戦争にチャンスを与えよ
エドワード・ルトワック(著)
,奥山真司(訳)
/文春新書
作品情報
国連・NGO・他国の介入が戦争を長引かせるのだ!ベストセラー『中国4.0』の著者、待望の最新作!著者は古今東西の歴史に通じる一方で、実際の戦場も経験しており、各国の安全保障アドバイザーとして活躍しています。そのルトワック氏はこう断言しています。良心や正義感、人道的配慮にもとづく国連、NGO、他国による中途半端な介入が、「戦争」を終わらせるのではなく、「戦争」を長引かせている、と。なにも戦争を奨励しているわけではありません。「本当の平和は、戦争の当事者自身が戦争を倦むほど、徹底的に戦った後でなければ訪れない」のです。「難民支援が難民を永続化させる」「軍事力ではなく同盟関係がすべてを制す」など、見誤りがちな「戦争」と「平和」の見方を正してくれます。また、「平和のためにこそ尖閣に武装人員を常駐させろ」「日本の「あいまいさ」が中国の誤解を生む」「北朝鮮の核・ミサイル能力を侮るな」「日本が国連常任理事国になる秘策」といった日本への具体的な提言も満載。【目次】日本の読者へ――日本の新たな独立状態と平和1 自己解題「戦争にチャンスを与えよ」2 論文「戦争にチャンスを与えよ」3 尖閣に武装人員を常駐させろ――中国論4 対中包囲網のつくり方――東アジア論5 平和が戦争につながる――北朝鮮論6 パラドキシカル・ロジックとは何か――戦略論7 「同盟」がすべてを制す――戦国武将論8 戦争から見たヨーロッパ――「戦士の文化」の喪失と人口減少9 もしも私が米国大統領顧問だったら――ビザンティン帝国の戦略論10 日本が国連常任理事国になる方法<訳者解説>
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商品情報
- シリーズ
- 戦争にチャンスを与えよ
- 著者
- エドワード・ルトワック, 奥山真司
- 出版社
- 文藝春秋
- 掲載誌・レーベル
- 文春新書
- 書籍発売日
- 2017.04.20
- Reader Store発売日
- 2017.04.21
- ファイルサイズ
- 0.5MB
- ページ数
- 224ページ
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この作品のレビュー
平均 3.6 (33件のレビュー)
-
このレビューはネタバレを含みます
なかなか挑発的なタイトルです。
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本書は経済学者、戦略家、歴史家、国防アドバイザー、シンクタンクの上級顧問といった様々な肩書を持つエドワード・ルトワックの著作。
「戦争の目的は平和をもたらすことにある」
著者は本書の中でそう説きます。
この逆説的に思えるテーゼが何故言えるのか、それを実際の戦争(紛争)の歴史を振り返って説明をしてくれます。
本書は著者が過去に寄稿したいくつかの論文で構成されています。
そのため章ごとにテーマが変わるので、最初から最後まで一貫したテーマで通底しているわけではありません。
いうなれば過去論文の短編集、といった感じです。
◆「1. 自己解題「戦争にチャンスを与えよ」」および「2. 論文「戦争にチャンスを与えよ」」
冒頭にある通り、著者は「戦争は平和をもたらす」と説明します。
太平洋戦争や第二次世界大戦後、日米や西欧諸国の間に戦争は起こっていません。
一方でパレスチナや旧ユーゴスラビア諸国、ルワンダなど、長年にわたって紛争状態が続き、ゆえに国土が荒廃して発展の余地すらない地域が数多くある。両者の違いはどこから来るのか。著者は「外部から戦争が調停されたか否か」であるといいます。
なぜ外部調停により停戦を迎えた紛争が長年にわたり対立状態を解消できないのか、その理由が語られます。なかなか説得力のある理論であはありますが、現代の価値観からすると受け入れづらいものでもあります。
◆「3. 尖閣に武装人員を常駐させろ(中国論)」
ここでは、日中の尖閣諸島をめぐる対立について、日本側の「あいまいな」態度に警鐘をならしています。
なぜ「あいまいな」態度が事態を悪化させてしまうのか。中国の特異な政体と絡めて理由が語られます。
◆「4. 対中包囲網の作り方(東アジア論)」
中国(というよりも習近平)の野心的な行為と中国という国の幼児性・特異性が分析されると同時に、その覇権主義的な行動を抑え込むためのアジア各国およびアメリカの連携について語られています。
中国の分析がなかなか面白い。それと同時に反中同盟から脱落しつつあるフィリピンの分析もなかなか面白い。
◆「5. 平和が戦争につながる(北朝鮮論)」
本章は以下の指摘から始まります。
「北朝鮮は特異な政権である。特異な点として二つ挙げられるだろう。一つはリーダーのヘアスタイルがひどい、ということだ。」
ちょっと吹き出しました。本書ではこのような表現がちょいちょい出てくるのでなかなか楽しませてくれます。
しかしその後はまじめな話となり、北朝鮮が侮れない国であると説きます。
そして北朝鮮に相対する日本に選択肢を提示しますが、これがなかなか厳しい。。。
◆「6. パラドキシカル・ロジックとは何か(戦略論)」
パラドキシカル・ロジック(逆説的論理)について説明がされます。
これは1章や2章にも通底する内容です。つまり「戦争が平和をもたらす」「敗北が勝利をもたらす(逆に勝利が敗北をもたらす)」「大国は打倒できるが、小国は打倒できない」ということ・・・。なぜそのように言えるのか?
