七つの夜
J.L.ボルヘス(著)
,野谷文昭(訳)
/岩波文庫
この作品のレビュー
平均 4.3 (12件のレビュー)
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ボルヘスの講演集、1977年ブエノスアイレスにて。
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「次から次へと本を引き合いに出しますが、私は考えることよりも記憶することに長けているのです」
ボルヘス自身が、あたかも無限の蔵書を有する図…書館であるということ。あらゆる書物を渉猟し・その知識を整序し・記憶のうちに排列する。人類の記憶とも称されるアレクサンドリア図書館の如く。そうしたボルヘスの文学世界は、何よりそれ自体で美的なものであるということ。アーカイヴ化の美学を体現しているということ。宇宙の中にあって、宇宙のすべてをその記憶のうちに呑み込んでしまっている怪物であるということ。
「私は天国を図書館のようなものではないかと想像していました」
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淡々と語り出されるその宇宙=universe=森羅万象の中から、特に興味を惹かれた話を幾つか。
神が世界を見ることと、人間が夢を見ること。いずれも、永遠の一瞬とでも云うべき無時間性において、一切を一挙に捉える。無時間的に与えれている夢から目覚めて、それを継時的に整序して理解しようとするがために(そもそも人間の理性はそのような形式に則ることでしか物事を捉えることができない)、覚醒時の理性にとって夢は支離滅裂なものとしてしか現れない。
ボルヘスの悪夢三話。「迷宮」の悪夢では、広大無辺の暗闇のうちに自己が呑み込まれ自らの位置=意味を喪失する。「鏡」の悪夢では、無限循環(自己反射=自己省察)の中でついに自己像が決定不能のまま宙吊りにされる。「仮面」の悪夢では、仮面の下には別の仮面、そのまた下にはさらに別の仮面、どこまでの素顔にはたどり着けない・・・と無限遡行の中でついに自己は如何なる基底にも到達し得ない。いずれも自己が無限なるもののうちに消失するイメージ。
仏教という東洋思想との対比において浮かびあがる西欧的思考様式。自我への執着(世界を構成する主体)/自我からの解脱(「毒矢」の喩え)。直線的時間(キリスト教的な始源と終末、歴史意識)/円環的時間(輪廻転生)。
「ワイルドは自分の詩があまりに視覚的であると気づき、その欠点を直したいと思った。つまり彼が大いに敬愛するテニソンやヴェルレーヌの詩のごとく、聴覚的で音楽的でもある詩を作りたいと思ったのです。ワイルドは独りごちました。「ホメ―ロスは盲目だとギリシア人が言い続けたのは、詩は視覚的であってはならない、詩の本分は聴覚に訴えることだということを示すためだったのだ」と。そこからヴェルレーヌの「なによりもまず音楽を」という考え方やワイルドの時代の象徴主義が出てくるわけです」
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最後の第七夜「盲目について」は、他の講演とやや趣が異なるように感じられる。そこでは、盲目という自己の運命を通してボルヘスが自らの人生に対してどのように向き合ってきたのか、が語られている。彼にしては珍しく私的な思いが率直に吐露されている箇所もあり、他の作品にはない感慨を覚える。
「彼[ルドルフ・シュタイナー]はこう言っている。何かが終わるとき私たちは何かが始まると思わねばならない、と」
「私は決心し、自分にこう言い聞かせました。外から見えるもので成り立っている愛する世界を失ったのだから、何か別のものを作り出さなければならない。未来を、事実失った可視の世界に替わるものを作らなければならないぞ、と」
「作家あるいは人は誰でも、自分の身に起きることはすべて道具であると思わなければなりません。あらゆるものはすべて目的があって与えられているのです。・・・。それらが与えられたのは、私たちに変質させるためであり、人生の悲惨な状況から永遠のもの、もしくはそうありたいと願っているものを作らせるためなのです」
人生のあらゆる瞬間は、個人を超え出て永遠なるものへと接続されている。続きを読む投稿日:2019.07.28
《目次》
・ 第一夜 神曲
・ 第二夜 悪夢
・ 第三夜 千一夜物語
・ 第四夜 仏教
・ 第五夜 詩について
・ 第六夜 カバラ
・ ◇第七夜 盲目について投稿日:2023.06.27
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