日本の没落
中野剛志(著)
/幻冬舎新書
作品情報
あらゆる文化はいずれ衰退する――。百年前にそう予言し、当時のヨーロッパで大論争を巻き起こしたドイツの哲学者オズヴァルト・シュペングラー。彼が『西洋の没落』で描く経済成長の鈍化、少子化、民主主義の死といった事象は、今日の日本が直面する問題そのものである。日本はこのままどこまで堕ちるか、それとも抗う道はあるか。気鋭の評論家が今だからこそ『西洋の没落』を繙き、そこに解を得ながら日本再興の道を探る画期的な書。
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この作品のレビュー
平均 3.6 (6件のレビュー)
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ドイツの哲学者オズヴァルト・シュペングラーの『西洋の没落』を読み解きながら、日本の没落に警鐘を鳴らす本。自らをシュペングラーに並べた表題は流石に背負ってるなと思うが、名前負けせず。シュペングラーの現存…在と覚醒存在を形態素として分析する理論を、恐らく私などはそのまま読めば理解不能な箇所も中野剛志が明解に解説してくれる。
いつもながら、感想というか思考や記録が散逸になるが、本著の論旨体系ではなく、自らの補完のために、以下メモ書き。
1750年から1830年の間に起きた第一次産業革命では、蒸気汽関、紡績機、鉄道などが生み出され、1870年から1900年の間に起きた第二次産業革命では、電気、内燃機関、上下水道が登場。どちら技術革新も生活を一変させるほどの大きなインパクトがあった。ところがコンピューターによる第三次産業革命は、1960年頃に始まり90年代半ばに頂点に達したが2000年以降の技術進歩は娯楽や通信に関するものばかり。
事実はそうだろうが、人類史全体で見れば成長しない経済の方がむしろ常態だった。人口拡大がない限り、成長限界が来る。
言葉と言うものはもともと見える事物の名前なのであるが、その言葉はいつの間にか思考の事物、すなわち概念の標識となる。つまり、見ることから抽象された引き抜かれた理解と言うものが可能になる。これが思考と言うものである。同じ覚醒存在でも動物と人間を厳密に区分するものはこの思考である。
思考する人間に同時代的、あるいは覚醒存在として経路依存傾向が抽出され、歴史は繰り返す。
世界都市に集積する人々は、自然とは乖離した人口的な空間にあって高度な認知能力を要求される業務に従事し、極度に知的な緊張を強いられている。それゆえ「気晴らし」が必要だとシュペングラーは言う。気晴らしとは。意識的に行われた愚行によって解放すること。知的緊張をスポーツという肉体的緊張によって解放し、肉体的緊張を快楽という感覚的緊張によって、興奮という精神的緊張によって解放すること。
知的労働者は、やがて自らの人生にもその高度な認知能力を用いてその意義を悩む事になる。だから、気晴らし、麻酔のように、悩みを忘れさせるエンタメコンテンツが必要になるのだろう。
親子関係という束縛は自己を犠牲にするため、自己実現という個人主義的価値観にシフトすれば、子供を持つことを正当化させる事が困難に。
そして、セックスがエンタメコンテンツと化す。
ポスト・トゥルースとは、客観的事実よりも感情や個人的信条の方が世論形成により大きな影響を及ぼすこと。真理とは、新聞雑誌が生み出した世論であり、新聞雑誌が採り上げないものは、真理とみなされない。証明方法は、新聞雑誌からインターネットに変化。ポスト・トゥルースは、エリートへの不信によっても助長される。
スリード社はB層に対するラーニングプロモーションが必要としたが、シュペングラーも思想訓育に触れる。我欲を通すために大衆を操作する。今は検索エンジンがエビデンス化しており、世論形成に作用する。
成文憲法とは異なる不文憲法。不文憲法とは。国家の慣習、法制度、判例あるいは法解釈の歴史的な蓄積であり国体とも言い換えられる。それは歴史の中で自然発生的に形成されてきたものであり状況の変化に応じて漸進的で柔軟に変わるもの。フリードリヒフォンハイエクであれば「自生的秩序」と呼んだであろう。つまり、世論を含む形成された秩序こそ実存。続きを読む投稿日:2023.01.04
このレビューはネタバレを含みます
本作は、官僚・評論家である中野剛志氏による、ドイツの歴史家シュペングラー『西洋の没落』の解釈本というのが端的な説明になると思います。
レビューの続きを読む