身近な例でいうと「中国は大洋覇権を握るために空母建設を進めているが、それがゆえに大洋覇権を握れない」。なぜそのように言えるのか。この分析はなかなか面白い。
◆「7. 「同盟」がすべてを制す(戦国武将論)」
ここでは戦国時代の武田信玄、徳川家康、織田信長の3名を取り上げて、彼らの戦略的優秀さを語っています。
外国人が日本の戦国大名について分析するとはなんだか違和感がありますね。ただここでの分析は一般論の範囲であり、要は戦術性と戦略性の2点が語られています。
本章終盤のメッセージは、今の日米同盟に照らし合わせるとなかなか含蓄があります。
「「同盟」は大戦略を遂行し、勝利を獲得するうえで不可欠な選択である。あらゆること(を一国でなす)には限界があるからだ。
・・・そして、もう一つ忘れてはならないのは、「同盟」という戦略は、しばしば不快で苦難を伴うものでもある、ということだ。」
◆「8. 戦争から見たヨーロッパ」
ここはなかなか面白い。著者の(マッチョイムズな)性格がもっともよく表れた章といえます。
一言でいうと、「戦士の文化の衰えた国は衰退する」ということです。
なんじゃそら!?と思いますが、ここで展開される論理がなかなか面白い。
「いずれにせよ、ここにシンプルな一つの事実がある。アンダーソン・クーパー(CNNのアンカー。すこぶるイケメンで紳士。だがゲイである。)には子供がいないが、トランプには子供が五人、孫に至っては娘のイヴァンカだけでも三人いる。将来、孫が10人から15人程度になるのはほぼ確実だ。
もちろん、アンダーソン・クーパーはフライトアテンダントの胸を触ったことがないほど上品だろう。ところが、彼には未来がない。トランプには未来がある。」
◆「9. もし私が米国大統領顧問だったら」
タイトル通りアメリカに提言する政策論が展開されます。それがビザンティン帝国や徳川幕府の戦略から導出されている点が面白い。
それに著者がオバマ大統領を良く思っていないところも面白い。オバマ大統領の上品さと著者のマッチョイムズの相容れなさがよくわかります。
◆「10. 日本が国連常任理事国になる方法」
まず著者が指摘するのは「常任理事国入りを目指して日本がとっている戦略は全くの誤りだ」という点です。
日本はブラジル、インド、ドイツ、ナイジェリア、南アフリカなどとタッグを組んで常任理事国入りを目指しているが、これで目標を達成できる見込みはゼロである、なぜか?日本は「誰も欲しない」プランを追及しているからだ、と著者は言う。
ではどうすればよいか?「カギを握るのはインド、そしてロシアである。」著者がこう説く論理はなかなか面白い。
本書は上記の1,2が本書のハイライトでしょう。挑発的なタイトルですし。
ここでのメッセージを簡単に要約するならば「対立する両者が自国のリソースを使い切るまで戦ってこそ、その後に平和が訪れる」ということです。
もし外部の調停で生煮えの状態で戦争を終えても、両者はまだ戦う力と戦意を残しているため、その後も対立と緊張状態が解消されないのです。この状態は国土の復興と発展を妨げるわけです。
また上記のアジェンダを通して分析される北朝鮮や中国、ロシアの性格についても興味深い。
著者は中国を「鈍感な国」といいます。
「さらに厄介な問題がある。中国は、隣国を完全に見誤る伝統を持っている点だ。
・・・この理解力のなさは1979年の中越戦争を考えても驚きだ。
・・・つまりベトナムは、中国にとって、隣国であるだけでなく、つい最近も一度敗北した相手なのだ。にもかかわらず、今回もまた失敗を繰り返しているのである。」
この鈍感さは中国の「組織的欠陥」に由来すると著者は言います。この分析はなかなか面白い。
またロシアにおいて、プーチンの国民に対する態度について説明した以下の内容はおもしろい。ロシアという国と国民の特異性をよく表していると思います。
「プーチン氏が自国民に発しているメッセージは、以下のようなものだ。
”ロシア国民よ、あなた方はアメリカ人のようにリッチにはなれないし、フランス人のようにエレガントにはなれないし、イタリア人のようにおいしいものも食べれられない。しかしあなた方は、世界最大の領土を持つ帝国の人間であり、これは誰に与えられたものではなく、戦争に勝つことによってロシア人自身が獲得したのである。・・・その代わりにロシア人は耐えなければならない。帝国の人間として耐え忍んでほしい”
このメッセージに対してロシア国民たちは「いいでしょう。あなたの言う通り耐え忍びます。国際的な経済制裁にも負けずに頑張ります」といっているのだ。」
こういった著者の歯に衣着せぬ分析やマッチョイムズな主張はなかなかユニークです。しかしその内容には的確さがある。
いつもは「まじめな評論家先生」の国際分析本を読んでいる方に、本書は面白い視点を与えてくれると思います。投稿日:2019.06.15
2024.02.07
2017年に刊行された本だが、ロシアのウクライナ侵攻、ハマスとイスラエルの戦いが現在進行形のいま読むと示唆に富んでいることに驚く。すると、尖閣はどうなるのか!
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