告白 あるPKO隊員の死・23年目の真実
旗手啓介(著)
/講談社
作品情報
「息子がどのような最期を遂げたのか、教えてくれる人はいませんでした」――日本が初めて本格的に参加したPKO(国連平和維持活動)の地・カンボジアで一人の隊員が亡くなった。だが、その死の真相は23年間封印され、遺族にも知らされていなかった。文化庁芸術祭賞優秀賞など数々の賞を受賞したNHKスペシャル待望の書籍化。隊員たちの日記と、50時間ものビデオ映像が明らかにした「国連平和維持活動の真実」。
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商品情報
- シリーズ
- 告白 あるPKO隊員の死・23年目の真実
- 著者
- 旗手啓介
- ジャンル
- 教養 - ノンフィクション・ドキュメンタリー
- 出版社
- 講談社
- 書籍発売日
- 2018.01.16
- Reader Store発売日
- 2018.01.26
- ファイルサイズ
- 29MB
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この作品のレビュー
平均 4.7 (21件のレビュー)
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日本人の必読書ですね
国家と個人の関係について、国家が個人に対して何を行うかについて、個人が国家に対して何を行うかについて、考えることを好まない人が増えているようにみえる日本において、これは国民必読の書だと思います。
そ…して、なんやかんやといっても、この取材をし、これを出版するNHKは、なくなったら困るメディアだと思いました。イギリスのBBCのように、NHKの基盤を固めることが、日本人と日本国のために、必須でしょう。続きを読む投稿日:2018.06.25
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1993年5月4日、国連カンボジア暫定統治機構(UNTAC)に派遣され、現地で「文民警察官」としてPKO(国連平和維持活動)に従事していた岡山県警の高田晴行警部補らの一行は、任地のカンボジア北西部で何…者かに襲撃され、高田警部補は残念ながら亡くなられた。それから、23年。2016年8月にNHKが、NHKスペシャル「ある文民警察官の死~カンボジアPKO 23年目の告白~」、更に同年の11月にBS1スペシャル「PKO 23年目の告白 前編・そして75人は海を渡った/後編・そこは"戦場"だった」を放送した。この番組は大きな反響を呼ぶと同時に、多くの賞を受けた。本書は、その番組を書籍化したもので、2018年に発行されたものだ。
悲惨な内戦を経たカンボジアは、まがりなりにも各派で停戦合意が成立し、カンボジアでは、民主選挙が行われることになった。上記のUNTACは、その選挙を成功させるために暫定的に統治するための組織であり、各国からPKOに参加するための要員を求めた。UNTACへの参加は、日本が参加する初めてのPKO活動であり、当時、大きな議論を呼んだことを記憶している。派遣されるのは、自衛隊と「文民警察」。自衛隊を含む、各国の軍隊が治安活動を行うと同時に、「文民警察」が選挙民の登録を現地警察を指導しながら行うことになっていた。
当時、自衛隊を海外に派遣するために国会では大きな議論が起こった。議論の結果、成立したPKO協力法に、「PKO参加5原則」というものが制定された。それは、下記のようなものだった。
1)紛争当事者間の停戦合意の成立
2)紛争当事者の受け入れ同意
3)中立性の厳守
4)上記の原則が満たされない場合の撤収
5)武器の使用は必要最小限
当時の議論は、「自衛隊の派遣の是非」に集中しており、「文民警察」の派遣についての議論は行われず、きちんとした準備を欠いたまま、各都道府県からの警察官、計75名がカンボジアに「文民警察」として派遣され、UNTACの指揮命令下でPKO活動に従事することとなった。「準備を欠いたまま」ということの具体的な中身は、例えば、以下のようなことだ。
■現地では、実際には紛争が起こっていて、派遣された警察官たちは身の危険を感じていた
■そのような状況の中、「文民」である警察官たちには武器の携行が許されないまま、「丸腰」で派遣された
■自分たちの安全を自分たちで守らなければならない状態に加えて、食糧や水、日用品の確保まで、基本的に派遣された警察官が自分たちでやらなければならない状態になっていた
■現地派遣者たちは、UNTAC組織、日本政府に対して、現状を訴え、改善を求めるが、基本的には何の援助も得られなかった
■こういった状況にあることを、警察官たちは知らされないままに、カンボジアに派遣された。現地の生活や、安全等についての教育も何も受けないまま、「丸投げ」された状態であった
高田警部補の死は、このような中で起こった事件であった。
当然に、現地に派遣されていた警察官たちは憤慨、憤懣やるかたなしの状態に陥れられるが、「PKO参加5原則」に抵触した状態であることが明らかになることは許されず、襲撃者は「紛争当事者」ではなく、「正体不明の強盗」とされ、それに対して、現地の警察官はコメントすることが許されなかった。それを、取材によって、当事者たちの口を開かせ、「告白」を促し、「23年目の真実」を明らかにしようと試みたのが、この番組であり、本書であった。
一読、素晴らしいノンフィクションだと感じた。
テーマの選定、取材の徹底度、番組・書籍としての構成、書籍化された内容(文章の巧拙なども含めて)など、素晴らしいものだ。
当時の現場の事情、現場で奮闘する警察官たちの怒りと我慢。本書の中に、PKOに実際に参加された元警察官の方のコメントがあり、それが、本PKO活動を一言で言い表していると思う。
「PKOの活動は、極秘ということですよね。だからこれまでほとんど語ってきていない。安全だと言われていたのに、実際は現地では戦闘していたわけですから。
PKO(中略)、平和をキープするのはたいへんなんですよ。みなさん、PKOとおっしゃる。平和がキープできないから、助けてくれって言うんですよ。そこに助けに、渦中に入るんですから、危険に決まっているんですよ。
でも20年以上経っても、政治家の方がおやりになるパフォーマンスは、まあ今も昔も変わらないのでありまして、政府側も耳当たりのいい話をやはりしたいわけで、政治というものはそういうものなのでしょうけどね。
私たち現場の人間は、その命令を受けたら粛々と完遂するのが任務ですから。やるしかないんです。しかし、あやふやな状態で行かされると、現場はそれだけたいへんなんですよ」
現場を知らない国連や日本の政治家たちが、理念をもとにオペレーションの中身まで(例えば、現場への武器の携行は出来ない等)を決めてしまい、それに合わない事実が(例えば、PKO参加5原則に合わないことが)出て来たとしても、柔軟に対応せずに、現実を無視したオペレーションを継続する。それは、第二次大戦の大本営と、現場の軍隊、一般市民との関係と全く同じではないかと感じた。
当時、PKOには多くの国が参加した。参加した多くの国で反省が起こり、実体はどういうことになっていたのか、どうすべきであったのかの「検証」が行われ、レポートが作成された。PKOではないが、イギリスではイラク戦争への参加に関しての、6000ページにわたるレポートが作成され公表されている。日本では、そのようなレポートは作成されていない。どこの国も、現場と遊離した意思決定とオペレーションが行われることはあり得るが、その結果がどのようなものであったのかを「検証」し、「次に生かす」ことが大事であるはずだが、日本ではそれが起きない。何か欠陥があるのではないだろうか、と思う。本書籍自体は「検証」ではあるが、民間機関によるものであり、政策・行政には反映されない。だからといって、番組や書籍の価値を減じるものではなく、素晴らしいノンフィクションだと思う。続きを読む投稿日:2023.08.17
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