この作品のレビュー
平均 4.4 (5件のレビュー)
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昨年春に来日され、「世界で一番貧しい大統領」として、注目も集めたウルグアイ元大統領のホセ・ムヒカさんを取材された一冊。
ウルグアイの歴史・政治変遷なども勉強になるが、ムヒカさんの哲学に共感出来る事が…多く、自分の今持っている感覚が
間違っていないと思えて、安心する事が出来た。
躓きそうになった時に読み返したい一冊。続きを読む投稿日:2017.03.10
もので溢れ、使い切らない食べきれないものを捨てていく。一時期海を渡ってくる中国人の爆買いなんていう現象も見られた。兎に角、買う、消費する、捨てるを繰り返す人類。新型コロナで一時期はそうした消費行動もや…や沈静化したが、その代わりにネット通販が賑わい、街は配達のバイクやトラックで溢れる。今度はそうした輸送にガソリンや電気が大量に使われる。
それを良いという人も沢山いる。モノが消費されるから経済が活性化し、作る人、売る人、買う人、運ぶ人の間でお金がグルグル回り続ける事で国に税収があるし、それを使って社会をさらによくしているという考え方だ。確かに「国が富む」という点では間違ってはいない。しかし一連の大量生産には大量の資源消費と大量廃棄に伴って発生する二酸化炭素やプラスチックゴミの発生までを頭に描いている人は少ない。
国や人が裕福だと考える要因として、好きなものを好きな時に好きなだけ買えるという購買力や消費力があり、その大きさが一つのモノサシになっている。戦後急速に経済発展を遂げた日本人が海外まで大量に進出して、ブランド品や不動産を買い漁る過去は、今の中国人の行動と全く同じだ。国・人が富めば皆同じ様な大量消費に走るのだ。
太平洋戦争の頃、戦時中も戦後も何もなかった、食べるものさえ困った時代を経験した人達が、その苦境から立ち上がり、「24時間働けますか」の合唱の下、兎に角身を粉にして働いた。そうして得た給料で欲しかったものを手に入れ幸せを感じた。」手に入らない」から「手に入れる」へ。だから人々が欲しがる商品を開発し、売れ残った原因を分析して更に改良を加えてまた作るという流れは、産業技術の進歩や効率的な物流など過去との比較では「良くなっている」と感じる事ができた。今日もスーパーには大量の食材が並び、街のショーウィンドウやネットの販売サイトからは煌びやかなモデルが着こなす服やアクセサリーが目に入ってくる。ふと、この間買った服のタグを見るとバングラデシュと書いてある。
バングラデシュは昔も今もアジアの最貧困だが、他にもカンボジアやラオスなど、実際に行ってみるとその状況がよく解る。子供達は勉強の時間を割いてモノを売りに行ったり、運ぶのや店番を手伝ったりしている。少し田舎に行けば、旅行者の周りはモノ売りの子供達に直ぐに囲まれてしまう。日本でそうした状況は殆ど見ない。そうした国で作られたモノを安く仕入れ自国の経済の中に大量に放り込み経済が活性化したと喜んでいる私たち。
ホセ・ムヒカは世界で一番貧乏な大統領と呼ばれ、世界中の注目を浴びた。ウルグアイの大統領だった2016年の国際的な会議の場で、西欧諸国の大量消費行動をあげてそれが本当に幸せであるかを世界に問いかけた。人類は経済発展のために生まれてきたわけでは無い、買う為に費やした労働時間は返ってくる事は無く、買うために命を消費していると。このスピーチ内容はインターネットの力も借りてあっという間に世界中に広がった。大統領になっても小さなほったて小屋に住み続け、決して綺麗とは言えないズボンにヨレヨレのシャツを着こなすムヒカの姿は「世界一貧乏な大統領」としてニュースや雑誌に頻繁に掲載された。
本書はそうした大統領まで上り詰めたムヒカの経歴を辿り、彼が育ったウルグアイという地球で日本の真裏にある国の政治や社会環境を説明していく。若い頃は武闘派組織に所属し何度も牢獄に入れられ、世紀の大脱走や再収監、そして独房で10年以上も外の世界から隔離されるなど、信じられないような人生を歩んだ。その様な状況で裕福である事や貧乏である事自体が何を指しているか、自身の考えを作り上げ、政治の世界に飛び込んでいく。本書に記載されるムヒカの言葉で、自分は貧乏では無く、貧乏とは無限の欲に支配された心を持つ人間だという、この言葉に大きく頷く。前述の通り、使いきれないモノに囲まれ、それを買うために人生の時間を削っている事自体が幸せであるかとの問いかけである。だから本人も自分を貧乏だとは感じておらず、豪華な大統領官邸に住まず、国際会議にもエコノミークラスで移動する。そのお金があるなら、社会的弱者の病気に侵された人や最低の賃金しか貰えない人々のために使えば良いと。もし心の中の幸せを色で測る事ができるなら、清貧な暮らしを善とした明治維新前の日本人や現代のムヒカの方が圧倒的に明るい色をしており、満員電車で会社へ向かう現代日本人は灰色に見えるだろう。
私たちはこうしたムヒカの言葉や言動に学ばなければならない。本書を読んで今の自分が心の底から幸せか考えてみる必要がある。
後半はムヒカと同じ様な考え方を持つ日本人の企業家などにもインタビューをしていく。彼らの考え方や言葉も非常に心に響いてくる。都会の喧騒、大量消費社会から自ら距離を置き本当の幸せな暮らしを探す人々。そこからも多くを学べる。そして忘れてはならないのは、自分が今の目にしている世界が全てでは無く、水汲みや畑仕事や服を作る手伝いで満足に勉強できない子供達が世界中に沢山いる事。そうした子供達が勉強してこれからの世界を本当の意味で幸せにしていく可能性を秘めている事。自分が本当の幸せに気づけたら、気づかなくてもちょっと買うのを我慢すれば、きっと多くの子供達がもっと勉強できる事。
ムヒカに会って沢山話をしてみたい。齢90近い彼が本を書かない理由は、ペンをとって書き物をするよりも、考えながら行動する時間を惜しんでいるからだそうだ。さあ考えよう。続きを読む投稿日:2023.05.03
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