3時のアッコちゃん
柚木麻子(著)
/双葉文庫
作品情報
「アッコちゃんシリーズ」第二弾、待望の文庫化! 澤田三智子は高潮物産の契約社員として、シャンパンのキャンペーン企画チームに入っているが、会議は停滞してうまくいかない。そこに現れたのが黒川敦子女史、懐かしのアッコさんだった。イギリスでティーについて学んできたというアッコさんが、お茶とお菓子で会議の進行を激変させていき――!?表題作ほか、「メトロのアッコちゃん」「シュシュと猪」「梅田駅アンダーワールド」を含む全4編を収録。
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商品情報
- シリーズ
- 3時のアッコちゃん
- 著者
- 柚木麻子
- 出版社
- 双葉社
- 掲載誌・レーベル
- 双葉文庫
- 書籍発売日
- 2017.10.01
- Reader Store発売日
- 2017.12.22
- ファイルサイズ
- 0.6MB
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この作品のレビュー
平均 3.6 (105件のレビュー)
-
『ねえ、利休は何故、秀吉に殺されたと思う?』
“特別なスキルや経験がなくても誰でもできる仕事”、それを世間では『雑用』と呼びます。『会議室を押さえて、声がけして、進行役して、議事録を作って、つまむお…菓子を用意して、お茶を配って…』、と自らの仕事を列挙して、それを『雑用』であると言う主人公。世の中には色んな仕事があり、それぞれの仕事に人が割り当てられています。でも、そんな『雑用』という仕事も人が変われば、その結果は決して同じにはなりません。『ただのお茶汲み』と考える人が淹れるお茶と、『お客様さまのために』と考える人が淹れるお茶。それを振る舞われる側の印象が同じになるはずがありません。そんなことこんな場で言われても困る、言いたいことは分かるけど実際にはそんなものは理想論という考え方もあるでしょう。でも世の中にはそんな風に切り捨てない人がいます。『すべてはお茶とともに始まる』と考える人がいます。そんな『お茶を用意することは、場の主導権を握ること』と考える人がいます。そして、そんな『お茶汲み』をする人に『今ならチャンス』と説く人がいます。あの某大物歌手を彷彿とさせる『おかっぱ頭の大女』それが、アッコさん。これはそんなアッコさんが主人公たちを振り回していく物語です。
「ランチのアッコちゃん」の続編として書かれたこの作品。「ランチの」同様に四つの短編から構成されています。そして「ランチの」同様に前半の二編でのみアッコさんが大活躍し、後半二編は、アッコさんのお店の名前が街の風景のひとつのようにさらっと出てくるだけです。アッコさんのあの濃いキャラが四編連続して胃もたれしないように、もしくは出し惜しみにも感じる割り切った構成です。私としては前半の二編、特に最初の〈3時のアッコちゃん〉が内容的にも読み応え十分に感じましたので、このレビューではこの短編に絞って書いていきたいと思います。
『ソーダ味のアイスキャンディーの最後のひとかけをかじりとると、前歯の付け根から頭のてっぺんにかけてぴりりと白い稲妻が走った』と仕事中にこっそりアイスを食べるのは「ランチの」の主役・澤田三智子。『レジ台の前に客が立ったことに、しばらく気付かなかった』と目の前に置かれた本を見る三智子。『風にのってきたメアリー・ポピンズ』『クマのプーさん』…『随分たくさん買い込むなあー』と思いながら『視線を本の背表紙からその客へと移す』と『おかっぱ頭の下でぎろりと光る黒目がちの目にぶつかり』悲鳴を飲み込む三智子。『はずれ』、『食べ終わったばかりのアイスキャンディーの棒を取り上げ』、『店番してる時くらい、飲食は我慢しなさい。まったく』と叱るのは『約半年ぶりに再開したかつての上司、アッコさんこと黒川敦子』でした。『この半年、メールをしてもほとんど返信してもらえず、たまに連絡がついてもそっけなく、寂しい思いを噛み締めていた』という三智子。『領収書お願い。宛て名は「株式会社 東京ポトフ&スムージー」で』というアッコさんは『ポトフの方は今お休みしてるの。暑くなるとさっぱり儲からない』と説明します。そして『客が入ってきてもいらっしゃいませも言わない。そんなんじゃ古書店の妻は務まらないわよ』というアッコさん。『あなた、今もまだ高潮物産にいるんだったかしら?』という問いに『五月の昇進試験で派遣から契約社員に昇格しました。いまは宣伝部広報課にいます。でも、ただの雑用です』、『本当にただの雑用ですよ。会議室を押さえて…お茶を配って…』と返す三智子。それに対して『すごいじゃないの。ねえ、利休は何故、秀吉に殺されたと思う?』と突拍子もないことをいうアッコさん。『時の権力者にお茶を振る舞うことで、権力者よりも優位に立ち、政治を意のままに操ることが出来たからよ』というその答え。そして『お茶を用意することは、場の主導権を握ることなの。今ならチャンスじゃない。進行役なら立場を利用してどんどん企画を出しなさいよ』と迫ります。『そんな図々しい真似出来ません』とたじろぐ三智子に『そうだわ。いいこと思いついた!週明けから五日間、あなたの会社に通い、会議に出すアフタヌーンティーを用意するわ』と言い出すアッコさん。『アッコさんが?高潮物産に来る⁉︎困ります。絶対来ないでください!』と『首の上から血が引』いた三智子。そんなアッコさんは高潮物産で何をしようと考えているのでしょうか、そして三智子の運命は…というこの短編では「ランチの」の勢いそのまんまにアッコさんが物語をぐいぐい引っ張っていく、そんな勢いのある物語を堪能させていただきました。
