介護再編 介護離職激動の危機をどう乗り越えるか
武内 和久(著)
,藤田 英明(著)
/ディスカヴァー・トゥエンティワン
作品情報
近い将来、介護職が絶滅する? 介護職に就く人は年間22万人、しかし辞める人も20万人!超高齢化と介護保険誕生という歴史に翻弄されてきた介護業界と介護の担い手たち。どうすれば、介護職がやりがいを持ち、多くの人を惹きつける業界となれるのか?語られてこなかった介護業界の課題と悩みとは、そして未来への処方箋とは?政府で介護人材確保に奔走してきた元厚生労働省官僚と、介護職から介護事業経営者へと上り詰めた気鋭の経営者が、介護へのエールを込めて、真摯かつ大胆に語る。
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この作品のレビュー
平均 3.7 (8件のレビュー)
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昨今、少子高齢化がもたらす近未来の重要課題について述べた本が多いと感じるが、その重要課題の一つに「介護」の問題もあると思う。
本書の副題には、「介護職激減の危機をどう乗り越えるか」とあるが、その背景…には要介護人口の激増という問題がある。また、本書の帯には、「2025年には介護士が38万人不足!」とも書かれている。
本書の冒頭に「団塊の世代」(1947年生~1949年生)が75歳の後期高齢者になるのは2024年で、その数806万人と。つまり、6~7年後に、要介護人口が激増する予測だ。
これに対し、介護に携わる人の人口は、その時になって38万人も不足しているという実態予測である。しかも現行の介護現場における質の問題、処遇の問題、制度の問題など山積であり、不安材料を山のように抱えたままそのような現実に直面する可能性を訴えている。
この事態を単なる数字のマイナスととらえるのではなく、その時の実態を想像してみると恐ろしい光景が目に浮かぶ。
そいういう事態を一刻も早く改善したいと考える二人の著者の提言の書である。
元厚労省官僚の竹内和久氏と介護事業経営者の藤田英明氏の共著であるが、恥ずかしながら介護に関する本を読むのは今回初めてであり、二人の著者についての知識はなかった。しかし、今確認させて頂いたところ、竹内氏は1971年生まれ、一方の藤田氏は1975年生まれ、いずれもイケメンの若き気鋭のリーダーであった。
それぞれの経歴からみても、この介護の世界の仕組みについて日本一精通しているというだけでなく、その実態、特に抱えている多くの課題について網羅的に把握されており、しかもその解決について現在進行形で精力的に取り組まれており、さらにはこの世界を夢ある世界へと変えていこうとの展望をもっておられる両者である。
本書の中でも、先進的な意見を交え、あるべき将来像への提言を、わかりやすくかつ大胆に述べられている。
介護の世界を知るには、最良の書の一冊であると思う。続きを読む投稿日:2018.09.07
介護・福祉をとりまく社会環境と業界の構造的な問題(外部環境)と、事業者や働き手からみた内部環境をバランスよく整理している本。
成長が見込まれる介護事業の参入・拡大にあたり戦略を練るための基礎資料となる…。
今回読んだ本は『介護再編 介護職激減の危機をどう乗り越えるか 』(武内和久、藤田英明 著)
読書のきっかけ
社長から、「施設長向けに薦めようかと思うのだけど、どう思うか意見を聞かせてほしい」と依頼された。
何について書いてある本?
