一つ屋根の下の探偵たち
森川智喜(著)
/講談社文庫
作品情報
“なまけものの探偵”と“働きものの探偵”、二人の探偵とハウスシェアを始めた新人エッセイストの浅間修は同居人の探偵を対決させて、捜査についてルポルタージュを書くことに。奇妙な密室で男が餓死し、その床にはアリの巣のような穴があいていた「アリとキリギリス事件」に遭遇。ルポに採用されるのは一人だけ。勝負を面倒がる探偵・天火隷介を、真面目な探偵・町井唯人が説得し、二人は対決することに。
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商品情報
- シリーズ
- 一つ屋根の下の探偵たち
- 著者
- 森川智喜
- ジャンル
- 小説 - ミステリー・サスペンス・ハードボイルド
- 出版社
- 講談社
- 掲載誌・レーベル
- 講談社文庫
- 書籍発売日
- 2017.09.14
- Reader Store発売日
- 2017.10.13
- ファイルサイズ
- 2.8MB
- ページ数
- 336ページ
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この作品のレビュー
平均 3.4 (6件のレビュー)
-
このレビューはネタバレを含みます
冴えた、発想力や推理の派手さが目立つ近年良く見る有能な探偵を先に出し、その後もこれでもかと地道な探偵をふわふわと浮き沈みさせ、浅間と一緒になってハラハラ眺めて応援しちゃう作りになっており、最後はどんでん返し!と言っても発想の転換と地道な捜査で集まった情報でころっとすんなり解けちゃった…という本来の探偵というものが勝利する形は、近年の探偵ものでは珍しいなと感じ、面白さがありました。(他作品のやつになりますが眼鏡の少年ではなく、おっちゃんが頑張る回みたいなやつです)
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文章に関しては浅間が途中原稿を埋められない!と嘆いたように、文字数を埋めたいだけの文章感が抜けず、読んでいてダレてしまいました。星4にしたい所なのですが、その点で3にしました。
ただ、最後の町井の自分がどれだけ無能なのかを一心不乱に喋っている所。ここが凄く良かったです。ここまで頑張っていたのにポキリと心が折れた時の彼のキャラクターは素敵で、空想的仮説推理を長々と読むより、こういったキャラクター性を絡めた会話がもう少しあれば楽しめたのになあと思いました。(浅間に引きずられていく町井も良かった。)沢山の仮説を長々と説いてしまうのが天火とマイのキャラクターなんでしょうけども、ツッコミが不在で止まらなくなってるのでしょうね…。浅間には頑張って欲しいです。
投稿日:2021.09.01
このレビューはネタバレを含みます
〇 総合評価 ★★★☆☆
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〇 サプライズ ☆☆☆☆☆
〇 熱中度 ★★☆☆☆
〇 インパクト ★★★☆☆
〇 キャラクター★★★☆☆
〇 読後感 ★★★★☆
〇 希少価値 ★★☆☆☆
〇… 評価
アリのような探偵である町井唯人と,キリギリスのような探偵である天火隷介の二人とハウスシェアをすることになった浅間修が,二人の探偵とタイアップ作品を企画するという設定。タイアップ企画の対象となるのは「旅亭経営者餓死事件」(通称,「アリとキリギリス事件」)。この「アリとキリギリス事件」が,奇妙な密室事件。部屋内に仕掛けられた数字錠。この数字錠の鍵を被害者は知っている。床には謎の穴が開いている。そしてその密室で餓死している被害者。
この事件を町井と天火の二人が捜査し,推理する。この物語の設定では探偵としての実力は天下〉町井。完全に天下の方が上手だがやる気がない。やる気はあるが探偵としての実力は天下に及ばない町井。この二人の対決となる。終盤,片霧マイという町井の元妻が登場する。このマイがかなりの名探偵。この展開はちょっとだけサプライズ。しかし,このサプライズをそれほどいかすこともなく,真相の一部を天下が解明,ほかの一部をマイが解明して,最後の一部を町井が解明する。マイと天下が真相を解明できなかった理由は,犯行が「アリ」的だったから。密室トリックの真相は,犯人が穴から足を掴み,餓死するまで掴み続けたというトンデモトリック。バカミスだ。
文体はユーモアがあるが,「幼稚」と感じるほどではない。それなりに読みやすい,軽い文体。設定は,リアリティこそないが,面白い。二人の探偵の推理合戦というのはミステリファンなら心躍らせる展開。片霧マイという第三の探偵が登場するのは,推理対決としてはやや興冷めだが,マイのキャラクターはそれなりにいい。問題は推理対決の対象となる謎。アリ的犯罪にして町井が勝展開にしたかったのかもしれないが,これはひどい。仮説として天下が披露する真相もそれほど面白くない。バカミス的トリックばかり。ミステリとしては弱い。
