みちくさ道中
木内昇(著)
/集英社文庫
作品情報
人生は、寄り道をしながら進むくらいがちょうどいい。真っ直ぐと「人間」を描く小説を世に送り出し続けてきた著者。ソフトボールに打ち込んだ学生時代、夢の職業だった編集者時代の心持ち、考えたこともなかった執筆への道、何気ない日常生活の一コマ。そして今、小説に込める思いと決意――。直木賞作家・木内昇を形づくる“道草”の数々を集め、新たな一面が随所に垣間見られる初のエッセイ集。
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商品情報
- シリーズ
- みちくさ道中
- 著者
- 木内昇
- 出版社
- 集英社
- 掲載誌・レーベル
- 集英社文庫
- 書籍発売日
- 2017.07.25
- Reader Store発売日
- 2017.10.06
- ファイルサイズ
- 0.5MB
- ページ数
- 224ページ
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この作品のレビュー
平均 4.3 (6件のレビュー)
-
“きうち のぼる”という男性かと思ったら、“きうち のぼり”という女性だった。
出版社で雑誌編集に携わった後、自分でもインタビュー雑誌を主宰し、その後、ひょんなことから小説を書くことになり、201…1年「漂砂のうたう」で直木賞受賞。その前後の年に雑誌や新聞に掲載されたエッセイを集めたのが本書。この作家の小説は読んだことないが、本のタイトルと装丁に惹かれて手に取った。
1967年生まれ。私と歳が近いから価値観が合うというか、お姉さんと慕いたくなるタイプ。
一番共感したのは「世の中の成分」というエッセイの中で、仕事で上司の雷が落ちた時、
「それは言われていない」「その指示は聞いていない」というときもあり、理不尽だと思えたが、仮に言われていなくてもその作業の必要性に気付けなかったのは自分の落ち度であるというところ。
そうなんだよね。「1言われたら10気付けよ」なんて今はあまり言わないようだし、逆に「誰にでも仕事が出来るようにマニュアル化しておく」ことのほうが今は重要視され、雷を落とすような上司のほうがダメになってきていると思うけれど。
かくいう私は、若い時も今も「1から12まで言われないと分からないタイプ」で、マニュアルがあってもすぐ何でも聞いてしまい、つい最近も「そのこと言われてませんでした」なんて年甲斐もなく言ってしまい、自分が教える立場の時はしょっちゅうキレていた。
だけど、心は分かっているのですよ。木内さんのような心を忘れたくない。もう、私が使えない奴でもだれも厳しく温かく叱ってくれない歳になってしまったからこそ、木内さんの言葉を読んで気持ちを引き締めたい。
木内さんがインタビュー雑誌の仕事で、とあるギター工場を取材したときのこと。そこは数々のミュージシャンが特注品を頼むほど質の高い製品を生み出す工場で、板をカットする人、弦を張る人、色を塗る人ときっちり専門が分かれた完全分業制だったが、職人のほとんどが、実は全工程を身に着け、ひとりでもギター一本を作れるらしい。そしてその技術は研修で身につけるのではなく、始業前や昼休みに銘々が他工程の仕事を見たり、職人同士教えあったりして、働きながら専門外の技もものにしてしまうらしい。
「全体が把握出来れば、仕事への理解もより深くなる。言われたことをただ言われた通りやっているうちは、仕事とは言えんのだ」
分かる分かる。そんな大人に囲まれていたから。自分の我が強すぎて、上手く成長出来ず、「今の若い人のほうが自分よりちゃんとしてるな」と思うこと多々あるけれど、心は木内さんのおっしゃること凄く分かる。
「誰かがそこに」というエッセイでは「絆」という言葉が一人歩きした2011年、孤独が必要以上に遠ざけられる風潮を残念に思うと書かれている。個を生きる上で、思いを周囲と共有出来ないこともあれば、状況的に孤立することもあるというのは当たり前に誰にでも起こることである。そんな時に大切な「絆」は「常に傍らに誰かいる」という状態だけではなく、遠くにいても思い出して心温まる存在があるということだと木内さんご自身の四半世紀に渡って付き合い続けておられる高校時代の部活仲間を例にあげて述べておられる。
インターネットの発達で広く速いニュースがどんどん入ってくるようになり、SNSで意見をタイムリーに交換出来るようになったけれど、果たしてその分人間の考え方が柔軟になったり、多様性のある意見を躊躇なく述べられるようになったと言えるだろうか?
確かに「多様性」の時代だが、それは社会のベクトルが「多様性」に向いているということで「多様性」に疑問を持つ人は認められないような「偽多様性社会」ではないだろうか。というような何となく私が常日頃抱いていた社会への違和感を感じおられた先輩に出会えたようで嬉しい。
直木賞を取られた「漂砂のうたう」については、維新により職を失った武士が主人公であるが、それは明治初年に限ったことではなく、研鑽してきた技術が新しいものに取って代わられて、自分の信じるものが時代にそぐわなくなるということは、現代にもいくらでも起きていると書かれている。現実社会で壁に突き当たったとき、内へ内へと籠もったり、身近な人と比べて落ち込んだりということは往々にしてあるが、少し目線を逸らすとあの時代にもこの時代にも自分と似た境遇の人がいた、そしてそれぞれのやり方で立ち直っていたということに気づく。歴史を知るということには自分もまた大河の一滴であるという引いた目線を獲得することであるから、
「昔の話」と線引きすることなく、今と地続きである歴史を今に迫ってくるような小説を書きたいと結んでおられる。
木内さんの小説読んでみたくなった。
続きを読む投稿日:2024.03.28
エッセイ。すごくまともな、というか、落ち着いた、真面目なエッセイだった。おそらく、彼女の生活自体も、落ち着いた慎ましいものなのだろう。
投稿日:2021.02.05
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