大学大倒産時代 都会で消える大学、地方で伸びる大学
木村 誠(著者)
/朝日新書
この作品のレビュー
平均 2.8 (13件のレビュー)
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このレビューはネタバレを含みます
本書の印象は、大学をテーマにしたジャーナリスティックな手法・内容だということだ。時勢に乗りつつ、各大学の現状や様々な取組みを広く浅く紹介した内容だ。都道府県別の大学進学率、主要大学を対象にした定員超過・定員拡大申請の状況、センター試験利用率、科研費採択件数と採択額、志願者数の変化等多岐にわたるデータが紹介されているが、表面的に紹介するだけで、深く切り込んだ分析はない。政治的、教育的あるいは学校運営的観点から、どのような問題点が孕んでおり、どのように現状を改善すべきなのかといった、建設的で未来志向的な提言もない。そんな本書が取り上げる話題の中で、印象に残った点について私見を述べたい。
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●防衛省の「安全保障技術研究推進制度」の助成に対して、応募を当面認めないとした、広島大学、長崎大学、琉球大学、関西大学、法政大学の方針に賛同する論調である。しかし、国立大学3校の判断は理解できるとしても、法政大学・関西大学は、日頃強調してきたはずの研究の自由を犠牲にしてまでこのような方針を出すのは、いかにもスタンドプレーという印象を持つ。そもそも基礎研究は、軍・民の区別は付け難いはずだ(インターネットやGPSが好例)。アメリカの大学の科学研究の飛躍的は発展は第一次大戦時のミリタリーからの資金の投入だったこと、現在も莫大な軍事費が投入されていることも忘れてはならない(ちなみに、広島と長崎の原爆投下計画「マンハッタンプロジェクト」を進めたロスアラモス国立研究所は、現在も核兵器開発やテロ対策など合衆国の軍事・機密研究の中核となる研究所であるが、カリフォルニア大学などの大きな収入源となっている)。両校の方針は、日本の科学技術の発展や研究者の養成にとってマイナスであろう。そのうえ、日本が隣国からの軍事的な脅威に晒されつつある「現実」、平和が一定の抑止力(=防衛力)の中で守られてきた歴史的な「現実」にも目を向けるべきだ。
●文部科学省が86の国立大学を3つの区分(世界最高水準の教育研究・特定分野での世界的な研究・地域活性化の中核)に分けたが、これが世間をほとんど騒がせることなく確定した。このことは、大学の類型化・種別化を提唱した中央教育審議会の「三六答申」や「四八答申」が大変な批判に晒され実現しなかった時代とは隔世の感がある。しかも、この区分は、ほぼ完全に戦前の高等教育機関の種別を下敷きにしているのだ。すなわち「世界水準の教育研究」に分類する大学は、ほぼ全ては戦前の帝国大学、旧制医科大学、官立大学、高等師範学校であり、例外は東京農工大学の1校のみである。しかも、旧制医科大学で「地域活性化の中核」に分類された新潟大学、長崎大学、熊本大学を合わせた4校を除くと、旧制国立大学=世界最高水準の教育研究に分類されており、文部省が90年代から推し進めてきた自由化・多様化路線が結局、日本の大学の階層・序列に変化をもたらすことができなかったことを証明する形となってしまった。教職員が固定化(終身雇用)され、給与も年功序列が基本で、外部資金の確保が欧米に比べて難しい日本の大学では、階層・序列の打破は難しいということだろう。
●私立大学については、早慶上智は、2016-17年度に定員拡大はしておらず、また早慶文系は10年前と比べて学費を下げており(p.86)、受験生の質(学力)を重視していると考えられる。しかしその次のグループに属するMARCHは定員規模拡大や入試の多様化路線を基本にし、早慶上智とは異なる方針を採る。関関同立は、同志社と関西学院がやや早慶タイプで立命館と関西がMARCHタイプとするが(p.70)、同志社は、2016-17年度に定員拡大と学費の値上げを行っており、また関西学院もこの20年間に大幅な規模拡張を図ってきたことを考えると、受験生の質を早慶ほどに重視しているとは考えにくい。関関同立は、常に一纏めにされてしまうことが象徴するように、要は受験生からすると個性が見えにくい大学群なのである。私立(志立)大学らしく、もう少し個性・特色の違いで勝負できる大学群とならないものかと思うのである。投稿日:2018.03.17
危機に面している大学の対応を類推して仕事に行かせるかと思い読んだ。生き残りのために時代に沿った学部開設など進化の重要性は習うべきだなと思う。ただコロナ前の内容なので大学そのものの動向を知りたい人には情…報が古すぎると思う。続きを読む
投稿日:2023.04.15
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