読みやすい作品ではあるし,バカミス的トリックにインパクトもある。設定も面白い。物足りない部分はミステリとしてのデキの悪さ。設定的に倒叙に近く犯人は誰かという興味はないのでサプライズも薄い。設定はよく,キャラクターはそこそこ。しかし,ミステリとしてはイマイチという作品。トータルの感想はギリギリ★3かな。
〇 メモ
主人公,浅間修は,アリのように探偵をする私立探偵「町井唯人」と,キリギリスのように探偵をする私立探偵「天火隷介」の二人とハウスシェアをすることになる。初対面のときの推理の披露から,探偵としての力量は天火の方が上手のように見える。
ハウスシェア生活の中で,町井は料理や家事などを担当する。料理はプロ級の腕前。浅間の出版社関係のパーティなどに町井が着いていくことがあり,人脈作りに役立てる。また,ハウスシェアをしている家の看板には中立のため,「アサマ探偵事務所」という名前が付けられた。
あるエッセイストの受賞パーティで,探偵業と執筆業のタイアップの話を聞く。町井も天火も乗り気だった。
編集部に相談したところ,報酬を出せるタイアップ相手は一人という。浅間,天火及び町井が相談した結果,天火と町井が同じ事件を捜査してどちらかをタイアップするということになった。
天火と町井の二人が捜査する事件は,「旅亭経営者餓死事件」(通称,「アリとキリギリス事件」。「はす亭」ちう旅館の旅館経営者の鷹取大作が倉庫で餓死した事件。倉庫の鍵は内側に付いている数字錠であった。大作は,開けるための番号を知っていたので,内側から開けることが可能。なぜAは餓死してしまったのか…という事件である。
鷹取大作の死後の旅館経営の中心者は大作の妹と弟である鷹取麗と鷹取拓也。事件の実質的な依頼人は,従業員である鳥羽美鈴。天火は捜査に参加しなかったので,町井による捜査が行われる。大作が死体で発見された密室には穴があった。その穴は前々から開いていたが,ごく最近,直径が広げられたという。直径20センチほどの穴である。内側に仕掛けられていた数字錠の鍵は「704」。これを大作が覚えていたことは間違いないという。町井はゴミ捨て場の捜査,ゴミ箱巡りなどの捜査をするが風邪が悪化する。町井は浅間までを騙し,犯人である鷹取麗と鷹取拓也から,現場の床の破片という証拠をだまし取ることに成功する。しかし,二人が部屋を開けた隙に,その証拠品は鷹取麗達に取り戻されてしまう。
町井の捜査を天火に報告。天火は証拠品が,上げ底になっていたゴミ箱の中に隠されていたことを推理する。町井は天火の勝ちを認める。しかし,浅間の筆力では天火の捜査では原稿の枚数を埋めることができない。そのことを伝えると天火は負けるのは嫌だとして,年に3回くらいしか使わない奥の手として,「栄養ドリンク」を飲んで自ら捜査に出るという。
天火が推理すべきポイントは「鷹取姉弟がいかにして,被害者が動けない状態を作ったのか。」という点と「鷹取姉弟が,いかにして,倉庫の扉を内側からロックたのか」という2点。天火は町井が撮った写真を確認し,ドアの蝶番を外側に付け替えることで鍵を内側からロックしたのだと推理する。天火は最後の謎である「鷹取姉弟がいかにして,被害者が動けない状態を作ったのか。」を解明するために,現場に向かう。現場に向かう前に町井の元妻である「片桐マイ」がやって来る。捜査にはマイも同行することになる。
天火は3つの仮説を披露する。1つ目は餓死した大作を他から連れてきたという説。これだと穴が拡大された理由が分からない。2つ目は倉庫をクレーンで吊るしたというトンデモ推理。これは倉庫が地面と固定されているタイプなのでダメ。机上の空論。3つ目は強力な酸性の液体が腰の高さまで入れられたというもの。これは倉庫に隙間があるので机上の空論だという。ほかにも天火はさまざまな仮説を考えているようだが決め手に欠ける。犯罪は「キリギリス的」なものであるはず。しかし,この事件は何かおかしいという。
マイの推理。マイは「町井の推理」という形で自分の推理を告げる。ポイントはホワットダニット。つまり,「なぜ,倉庫の中で餓死させたのか。」。マイはこれを「アクシデントの結果生まれた」のだと推理する。現場の鍵は数字錠ではなく鍵の南京錠だった。これを被害者が事件直前に数字錠に変更した(これについては伏線あり)。犯人は,穴に鍵を落としたという構造の事件を作りたかったのだという。
マイが経営する喫茶店は赤字を出している。このままでは閉鎖しなければならない。タイアップ企画の報酬があればなんとか救える。マイは町井が探偵を目指したときのエピソードを浅間と天火に伝える。天火は八百長はできないという。
アリとキリギリス事件の真相はなかなか見つからない。町井は拓也が事件の日にはす亭に戻らなかったと推理する。そして,最後は町井がこの事件の真相を推理する。この事件は「アリ」的な真相だった。拓也が穴から大作の足首を掴んで動けなくしていたというトリックだった。天火は町井に「お前は賢いアリだ」と伝える。続きを読む投稿日:2018.12.16
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