“会社”を舞台にするこのシリーズでは、「ランチの」もそうですが、月曜日、火曜日…金曜日と日毎に”会社”の中で繰り広げられるドタバタが五日間という枠内でテンポよく描かれていきます。それは〈3時の〉でも同じこと。週末の金曜日のクライマックスへ向けて、何かが起こり、何かに気づき、そして何かが変わっていくというこのある種パターン化された展開が心地よくリズムを刻んでいきます。『この作品はスピーディーなところが良さなので』と語る柚木さんの狙い通りに繰り広げられる月〜金のドタバタ劇。ただ、よくよく考えると、それは私たちの普段の日常そのものなんだと思います。このレビューを読んでくださっている皆さんの多くは月〜金に働いてという方が多いのではないでしょうか。私もそうですが、そんな月〜金の繰り返しの毎日の中では、その日々はいつの間にかパターン化していきます。『会議というのは、リミットを設けないと何も決まらない』とはよく言われることですが、それが分かっていてもダラダラと時間だけが過ぎてうやむやになっていく、そんなことってあなたの会社にはないでしょうか。そんな会議の場も発言する人、しない人が固定化されて、そんなことまでもがパターン化していく日常。そんな中に『もしかして、会議ってすごく楽しいものなのかな?』という気づきが生まれたとしたら。『そうか。これは喧嘩じゃないんだ。議論なんだ』と会議とは何かに気づくことがあったとしたら。『違う意見がぶつかり合う、それこそが会議なのに』と今更であっても気づく瞬間の到来。そんな瞬間に『ずっと止まっていた時間がようやく動き出した』と感じる三智子の感情は、そうは言ってもね、と一方で感じることはあっても、会社員として働かれている皆さんには何かしら感じるところもあるのではないかと思います。うちの会社にもアッコさんが来てくれたなら、アッコさんに相談することができたなら、とこのシリーズを読んでふと感じる思い。アッコさんとは、繰り返しの日常に、まだおかしいと感じることのできるそんな普通の会社員にとっての永遠のヒロインなのかもしれません。
「ランチの」同様にアッコさんがグイグイと突き進むパワフルな行動力が物語を動かしていく前半の二つの短編。しかし、「ランチの」でもそうでしたが、書名にまでなっているのに、それぞれの短編における主人公は決してアッコさんではありません。一編目は澤田三智子であり、二編目では榎本明海です。そんな中にあってアッコさんは『強烈な存在感』を持った存在として、主人公たちをただただ振り回していく、どちらかと言うと迷惑な存在として描かれていきます。最初はそれをただの迷惑としか考えない主人公たち。でも、アッコさんに有無を言う間なく振り回されていく中で主人公たちの心に変化が訪れます。〈3時の〉で澤田三智子はそんなアッコさんのことを『いつも荒唐無稽で夢みたいなことばかり言う』人であると語ります。「ランチの」に続いてアッコさんに振り回されてばかりの三智子の心中は確かにそうだろうなと思います。一方でそんな三智子は、『それは想像力が自然と体から溢れ出てしまうからなのだろう』と考えます。そして、『人は想像力に救われ、想像力にお金を払う。不景気で夢を見られない時ほど予期せぬサプライズを切望する。それはまぎれもない事実なのだ』と気づきます。それを言葉ではなく行動を持って教えてくれたのがアッコさんでした。人によって悩んでいること、苦しんでいることは異なります。その一つひとつを個別具体的に解決していくことは、流石のアッコさんにだって、たやすいことではないはずです。また、それはアッコさんのタスクでもありません。『道しるべならこの手の中にあるのだ。いつだってヒントはそばにある』というように、結局、その答えを知っているのも、その答えを握っているのも自分次第ということ。そう、『それに気付くか気付かないかは自分次第なのではないか』。そんな気づきのヒントを教えてくれたのがアッコさん、この作品の影の主人公であるアッコさんなんだと思いました。
『人の話聞かないし、威圧的だし、自分勝手だし、怖いし、おせっかいなくせに秘密主義でぜんぜん心を開いてくれないし…』という主人公が思うアッコさん。それだけ聞くと、うちの職場にもいる、そういう人…という嫌な人物像。『でも、面白かったんですよね。彼女と働くのは』と続くその言葉に感じる驚き、そして、会ってみたいと感じる魅力的な人物像。そんな魅力的な人物が全力で駆け抜けていくこの作品。
進むべき道を見失った、そんな時に現れるみんなの永遠のヒロイン、それがアッコさんなのかもしれない、そんな風に感じた作品でした。続きを読む投稿日:2020.09.08
アッコちゃん第二弾これもまた面白かった。
自分の能力の無さに打ちひしがれ、だんだんと元気とやる気と目標を取り戻していく。アッコちゃんには元気をなくしている時に現れ気付かせてくれる。
誰かの役に立てるお…せっかい。私も誰かにおせっかいしてあげたくなった。続きを読む投稿日:2024.03.18
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