軌道 福知山線脱線事故 JR西日本を変えた闘い
松本創(著)
/東洋経済新報社
作品情報
真山 仁氏推薦!
「『遺族の責務』を探し続けた男が挑む不条理
闘う遺族を静かに寄り添うジャーナリストが辿り着いた
日本社会の欺瞞と脆弱」
「責任追及は横に置く。一緒にやらないか」
遺族と加害企業の社長。
相反する立場の2人は巨大組織を変えるためにどう闘ったのか。
あの事故から始まった13年間の「軌道」を描く。
<本書の内容>
乗客と運転士107人が死亡、562人が重軽傷を負った2005年のJR福知山線脱線事故。
妻と実妹を奪われ、娘が重傷を負わされた都市計画コンサルタントの淺野弥三一は、なぜこんな事故が起き家族が死ななければならなかったのかを繰り返し問うてきた。
事故調報告が結論付けた「運転士のブレーキ遅れ」「日勤教育」等は事故の原因ではなく、結果だ。
国鉄民営化から18年間の経営手法と、それによって形成された組織の欠陥が招いた必然だった。
「組織事故」を確信した淺野は、JR西日本自身による原因究明と説明、そして、組織と安全体制の変革を求める。
そのために遺族感情も責任追及も封印し、遺族と加害企業による異例の共同検証を持ち掛けた。
淺野の思いに、組織改革に動いた人物がいた。事故後、子会社から呼び戻され、初の技術屋社長となった山崎正夫。
3年半でトップを退くが、JR西日本という巨大組織を、長年の宿痾からの脱却へと向かわせた。
それは、「天皇」井手正敬の独裁に依存しきった組織風土、さらには、国鉄改革の成功体験との決別だった。
淺野と山崎。
遺族と加害企業のトップという関係ながら、同世代の技術屋ゆえに通じ合った2人を軸に
巨大組織を変えた闘い、鉄道の安全を確立する闘いの「軌道」を描く。
そこから見えてきたのは、二つの戦後史の「軌道」だった──。
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この作品のレビュー
平均 4.3 (40件のレビュー)
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被害者と加害企業との奇跡的な共同作業を克明に描く力作
私は総括が事故調報告で終わったと思いこんでいたので、事故後13年を前にして本が出ることに驚いて読み、そして多くのことに驚かされた。
安全第一を定着し向上するための「考動」は自発的にはじまったものでは…なく、ご遺族らからの粘り強い働きかけによるところが大きかった。その姿の肩越しに、専門性やカルチャーの異なる者が緊張感をもって深めあう描写が瑞々しく、感銘を受けました。続きを読む投稿日:2018.04.14
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2005年に起きた福知山線脱線事故。
脱線してマンションに列車が突っ込み、見るも無惨な様子で横たわる様子を今でも覚えている人は多いと思う。
この事故で100名以上の命が失われたわけだが、そのある遺族が…遺族という枠を超えて、JR西日本と一緒になって本気の組織改革を成し遂げる様子が描かれている本である。
この事故はたただのヒューマンエラーではない…以下の4つの要因が複雑に絡まり合って起こってしまった、偶然ではなく必然的に起こった事故だと訴えている。
① 高速化を追求しすぎたが故の無理なダイヤ編成
② 非常ブレーキ蔵置(ATS-P)の設置遅れ
③ 安全管理体制
④ 日勤教育(過度な罰を与える不適切な社員教育)
この4つの問題も最終的に根っこは同じところに行き着くわけだが、それが旧国鉄時代に培われてしまった隠蔽体質である。この組織風土が一番の問題だった。
自分も比較的大きな会社に勤めているので、組織風土が簡単に変わるものだということは良くわかっている。これを事故の遺族とともに変えていく姿、取り組みというものは非常に心打たれるものがあった。
今でこそ、不適切な社員教育やヒューマンエラーを責め立てるような犯人探し、吊し上げ的なことをする会社は少なくなってきていると思うが、このJR西日本の事故後の歩みがその一翼を担っていることは間違いないだろう。
失敗することを攻めるのではなく、失敗することを前提にしてシステムや環境、ルールを整備していくことの大切さを改めて感じた。
組織に属する人間であれば、読んで損はない本だと思う。非常に勉強になった。続きを読む投稿日:2023.07.23
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