ゲンロン0 観光客の哲学
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第5回ブクログ大賞[2017] 人文書部門受賞。否定神学的マルチチュードから郵便的マルチチュードへ――。ナショナリズムが猛威を振るい、グローバリズムが世界を覆う時代、新しい政治思想の足がかりはどこにあるのか。ルソー、ローティ、ネグリ、ドストエフスキー、ネットワーク理論を自在に横断し、ヘーゲルのパラダイムを乗り越える。著者20年の集大成、東思想の新展開を告げる渾身の書き下ろし新著。
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この作品のレビュー
平均 4.1 (39件のレビュー)
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不思議な本である。そして同時に傑作である。
本書のテーマは重い。極めて重い。今の世界が直面する困難の構造を析出し、それを突破する主体を構想する。それが本書の目的である。ところが、その重すぎるテーマを…前にして本書の叙述スタイルはなんだかとっても妙だ。文章はわかりやす過ぎるほどに明快であり、哲学書・思想書にありがちな晦渋さとは無縁。随分くだけた表現もあり、場違いなほど俗っぽい物言いに思わず吹き出してしまうこともしばしばだった(とはいえ、これは東の話術=トークにおいてはおなじみのものだが)。もともと著者・東は複雑なものをシンプルに整理して提示する達人だが、本書ではその技術がいよいよ究められつつあるように感じられる。
全体の構成も面白い。本書は二部構成で、第1部ではまず今の世界のありようを描き、それに抵抗する主体として観光客=郵便的マルチチュードなる概念が提示される。この新しい主体のアイデンティティの在り処を探るのが第2部となる。詳細については実際に読んでもらえればいいのだが、東は上記のストーリーを描き出すために多様なモチーフを呼び出している。観光学や政治哲学を参照して記述する第3章あたりまではいいとして、第4章以降はネットワーク理論に情報社会論(サイバースペース論)にドストエフスキー論と怒涛の展開である。さらに第1章のあとに挿入される付論では東の過去の仕事であるオタク論および福島第一原発観光地化計画についても言及され、本書との接続が図られている。このような混淆性により、本書を読むことそれ自体が一種の知的観光となっている。まさに構成の妙と言えよう。
以上のような独特の叙述スタイルは、課せられたテーマの深刻さにもかかわらず、本書をさわやかで風通しのよいものとしている。この「まじめ」と「ふまじめ」の同居こそ、本書の不思議な印象の正体だろう。
内容については下手な要約をするより実際に読んでもらうのが一番だと思う。大変刺激的な議論である。第2・3章の近現代政治哲学の鮮やかすぎる整理は大変勉強になった。第4章で試みられる社会思想とネットワーク理論の接続は驚くべきアイデアであり、今後賛否両論を呼ぶことになるだろう。第6章は東の初期の仕事であるサイバースペース論のアップデート。第7章(最終章)のドストエフスキー論は感動的ですらある。
ついでに言うと、本書は「東浩紀による東浩紀入門」としても読むことができる。前述した「多様なテーマ」とは、つまりは東が過去に取り組んできた仕事の集積であり、それを「観光客」というパースペクティブから再構成し、そこに新しいアイデアを加えてできたのが本書ということになるだろう。これまで東浩紀の最初の一冊は『動物化するポストモダン』か『弱いつながり』あたりだったのかもしれないが、これからは間違いなく本書となるはずだ。入門したところから一気に最前線まで連れていってくれるのだから贅沢なものである。続きを読む投稿日:2017.04.07
批評誌ゲンロンの創刊準備号の体裁をとっているが、実質は東浩紀のそれまでの著作を踏まえた単著思想書となっている。平易な文体で哲学者紹介や数学概念を横断しつつ、資本主義と国家の二重構造を往来する観光客とし…ての思想的抵抗を提示する。第二部以降は第一部に比べ繋がりがなく、あまりまとまっていない印象を受けるが、それぞれ視点が異なっていてアイデアが興味深い。全体として説明が丁寧なので入門的にも読める。
国家社会・共同体はつなぎかえのスモールワールド、コミュニタリアンの理想としての形式。対して帝国は、新規参入の成長と優先的選択のスケールフリー的な世界で、資本主義やリバタリアンの主眼である。これら二層構造世界での抵抗として、郵便的マルチチュードが示唆されるが、それは自由で安全な往来が担保される観光客、換言すればつなぎかえの誤配、ルソー的憐み、ローティ的共感(偶然的矛盾をアイロニカルに受け入れる感覚)と言える。
それまでのネグリ・ハートの否定神学的なマルチチュードは、信仰告白に収斂する神秘主義・ロマン主義的自己満足でしかなく、共通思想の「ない」連帯が帝国に抵抗する結びつきが「ある」と信じる物語である。
偶然的に誤配される観光客を新しい人間の定義として指し示している。
また、個人でも国民でも階級でもない単位として「家族」を提示する。国民でも階級でもない、必然性と偶然性を包含するアイデンティティ。親から見て偶然性の子どもが必然性に変わる。
加えて別の視点から、情報社会での主体の構造を分析する。大文字の他者が不在のラカンを基礎に、ニコ生の構造を使ったイメージとシンボルの鏡像としての主体。
さらに文芸批評的に、ドストエフスキーのテロリスト小説の主人公の弁証法的乗り越えから新しい主体を考察する。亀山郁夫のカラマーゾフ続編空想から見る新しい主体としてのアリョーシャ、運命を子どもたちに委ねる不能の父。「誤配を起こす親としても生きろ」というメッセージで締め括られる。続きを読む投稿日:2020.11.23
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