ベルリン・都市・未来
武邑光裕(著)
/太田出版
作品情報
シリコンバレーの時代は終わった──。新たな都市のスタンダードは、すべてベルリンから生まれる! スタートアップ・エコシステム、ネオヒッピー・カルチャー、ポスト・データエコノミー。「壁」の崩壊から30年、テクノミュージックによって断絶を乗り越え文化多様性が社会をドライブさせるこの街には、硬直したテックイノベーションを更新する秘密の「レシピ」が隠されている。いまこそぼくたちはベルリンから学ばなければならない。著者について1954年生まれ。メディア美学者。クオン株式会社ベルリン支局長。日本大学芸術学部、京都造形芸術大学、東京大学大学院、札幌市立大学で教授職を歴任。80年代よりメディア論を講じ、インターネットの黎明期から現代のソーシャルメディアからAIにいたるまで、デジタル社会環境を研究。著書に『記憶のゆくたてーデジタル・アーカイブの文化経済』、『さよなら、インターネット──GDPRはネットとデータをどう変えるのか』など。現在ベルリン在住。
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商品情報
- シリーズ
- ベルリン・都市・未来
- 著者
- 武邑光裕
- 出版社
- 太田出版
- 書籍発売日
- 2018.07.12
- Reader Store発売日
- 2018.07.12
- ファイルサイズ
- 18.3MB
- ページ数
- 304ページ
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この作品のレビュー
平均 4.7 (4件のレビュー)
-
『ベルリン・都市・未来』武邑光裕
2年前に著者・武邑さんとWIRED前編集長・若林恵さんのABCでのトークショーに行った。それまでベルリンがこんなにも面白い都市とは知らなかった。帰りに買って…読んだのだった。その時はなんとなく疲れた日々で、今ならまた別の視点で読めるかもしれないと棚から手に取った。
ベルリンについてのエッセイで、ブックデザインが素晴らしい。ブックカバーのイエローにフィルターのかかった写真も、そしてめくるとシルバーのFuturisticな表紙も。文章に差し込まれる写真の多くはモノクロで、時々カラー。映像ドキュメンタリーのような感覚。
そう思わせるのは、リアルとメタファーが入り混じるエッセイだからでもある。メタファーとは違うかもしれない。武邑さんは人間社会と生態系を相似するものと捉えていると思う。とくに蜂は生態系の創発を促す生き物で、人の社会にもそういった存在が必要になる。
ベルリンでイノベーションが起きるのは、生態系のバランスと同様に、多様性や経済がうまく均衡しているからだ。DJ、ハッカー、起業家が集まり、共通語として英語を介し新しいことが始まる。
彼らを典型として、DJ的な人、ハッカー的な人たちが既存の枠組みを再編成することで社会や企業を変化させていくと思う。ドラスティックなトップダウンというよりも、サブな存在が新たな動きをつくる。
ベルリンは社会に生態系があると思った。最先端のデジタル分野だけでなく、DIYの精神があり、農業やグルメなど生活すること全般で経済圏、生活圏が形成されている。グローバリゼーションの分断や分業から自律できる社会があるようだ。家賃が上がりにくい仕組みや、公共住宅であるが故に所有より共有の意識が高いらしい。
タイトルのとおり、未来を感じさせてる。海外の都市に関する情報に触れたとき、その一方で日本はと思わずにいられない。そう思ったとき、東京からは新しいことは生まれなさそうだ。ある程度の規模の地方の都市なら、生態系のつくれる場所なら、何かが起こせるかもしれない。
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著者は、2015年にベルリンに移住した。そして、3年間の生活をして観たものを新鮮な目で切り取っている。旅行者ではなく、生活者として見つめたが故に、ベルリンの躍動感が伝わる。2018年のことなので、現…在はもっと進んでいると思う。創造都市としてのベルリンの活気。その雰囲気を肌で体験したくなる。
ユーロの中でも、ベルリンはスタートアップが多く、そして資金の獲得も一番多いという。なぜ、スタートアップが多いのかを本書では述べている。
