詩という仕事について

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  詩論として、しごく面白い。
  詩という謎
  隠喩
  物語り
  言葉の調べと翻訳
  思考と詩
  詩人の信条
  目次だけでもワクワクしませんか。

  投稿日：2019.07.20

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  ごじ

  ボルヘスは言った、〈胡蝶之夢〉という故事で荘子が虎でもなく鯨でもなくタイピストでもなくて、あの昆虫を選んだのは「ほとんど奇跡に近い」（P.46）と。だが、果たしてほんとうにそうだったのか？私は、プシュ…ーケーというギリシア語を引いて、心、魂という語義に続いて蝶という定義を見つけた。その時、荘子があの儚く軽やかな動物を選んだ――選んだのですらないのかもしれない――のは、奇跡というよりは必然だったという考えが萌し、恐ろしさにわなないた。別なる世界からのはたらきかけを受け止めた私の身体が、穏やかさのうちから飛び出て、崖を離れ、曳航の途に衝いたのである。
  
  魂は物質と物質の〈あいだ〉を流れて共振し合う。それと全く同様に、物質もまた、魂と魂の〈あいだ〉を流れ、交換可能に、たゆたっている。現実と夢を結ぶ〈蝶番い〉部分に住まうのは〈蝶〉だけではない。私たち人間こそが、その現実と夢の〈あわい〉に生きている、というよりむしろそこにしか生きられない。魂の軽やかさ、儚さ、交換可能性は「奇跡」でも何でもなく、魂と物体に通底する（逆説的だが）「本質」なのだ。重さを持たず、重力を忘れ、物質と魂の〈あいだ〉をどこまでもひらひらと羽搏き、流れていくものは、私たちの実体なのだ。
  
  〈胡蝶之夢〉は隠喩などでは決してなく、私たちの現実の不可分な一部である。そこにこそボルヘスが覗いた神秘と深淵がある。ほんのささやかな宇宙の脈動に呼びかけられてきざす魂の変転。それは、ふと、風が、わたり、菩薩の瓔珞に投げかけられた翳をうごかすほどのことにすぎないのかもしれない。続きを読む

  投稿日：2019.07.31

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