人口は減少しているが、介護が必要になる人はこれからも増え続ける。
介護職不足は避けられず、このままでは立ち行かなることは誰の目にも明らかである。
大きな社会課題に対して、介護の目的、介護・福祉事業の構造的な問題、介護職員自身の課題、経営者の課題など、多角的に現状を分析する。
多角的に分析できるのは、元厚労省官僚と介護事業経営者という立場の異なる二人の共著だからこそ。
ただの評論で終わらず、著者からの具体的な提言がある。
「国はこうすべき」という政策提言よりも、事業者や介護職員本人へ向けた提言に比重を置いているため、政策に直接かかわることのない私たちも、自分事として主体的に考えやすい構成となっている。
ハイライト
・”高級”なのは、”人”ではない
建物などのハードや、そこで提供されるプログラムや食事などは、支払える金額によって大きく変わります。では、そこで働いている介護職の知識量・技術力・コミュニケーション能力・キャラクターなどは、高級有料老人ホームで働いている介護職のほうが、低廉な老人ホームで働いている介護職よりも高いのか?というと「そうではない」というのが現実です。
「優れた介護職員」は実在するが、客観的に科学的に証明する尺度が存在しない。介護福祉士という国家資格はあるものの、看護師ほどの専門修練を必要とする資格ではないため、業務独占なども存在しない。キャリア段位制度なども推奨されたが同じことがいえる。
「優れた介護職員」を科学的に定義し、育成できるようになれば、「優れた介護職員」がいるから「高級」という論理は成立するだろう。ここには大きなビジネスチャンスが潜んでいる。
・事業拡大に追いついていない施設長問題
①マネジメント経験がない人が施設長に就任する
②施設長の役割が分からない
③スタッフから信任を得られていない
④現場のマネジメントができない
⑤上司からは数字を求められ、部下からは働きやすさを求められる
⑥責任感が強いほどストレスを溜めやすい
⑦退職する
①~⑦の裏返しが、施設長に求められる要件と考えられる。
もともとその人の持つ資質と経験だけに頼って施設長を任命していては、すべてを満たす人材に出会う確率は非常に低い。
事業拡大には、マネジメント人材の育成が必要不可欠である。
ただし、属人的なマネジメントが蔓延している介護業界において、マネジメントを体系化して育成の仕組みを作ることは、容易ではない。
この難題にいち早く着手し、結果を出した事業者には大きなチャンスが巡ってくるだろう。
・プロの介護とは
多種多様な、ありとあらゆる人生と価値観を背負っている人たちに対して、どのパターンにも適応しながら、ケアをデザインしていく行動に”知的”な作業です。その対応力と適応力こそが、単なる家族介護とは大きな違いなのです。
介護の専門学校などでは「非審判的態度」について学びます。(中略)大概の人はこれができていません。
プロの介護については、専門家たちが様々な定義を試みている。著者による上記の定義も重要なポイントでありながら、実際にできていない専門職が多いポイントである。
教育において、良い悪いの二項対立軸で学ぶ習慣が、悪影響を与えている可能性も考えられる。
「色々な人の立場になって考える」「様々な価値観を受け入れる」能力は、それぞれ人生経験にも紐づくが、これを”人間性”というあいまいな言葉で片付けずに、科学的に整理し、思考方法などを技術的に解決できるようになれば、専門職の育成が大きく進捗するだろう。
・介護はビジネスなのか福祉なのか
この問いに対して、著者は、二分論で議論することが最も空しい。あえて言うならその中間の社会企業という性格のものだと評している。民間か社会福祉法人かではなく、昨日で議論すべき時代だと。
社会福祉も事業である以上、事業継続のため適正な収益を確保する経営の観点が欠かせない。ただし、利益重視のために顧客の選別をし過ぎては、社会保障(社会福祉)の役割を果たせなくなる。
営利企業も社会福祉法人も、その事業目的を明確にし、持続性が求められる生活インフラサービスとして取り組む必要がある。
・キャリアパス
著者の藤田氏の会社では4つのコースを用意しているという。比率は700人の従業員の内訳。それぞれのコースに合った教育体系・賃金体系をつくり、コース変更も可能。評価方法も同時に設計。
①将来起業したい独立起業コース (3割)
②専門性を高めたい専門職コース (3割)
③社内で出世していきたいキャリアコース (3割)
④週休3日のワークライフバランスコース (1割)
キャリアパスは国が描くものではなく、各法人が自社の理念に基づき作成するもの。人材の定着を図るには、報酬や福利厚生、研修制度といった目先の戦略だけだはなく、中長期のキャリアビジョン(夢)を社員に提示することが重要である。
・介護業界飛躍のカギ
●介護の科学的体系化
●セルフケアプラン=選ばれる事業所(自費サービスとの混合介護などの議論も合わせて)
●大規模化
この本をどう活かす?
上記の「ハイライト」には、この本から喚起されたアイデアや気づきを記した。
これらを具現化するための、計画を立て実行する。
大事なのは、スピードだ。何十年も前からわかっていた2025年問題はもう目前である。この本が出版されたのが2018年で5年後の2023年でも大きな転換は起きていない。
介護サービス市場は確実に大きくなるが、事業者は淘汰されるだろう。その時に生き残るのは、経営を体系化して、良質なサービスを大規模に展開する企業か、地域の細かなニーズに対応する企業のどちかだ。
”いちばん最初”に大きな価値があるだろう。
こういう人におすすめ
介護事業の経営層(株式会社・社会福祉法人)。もしくは介護事業参入を検討している経営層。
新規事業を模索している担当者
今後経営を担っていく介護現場のマネジャーが、現場感覚を生かしたビジネスアイデアを出すための基礎資料としても有効。
続きを読む投稿日:2023.01.19
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