違えばそこで得られる体験も変わるので、リアルタイムで送信されるアンケートにも、それぞれのチャネルに適した送信方法が求められる。たとえば、オフラインでの接触であれば、ショートメッセージやアプリを通してアンケートを送信する、オンライン接触ならそのまま同じチャネル内で質問する、電話ならば数字キーでNPSの点数を入力できるようにする、といったように、バラエティに富んだ調査機能を備えた調査プラットフォームこそが、顧客体験調査のチャネル別最適化の基礎になる。
③顧客の体験を損なわないための計測の自動制御
平安グループと顧客の接触は、1日で数億件にのぼる。また、1人の顧客が平安グループ内の複数の企業やチャネルと接触をもつともよくあることだ。すべての接点で調査を実施し回答を求めることは、企業にとって非効率なだけでなく、顧客にとっても迷惑である。そのため、調査は有効な結果を得るた めの最小数を目標サンプル数として設定し、アンケート送信の上限数やサンプリングのルールを決めている。 そして、接触量に応じて各接点でのサンプリングの複雑性を決定し、抽出データが母集団の傾向をきちんと表すようにしている。サンプリング実施前には「迷惑防止フィルター」を設定し、1人の顧客に 対して会社や複数チャネルから同時にアンケートが送信されないようにすることで、顧客に対して最大限の配慮を行っている。
④24時間以内のフォロー体制
各接点でのNPS回収の結果、点数の低い顧客へは24時間以内 にアウトバウンドコールを実施している。ネガティブになって る理由を把握し、 実際に起きている問題の解決に向けて顧客 をサポートすると同時に、会話のなかから顧客体験改善のカギ となる課題を明らかにしていく。 アウトバウンドコールの実施 判断やスクリプトの作成、電話終了後に行う会話のテキスト分 析、分析結果の類型化なども膨大な労力のかかる作業ではある が、 顧客体験マネジメントのサイクルを回すためにはきわめて 重要なステップである
⑤ダッシュボードの自動管理
現在、平安グループ内で調査を行う顧客接点は90に達し、毎月100万件以上の有効な回答がある。この巨大な顧客体験計測システムでは、日々数え切れないほどの「お客様の声」が記録されるが、そのなかから重要なものをピックアップし、わかりやすく経営層に報告することも、重要な機能の1つである。そこで平安グループは、グループ各社向けに顧客接点NPS計測システムのダッシュボードを開発し、各接点における顧客体験の状況や問題点がいち早く経営層に届くようにした。
それに加え、貴重な顧客の生の声を一元管理することは、将来のデータ活用におおいに役立つと考えられる。接触履歴や行動データから導き出されるインサイトは、これまでにないインパクトをもつだろう。また、グループ全体で統合して開発することでROI(投資対効果)も高く、複数の子会社が同じ機能を利用できるため、各社のコスト削減にもつながる。
■セブンフォース
・ブランド力:企業に関する口コミ、ブランドイメージ、企業の規模と実力、ブランドに対する信頼度や親しみなど。
・商品力:種類が豊富か、顧客のニーズにマッチしているかどうか、商品の組合せに柔軟性があるか、商品紹介や利用方法は顧客にとって便利か、など。保険商品については、上記に加えて「補償範囲が十分か」という観点も加わる。
・価格力:オーソドックスな定義としての価格以外に、銀行やクレジットカードなどの業界では、各種金利も価格力の一 部とみなす。保険業界では保険料自体が価格である。
・販売力:販売スタッフの専門性や信頼感、顧客のニーズにあったものを勧められるか、販売プロセスは便利か、販売方法には新しさがあるか、販売チャネルは多様でアクセスしやすいものになっているか、など。
・サービス力:狭義にはスタッフによって提供されるサービスについて、スタッフの態度や積極性、レスポンスのスピードやサービスへの付加価値を意味するが、 カスタマーセンターのパフォーマンスや課題処理能力も加味されることがある。また、業界特有のサービス形態が存在するケースもあり、たとえば保険業界では保険金支払査定の手続における接触も一種のサービスとみなすことができる。
・マーケティングカ:企業の広告やプロモーション活動、販促キャンペーン等のこと。広告のビジュアルイメージが魅力的か、広告・ポスター・キャンペーン等をよくみかけるか、など。クレジットカード業界ではマーケティング活動の定義はさらに細分化され、バラエティに富んだものになっている。
・イノベーションカ:これまでの6つのドライビングファクターと比べて、非常に特殊で実態を正確にとらえることがむずかしいため、「未知力」や「テクノロジー力」と呼んでもよい。従来のリサーチレポートや産業白書でイノベーション力について言及しているものは、あまり多くない。一方で、 近年はフィンテックの発達によって従来型金融業でも多くの変化が起き始めていることを考えれば、イノベーション力が無視できないファクターになりつつあることがわかるだろう。平安グループが提唱するセブンフォースモデルではイノベーション力をファクターの1つとして取り入れ、 イノベーションを継続的に起こす力、と定義している。イノベーション力の例としては、継続的に革新的な商品、革新的なサービス、革新的なカード、革新的な支払方法(Apple Payなど)、革新的なやりとりの仕方などを打ち出すことがあげられる。また、多くの調査結果からは、顧客は企業のイノベーションに対してわれわれの予想を遥かに上回る興味もっていることがわかっている。
■生命保険
