国力とは何か―経済ナショナリズムの理論と政策
中野剛志(著)
/講談社現代新書
作品情報
東日本大震災のような本当の意味での「危機」には、国家が強いリーダーシップを発揮し、国民が団結をして行動することにより生み出される「国力」が求められている。そして「危機」は自然災害や事故に限らない。金融市場の崩壊やデフレ不況という経済危機も、克服しなければならない「危機」である。本書は「国力」の重要性と、豊かな経済社会を取り戻すための経済ナショナリズムの有効性を説く。
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商品情報
- 著者
- 中野剛志
- 出版社
- 講談社
- 掲載誌・レーベル
- 講談社現代新書
- 書籍発売日
- 2011.07.20
- Reader Store発売日
- 2017.10.27
- ファイルサイズ
- 1.6MB
- ページ数
- 256ページ
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この作品のレビュー
平均 3.9 (30件のレビュー)
-
本書を読み終わって、これは経済書でもあるのだろうが、世界経済の現状を鋭く分析し、日本が今後進むべき道を指し示した政治的イデオロギーの書でもあると驚嘆した。すごい本である。
本書はまず「危機に直面す…る世界」で、グローバル経済と経済危機について考察している。経済がグローバル化した世界では「国家が労働市場の規制を緩和しなければ、国内ではなく海外へと投資するようになってしまう。それを恐れる国家は・・・労働市場の規制を緩和し・・・賃金を引き下げたりできるように・・・構造改革を実施するようになる」と語る。そしてその構造改革は、必然的に労働賃金の低下を招き、デフレへとつながる。本書は、「グローバル経済」と「構造改革」とそれを裏打ちする「新自由主義思想」、その結果の「労働賃金の低下」と必然的に「デフレ」を招く等の諸関係を整合的かつ論理的に主張しており、それは説得力がある。
経済危機の背景である世界経済の「グローバルインバランス」についてもわかりやすく主張している。アメリカが過剰な消費で経常収支の赤字を積み上げ、東アジアの新興国と中東諸国が経常黒字を抱える世界レベルの経常収支不均衡の構造は、持続可能性がない構造だったというのだ。そうであるならば2008年のリーマンショックから現在に至る世界経済の危機は、必然だったというわけか。本書では、その根本的解決策として「リバランス」すなわち世界レベルの経常収支不均衡構造の是正しかないとしているが、現在の世界はそれに失敗しているとしている。どの国も自国での経済危機と失業率の増大を抱えて輸出増を目指しているが、今までのアメリカのように巨大な貿易赤字を積み上げてきた国が新たに出現でもしない限り、実現不可能だ。本書では、詳細な考察のもとに、「現在の世界的な危機は、かつての世界恐慌時より深刻」と結論する。この一見出口がない危機に対して、本書ではその解決策として「経済ナショナリズム」を提唱している。
「経済ナショナリズム」とは、あまり聞いたことがない言葉だと思った。本書は「国家」と「国民」「国力」等について、歴史を含めて精緻な論理を展開するが、その内容は決して退屈ではない。これは、過去の「右」と「左」の概念を超えていると感じた。経済ナショナリズムの内容では「国家(ステイト)」と「国民(ネイション)」を区別することが重要だと主張する。「国家(ステイト)」は法の支配や権威によって人民を統合する。国民は「国民(ネイション)」共同体の一種だという。ここまで根源的に思考しなければ、世界経済の現状と危機は理解できないというのだ。これはイデオロギーだと思ったが、斬新にも感じた。
そして「経済ナショナリストはネイション内における資本家階級と労働者階級の対立を招くような経済政策を採用しない」「経済ナショナリストが選択するのは、同じ国の資本家と労働者が相互に協力し、利益を分かち合うような政策理念なのである」と語る。著者が動画の中で、PTT賛成論者に対し攻撃的に「売国奴!」と罵る姿があったが、このような理論的基礎が背景にあったのかと思わず頷いてしまった。
本書では「我々に残された選択肢は、国民国家をより良いものに改善し、国民国家の力をもって、グローバルな諸課題を解決する」「資本主義をグローバル化するのではなく、その反対にナショナル化していく、つまり国民のものとする」と主張する。じつに説得力のある素晴らしい主張ではないかと思った。
まだまだ多くの議論を経る必要はあるだろうが、堅牢な論理と激しい攻撃性、冷徹な知性と、人間に対する深い愛情やロマンに満ちた本を久しぶりに読んだ。思わず読後にもう一度読み直してしまった。本書を絶賛したい。続きを読む投稿日:2011.12.20
世界中の経済活動が相互に繋がった世界。ウクライナ紛争やスーダンの内戦、干魃や洪水などの災害が世界のどこかで発生すると、原材料の高騰や輸送手段が停滞して混乱を招くなど、現代社会はグローバル経済の名の下で…綿密に絡み合っている。一方アメリカやイギリスでナショナリズムを鼓舞するような指導者が現れ、自国最優先を謳う政権が第1党になるなど、閉鎖的にブロック経済に向かう流れもある。とは言え一度絡み合った世界から抜け出すのは難しい。日本もTPP参加を積極的に進め、遅れてやってきた自由経済圏競争の流れに飛び込もうとしている。最近ニュースでも環太平洋諸国による強固な連携を強調することが多い。これはひとえに中国の南下政策への牽制の意味ではあるが、中国の経済力にものを言わせた覇権主義に対抗するためには、太平洋を囲む各国が経済的に連携・協力する事なしにこれを防ぐことはできない。
本書はそのようなグローバル化する世界経済において、国力をベースとした経済ナショナリズムの優位性を説いていく。ナショナリズムというと、一時ニュース映像でも見かけた、国民の愛国心を煽って政府が国家一体の施策を強行するといった危険なものではない。ましてやナチスドイツ、帝国時代の日本とは全く違う。
経済ナショナリズムそのものも複数の学説があり、自由主義に対抗する保守貿易などの閉鎖的鎖国政策を指すわけではなく、国としての政治・経済・文化・技術などの国が持つ能力を国力として蓄え伸ばすことを優先するものである。国が富む上では大きく力を以ってして他国から搾取・支配することによってもたらされるものと、自らが国力中でも経済を強靭化して富を作り出す方法があるが、後者について述べている。
そもそも国自体に軍事力や経済力などが無ければ他国を支配するなど無理な事であるから、内部に力をつける考えは当然と言えば当然ではある。本書は能力を備えずにグローバル化する政府の方針には批判的だが、基本的に低生産性と独自の島国的な閉鎖社会を持つ日本が無策のまま世界に出ればどの様な結果になるかは火を見るより明らかだろう。
筆者は後半そのような独自の文化圏や国民性を持つ日本において、今後どのように国力をつけて経済的な発展をすべきかヒントをくれる。経済的には失われた30年を経て、給料も経済も上向きする事なく停滞してきたが、日本は能力を失ったわけではない。寧ろそうした国民性は他国に比べてまだまだ強みであるし、米や酒、和牛にロボット、アニメなど先行している分野を強みとして生かしていく事で、本当の意味での国力を強化すべきと説く。
労働者は皆、日本の給与水準が低いと嘆いているが企業の技術革新力や対外的な競争力低下を見れば続きを読む投稿日:2023.05.27
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