ベルリンは人口360万人。そのうち約18%がドイツのパスポートを持っていない。外国人居住者65万人の国籍が186もあるという。難民への受け入れにも寛容だ。また支援する仕組みさえある。クリスマスのイベントでギフト経済が実行される。それが活力を生み出している。著者の注目するものとして、スクウォッター(不法占拠する人たち)が作り出す文化、それはヒッピー文化を再生して、ネオ・ヒッピーという。それは、ベルリンの壁が崩壊して、廃屋スペースが多かったのを、アーティスト、ハッカー、DJ、デジタル音楽系起業家、エコロジカルな志向をしているヴィーガン、オーガニック実践者たちが、廃屋を不法占拠して、生活と文化を生み出す。
2000年になるとベルリンの街を流れるシュプレー川沿いに鉄骨とガラスの現代的建築が次々と始まった。いわゆるジェントレーションだ。ところが、住民の反対運動が起こり、多くの人の署名をもとに、河岸より50メートル以上の距離を保つこと、地上22メートル以上の高層建築の禁止などの市民の意見が都市計画に取り入れられることになる。ベルリンの市民は環境問題に関して意識が高い。
ベルリンの壁の材料を再利用して、廃材を利用した木造建築、リノベーションなどしたエコビレッジが作られていく。ボトムアップの街づくりがなされる。ベルリンの壁は1961年から始まり、1989年に壊された。その失われた28年を、ネオ・ヒッピーの人たちの手で取り戻す。そして、ドイツの背負うナチズムの持つ分断的政策、ユダヤ人のホロコーストなどの罪悪感と後悔と悔しさが、原動力にもなる。
より快適で豊かな生活を支えるアート、ベルリンテクノ音楽、オーガニックな野菜栽培など、自分たちの意思によって作り上げられていく。利益の最大化を図る特許や著作権などは、逆に進歩を妨げるとさえいう。
金融システムも、スマホでオンライン口座を開き、個人認識がスマホアプリでできる。脱現金の動きが加速する。1997年ビルゲイツは「銀行業務は必要だが、私たちの知っている銀行は容易に消えるだろう」といった予言が実現してきている。「Uberの瞬間」と言われる。小売業、飲食業、タクシー、ホテルが、スマホでつながることになる。ドイツは連邦主義なので、州の権限が強く、(それはヒットラーのような権限を集中するような政治の反省からきている)。市民の生活の向上するなら規制が簡単に外れる。またドイツ連邦基本法では「文化分権主義」が確立されている。文化も経済も地方分権が確立されている。日本のような中央官僚の既得権益による規制が多い国とは、ライフイノベーションが急速に起こってくる。まぁ。日本は反省が足らない国であり、官僚国家を作り、有力政治家への忖度で明け暮れる。またホワイトハッカーが、情報の公開を要求し、セキュリティを高める。日本では、文書が黒塗りにして公開するというバカげたことが平気で行われている。戦前の言論統制の検閲制度を連想させる。
ドイツは人口8000万人。ベジタリアンが780万人(人口の約10%)。そのうちヴィーガンが90万人。EU圏内ではダントツの比率。そのための食材の開発も進んでいる。ヴィーガン専用スーパーもある。ちなみに、ヒットラーがベジタリアンだったという話もあるようだ。122軒のヴィーガン専用レストラン、296軒のベジタリアンレストランがドイツにあるという。ベルリンは2015年「ベジタリアン料理における世界の新都市」として選出された。ちなみにその年には、東京が「世界最高の食の街」とされた。ミシュランガイドでは、星の数が一番多い都市、200軒を超える。パリは、星の数では東京の半分。
創造都市について、リチャードフロリダの「創造的階層」が担い手というエリート主義の反発もあった。ベルリンでは地元に住む市民の創造性をすすめる政策こそが必要であるとしている。
ドイツのアーティスト、ヨーゼフ・ボイス(1921年〜1986年)が提唱した「すべての人間は芸術家である」が創造都市を支えることになり、ベルリンが先陣をきっている。
著者は、一過的な観光経済主導型の文化事業は、ここ欧州では過去のものとなっている」と言い、ウォーターフォール型観光事業はすべきではないといっている。コロナ禍において、そのことは明らかにされた。地元にキチンと根付いた文化が観光資産なのだ。そして、ソーシアル・イノベーションが必要だという。
著者はいう。「比類なき記憶、ベルリンの財産は壁の遺跡にあるのではなく人々の記憶そのものだ。記憶を継承し続けることにドイツ国民は宿命的なしょくざいを背負っている。壁の歴史もその後の街づくりも自己組織的な偶然も、ベルリン再生の歴史を刻む記憶の中にある」
著者自身の持っているあるべき未来とその未来が幸福をもたらすものだろうという思いを込めてベルリンを見つめている姿がステキでもある。いい本だった。創造都市を目指す人たちには必要文献である。 続きを読む投稿日:2022.09.27
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