曰く、100年前に書かれたシュペングラーの著作には、現代社会の諸…相(経済成長の鈍化、グローバリゼーション、地方の衰退、少子化、ポピュリズム、環境破壊、非西洋諸国の台頭、機械による人間の支配等々)を見事に言い当てており、その没落への過程は西洋文化ドップリの日本にとって参照に値するのではないかというもの。
・・・
先ずもって賞賛したい点は、ドイツ語文献をよくぞここまで読み込んだなあということ。学生時代の私の僅かな原書購読体験では、実にドイツ語の思想系文献は長ったらしく冗長、強気な書きぶりなのに意味不明瞭、イマイチ曖昧で微妙な定式化(たとえば本作でも見られる『アポロン的』と『ファウスト的』、『現存在』と『覚醒存在』などの二元論)で語る、というような場合が多かったのです。私自身は『西洋の没落』は未読ですが、文章の端々から筆者が相当丁寧にドイツ語文献と取っ組み合ったことが感じられました。日本語で読んでいたとしてもその難解さは消えないと思います。
さて、内容的に私が面白いと感じたのは貨幣論の部分。
シュペングラーはゲーテ『ファウスト』を下敷きにして貨幣による支配を予言していたそうです。中野氏はこれは金融業界の拡大であると解釈しています。確かに、GDPに占める金融業の拡大は引用しているデータの通りでしょうが、更に1980年代からのインフレ抑制方向の金融政策が「ウォール街・財務省複合体」のもと実施され「アメリカも日本も、独裁的貨幣経済と化している」としています。
10年程前、格差拡大を背景に、支配的地位に君臨する金融家・政治家にモノ申す「ウォール街を占拠せよ」という抗議活動がありました。リーマンショック後の不景気にもかかわらず救済されたはずの金融機関の地歩がゆるぎなかったのは何故なのか。
私は中野氏がいう『世界中で広まったインフレ抑制政策』に陰謀論的なにおいを嗅ぎ取ってしまいました。ウォール街や金融機関は当然のことながらインフレになるとお金の価値(つまり貸し出しているローンの価値)が減ります。だからインフレを抑えようとするのでは?逆にデフレになるとローンの借り手は負担が増えますが、銀行の保有しているお金の価値は更に増します(物の価値が落ち、お金の価値が増える)。
また、信用創造に関する話も興味深いものでした。一般に過度な国の借金はよろしくないものですが、国とは無制限の貨幣創造の権利があるので、貨幣を国内で循環させる限りは問題がないとするものです(大分はしょっています)。もちろんインフレが起きればお金持ち(金融機関も)は損をするのですが、ある意味不況+借金漬けからの脱出にインフレというのは手なのかもしれません(もちろんうれしくないですが)。対照的な事例はユーロです。貨幣創造に手枷をしてしまったユーロは健全化のルールのもと借金もできず貨幣も刷れない(財政出動しづらい)形でどんどんデフレになり(今やマイナス金利)まさに貨幣に縛られた状態と言えるかもしれません。
こういう内容を読んでいると日本の借金漬けはひょっとして大丈夫なのか?とも思ってしまいます。。。
・・・
他方、もし消化不良感を感じるとすれば、それは結論部分でしょうか。
『われわれは、この時代にうまれたのであり、そしてわれわれに定められているこの終局への道を勇敢に歩まなければならない。これ以外に道はない。希望がなくても、救いがなくても、絶望的な持ち場で頑張りとおすのが義務なのだ』(位置No.4060)
大分すっ飛ばして書きましたが、どうやらシュペングラーの主張は、文化も季節のごとく春→夏→秋→冬と栄枯盛衰的に推移するとしているようであります。しかもそれが不可避であり運命づけられているそうです(ニーチェの影響を受けただけはありますね)。ただ、これで終わると何というか、救いがないですよねえ。
・・・
ということで、私は思想好きということもあり、全体面白く読みました。
哲学的歴史書を読み解き、その論旨を日本に当てはめて考えるというのはなかなかに困難な仕事であると思いますが、面白く読ませて頂きました。
没落を決めつけている点が(中野氏ではなくシュペングラーに対し)納得が行かない点ではあるものの、他方で栄枯盛衰・盛者必衰は、感覚的によくわかります。
私たちはいずれ死んでしまうわけですが、どうせいつか死んでしまうからと今努力を止めてしまう事はないと思います。皆さん必死で毎日を生きていると思います。類比的に考えれば、文明・文化・あるいは国が亡ぶ運命にあったとしても、現実に対峙して出来るだけよりよい方向へと形作るのは正しい姿なのかな、と感じました。その点では以下の文句はなかなか素敵です。
『没落の時代においては、真の哲学は、実際生活における実践経験の中にある』(位置No.3627)続きを読む投稿日:2021.11.24
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