業界全体でみられる「セールス偏重、サービス軽視」のペインポイントを解消するため、多くの保険会社が課題に向き合い、解決に向けて積極的に努力している。ある有名生命保険会社A社は、2015 年からアプリ開発に注力し、営業職員をカギとしたO20(Online to Offineの略)の顧客経営を推進してきた。同社は業務部門の変革と、サービスドリブンのセールスというコアコンピタンスの構築に有効な試みを行っている。A社のアプリは生命保険のアカウント管理機能だけでなく、健康にまつわる各種機能や、生活に役立つ情報の提供機能、SNS機能も充実している。オンライン会員制度を通じて、新生活キャンペーンや楽しくウォーキングを続けられるような機能を提供し、店舗でのオフラインの活動とも組み合わせて運用することで、営業職員が顧客管理を行ううえでアプリを活用できるようにし、営業職員と顧客、企業と顧客の接触頻度が向上したことで顧客のロイヤリティも向上した。
■LCCHシステム(Life Customer Contact History)
LCCHシステムは、Life Customer Contact History、すなわち顧客との接触履歴を一元的に管理するためのプラットフォームである。
このシステムでは、顧客ごとに過去に発生したさまざまなやりとりの記録を収集し、顧客一人ひとりのサービスカルテを作成する。ここでは、これまで提供したサービスが何で、まだ提供していないサービスが何かの管理や、あるいは、その顧客がどのようなサービスを好むのかの予測も行われる。 顧客ごとの保険契約の内容を緻密に分析し、顧客のニーズを深く理解できるようになったため、より専門的で、より顧客の状況に寄り添ったサービスの提供が可能になり、平安の顧客体験の継続的な向上に役立っている。
LCCHシステムは、主に「タイムライン」「ペルソナ」「ティップス」の3つの機能で構成されている。
平安生命の内勤スタッフや販売代理店は、「タイムライン」機能を使って、ある顧客とのそれまでの履歴や、サービスの提供履歴をみることができる。「ペルソナ」機能では、それぞれの顧客の 個性や嗜好を把握でき、「ティップス」機能を使えば、その顧客の潜在ニーズや、サービスに対してどのような要望をもっているのか手がかりが得られる。
LCCHシステムは、顧客のことを顧客自身よりも深く理解し、よりよいサービス、よりよい体験、より適切なオンラインサービスを 提供できるようにするプラットフォームなのである。以下にLCCH システムの3つの機能についてご紹介する。
・タイムライン・・・時間軸に沿って、さまざまなチャネルで発生した接触の履歴(たとえば、各種手続の申請、問合せ、ウェブサイトの閲覧、営業職員とのやりとりや、その際の顧客体験の詳細な ど)を記録する機能。 サービス提供側はタイムラインを通じて総合的に顧客との過去の接触状況を確認することができる。
・ペルソナ・・・顧客のペルソナを作成することで、 LTV (顧客生涯価値やニーズ・嗜好を分析し、顧客のライフステージや、保険商品の保有状況、行動特性や期待されるLTVなど、カギとなる要素についてラベリングを行う機能。特に、現時点でのLTVと、潜在的なLTVの予測をふまえた「LTVラベル」は、サービス提供における資源配分を決める重要な要素となる。また、顧客調査から得られた「顧客ニーズラベル」によって、より適した商品・サービスを提供しやすくなる。
・ティップス・・・接触履歴の分析に加え、保険契約の状況とその顧客の特徴を紐づけることで、潜在的なニーズを明らかにし、よりよいサービスを提供するためのティップスを提供する機能。ティップスは、大きく分けて5つのカテゴリー (顧客フォロー、保険内容のリマインド、適切な商品・サービスのレコメンド、思いやりのある対応、顧客対応上のリスクへの注意喚起)で100種類近くが提供されており、より適切なサービスの提供を可能としている。たとえば、顧客フォローでは、現在進行中の状況をトラッキングし、顧客から苦情を受けた場合の対応方法などを提案してくれる。また、保険内容のリマインドは、生存給付金の受取りや無効になった保険契約の再発効など、顧客にリマインドすべき情報が提供される。商品・サービスのレコメンドは、かかりつけ医の紹介や、新しく登場した追加特約の紹介を行うのに参考となる情報が示されており、思いやりのある対応で誕生日や記念日などのお祝いをリマインドしてくれる。リスクへの注意喚起では、顧客からクレームが来る予兆があればアラートをあげてくれる。
■4つのCE
・顧客の体験(Customer Experience)
・顧客の期待(Customer Expectation)
・顧客からのエンゲージメント(Custmor Engagement)
・コストパフォーマンス(Cost Efficiency)
■NPS向上の取組みを失敗させる10の地雷
(1)責任者が不明確、または責任者に権限がない
(2)トップマネジメントのコミットメントがない
(3)長期的・継続的な企業マネジメント課題としてではなく、期間限定のプロジェクトとしてNPS向上に取り組む
(4)特定の部門だけが参画、他の部門は知らん顔
(5)スローガンはあるが、制度や規則は変えない
(6)自社ばかりをみて、競合をみない
(7)無思考なKPI設定
(8)指標だけを追いかけて、原因追究は置き去りに
(9)原因は突き止められても、改善が進まない
(10)NPSと企業戦略がつながっていない続きを読む投稿日:2022.03.05
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