【合本版】楊令伝(全15冊+1)
北方謙三(著)
/集英社文庫
作品情報
梁山泊炎上から三年――。宋との戦に敗れた漢たちは各地に潜伏し、再起の秋を待ち続けていた。燕青は、梁山湖に沈められていた軍資金の銀を引き上げる。呼延灼、張青、史進は各地で流浪の軍を組織していた。青蓮寺による残党狩りが熾烈を極めるなか、梁山泊軍には「替天行道」の旗を託された男、青面獣・楊令の帰還が待ち望まれていた。漢たちの熱き志を刻む「北方水滸」の続編。全15冊に『吹毛剣 楊令伝読本』を追加した電子合本版!
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この作品のレビュー
平均 4.2 (48件のレビュー)
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ついに始まった。待ちに待った北方「水滸伝」の続編である。図書館で借りることを自ら禁じて文庫版が出るのをずっと待っていました。約三年間。これから約15ヶ月、胸躍る漢(おとこ)の世界に浸れます。
「水…滸伝」全19巻の概要、を著者自身が書いています。楊令の視点から見事にまとめていて、この二ページの一文自体が独立した作品になっています。そのまま、書き写したい。内容もそうですが、「文体」も私のお気に入りなので。
何もかもが、真暗だった。
覚えているのは、顔の青い痣からだ。青面獣・楊志。賊徒に破壊された村から救い出されたその日から、その顔の持ち主が、楊令の父となった。
楊志は、「替天行道」の旗を掲げて腐敗混濁した宋の支配を覆さんとする反乱組織、梁山泊の一員だった。ある日、梁山泊の仇敵・青蓮寺の謀略によって、楊志は闇の軍に囲まれる。息子を守るため、楊家伝統の吹毛剣をふるって百人を斬り、楊志は壮絶な戦死を遂げた。そのときに浴びた火の粉によって、楊令の顔にも楊志に似た痣がついた。眼に焼き付けた父の死の光景は、顔の火傷と同じように、けっして消えることはないだろう。話す言葉を失い、ただ「強くなりたい」という思いだけが、楊令の中で大きくなった。
楊志の死後も、楊令の居場所は梁山泊にあった。楊令の体には、父の遣った剣が強く刻み込まれている。やがて、豹子頭・林沖に剣技を鍛えられるようになった。林沖との立ち合いに、言葉はなかった。ただ打ち据えられる苛烈な稽古だったが、ひとりの男として対等に向き合ってくれているのだと感じた。
梁山泊は楊志の後継者として、青洲軍将軍であった秦明を同志に引き入れる。楊令は秦明のもとで養育されるが、秦明を父と思い定めることはなぜかできなかった。ある日、熱を出した楊令のために、一人の男が薬草を取って崖から落ちて死んだ。その蔓草を秦明から手渡されたとき、溢れ出す涙を止めることは出来なかった。男の命が、そこにあった。以来、小さな布袋に入った蔓草は、楊令の懐にしまわれている。
やがて魯達に連れられて、かつて史進や武松も暮らしたことのある子午山へと送られた。子午山に隠棲する王進から、楊令は本当の強さを学ぶ。王進とその母と、同じく子午山に預けられた長平と穏やかな暮らしを続けていたが、成長した楊令の元へ、病を得た魯達が訪れた。魯達は、梁山泊の同志たちとその志のすべてを楊令に語ったあと、憤死する。魯達が楊令に伝えたことの本当の意味は、まだ分からなかった。
宋との戦は最終局面を迎え、ついに禁軍最強の童貫元帥が出陣した。激戦の末、梁山泊の要衝は、ひとつひとつ陥されていく。楊令は梁山泊に合流するため子午山を降りるが、カクキンとともに北に行き、女真族の阿骨打について遼と闘った。梁山泊では秦明、林沖らが戦死する。戻った楊令は林沖亡き後の黒騎兵を率い、父譲りの吹毛剣で兜を飛ばし頬を斬るも、ついに童貫を討つことはできなかった。
かくして、梁山泊は陥落した。官軍に包囲され炎上した梁山泊で、楊令は頭領の宋江から「替天行道」の旗を託される。楊令にとって、生きることは別れの連続だった。瀕死の宋江に吹毛剣で止めを刺し、自らの胸に問いかける。人が生きることはなんなのか。すべてが闇のようなこの世に、光はあるのか。
敵中を斬りぬけ、楊令は、ひとり梁山湖へと跳んだ。曙光を求めて。
第一巻は梁山泊陥落より三年後。まだまだ助走である。楊令は遠く女真族が起こしたばかりの金国で幻王と名乗り、梁山泊とは一切連絡を絶っていた。やがてこれから北宋の滅亡が描かれるのだろう。そのとき、梁山泊の生き残りたちはどうなるのか。楊令はどうなるのか。新しく登場してきた英傑たちの落とし子たちはどうなるのか。「魯達が楊令に伝えたことの本当の意味は、まだ分からなかった。」と、書いているがそれはおそらくこの「楊令伝」を予言しているのだろう。
男たちは寡黙だ。語る言葉ぽつぽつと。魅力的なのはやはり新しい人物たちだ。武松と燕青に鍛えられ体術の達人になりつつある候真、自信家でそれだからこそ危うい花飛燐、まだ12歳秦明の落とし子秦容の才能が開花していくさまを見るのはどきどきする。続きを読む投稿日:2011.09.17
4.1
少し間を空けてきました楊令伝。
水滸伝とはどこかテイストが違うような、どこか暗雲が常に視界に漂っているような感覚。
読み進めながらもずっと心がザワついていて、それはなにか希望と絶望が入り混じ…ったような、どちらとも言い難い感情なのよね。
最後のシーンは1巻の終わりとして相応しすぎるねとりあえず。続きを読む投稿日:2021.03.18
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