技術者たちの敗戦
前間孝則(著)
/草思社
この作品のレビュー
平均 3.9 (13件のレビュー)
-
内容(「BOOK」データベースより)
大戦中の技術開発研究は、二十代~三十代の若き技術者たちが担っていた。情報遮断と材料不足の厳しい状況下で多くの成果を上げるが、敗戦によって開発の断念を余儀なくされ…る。しかし、彼らは渾身の力を込めて立ち上がり、新しい産業に技術を転用させ、日本を技術大国へと導いた。零戦の設計主務者である堀越二郎、新幹線の生みの親・島秀雄、ホンダF1の中村良夫など、昭和を代表する技術者六人の不屈の物語。現在の日本の基盤を支えた、若くも一流の技術者であった彼らの哲学と情熱の軌跡をたどる。続きを読む投稿日:2017.08.07
このレビューはネタバレを含みます
①堀越次郎
レビューの続きを読む
堀越はかなりの年齢になってからも、航空機の一設計者として、自らが知らない新技術や新しい理論を目にすると強い興味を示した。空力や構造設計面での新しい理論的考え方などが学会誌に掲載されると、…その論文の発表者に連絡して訪ね、さらに詳しい説明を求めて議論するなど、晩年まで最新技術に対する関心を失わなかった。
航空技術者ならば、誰もが知る有名な零戦の設計者の堀越が、あまりにも熱心に根掘り葉掘り質問し、自らもそれを確認して納得しようと、難しい計算に取り組む姿には、論文を発表した若い技術者も頭が下がる思いであった。それと同時に、昔の設計主任はこれほどまでに航空機に対して情熱をもって取り組んでいたのかと驚きを覚えたという。
先の鳥養は、一九九〇年代前半、日米の共同開発となった支援戦闘機FSX(F2)などの開発経過を踏まえながら、最近の航空技術者について次のように語っている。
「…だから、航空機の設計は単に仕事として与えられた部分を一生懸命に設計しますとか、ただまじめにやりますではやはりだめであって、飛行機が好きでないとだめです。好きならば、興味があって、あれもこれも知りたいから、他人の担当のところまで、そして飛行機全体のことまで考えるし、気になってくるのです。…」
②島秀雄
その一方で、島は決して天才肌ではなく、ひたすら努力を重ねる勤勉一筋の人であり、学級の徒であって、どんなに仕事が忙しくても、とにかくいつも勉強をしていた。つねに世界に目を向けていた。このため戦後のある時期、勉強のしすぎで目を悪くしたというほど諸外国の文献や本も含めて読み込んでいた。
③真藤恒
このとき、旧三菱重工など造船業界が政治力を使い、政府を動かして、「戦犯工場はつぶすべきである」と画策した。その目的もあって、時の有力大臣で吉田茂首相の秘蔵っ子としてしられた池田勇人蔵相が、秘書官で選挙に立つ直前の宮沢喜一を連れ、視察を兼ねて旧呉工廠にやってきた。
…このとき案内役となったのが、「度胸の据わった技術部次長」として通っていた真藤だった。造船所をひとまわりしてからのち、池田の視察の意図を嗅ぎ取った真藤は、開き直って喧嘩を売った。
「あんた方は、ここをつぶすつもりで来たじゃないか」
「そうだ、世間もGHQもやかましいから、しょうがないんだ」
以外にも池田は正直で、政府の既定方針だからと言わんばかりだった。
「あんたたち二人とも広島が選挙区だ。とくに池田さんは呉が大票田で影響はいちばん大きい。だから、あんた方が責任者としてここをつぶすんなら、こっちにも覚悟がある」
名も知らぬ一介の技術次長の無礼な言葉に、池田は傲然として言った。
「覚悟とはなんだ」
「あんた方はもうすぐ選挙になる。もし、ここをつぶすというなら、わしだけじゃない。ここの幹部を含めて、死に物狂いで選挙の邪魔をする。いいですね」
思いかけない挑戦的な言葉に、池田も宮沢も血相を変えた。
「ここには四千五百人の従業員がいる。その下請けも入れるともっと多い人数になる。家族も含めるとさらに膨らむ。四千五百人が死に物狂いになったら、二万や三万の票は動きますよ。絶対に落とす。自信をもって落としてみせるから覚悟しときなさい」
「おまえ、ほんとうにそこまでやるのか。あと先のことを考えているのか」
池田は真顔だった。
「わしらにはこわいものはない。うちの従業員にしてみれば、あんた方二人がここをつぶすことを決めたんだから、われわれの仇なんだ。呉の人間は昔から気骨がある。あいつを落とせと言えば、いっぺんでころりですよ」
この選挙区で二万票が動いて対立候補に流れたら、差は倍の四万票になる。そのことを言われた池田は、急に冷静な口調に戻っていた。
「そこまで言われたらきついなあ」
お付きの大蔵官僚が口をはさんだ。「君、それは言いすぎだろう」
「黙っとれ、そっちは役人で、ここがどうなろうと関係ないだろうが、こっちは四千五百人の従業員と、それより大勢の下請け、その家族の生活がかかっているんだ。死に物狂いなんだ」
「生意気な、なにを言うか」
まわりにいた会社の上層部の人間たちが息を呑み、真っ青になったやりとっりだった。続きを読む投稿日:2020.03.08
新刊自動購入は、今後配信となるシリーズの最新刊を毎号自動的にお届けするサービスです。
- ・発売と同時にすぐにお手元のデバイスに追加!
- ・買い逃すことがありません!
- ・いつでも解約ができるから安心!
※新刊自動購入の対象となるコンテンツは、次回配信分からとなります。現在発売中の最新号を含め、既刊の号は含まれません。ご契約はページ右の「新刊自動購入を始める」からお手続きください。
※ご契約をいただくと、このシリーズのコンテンツを配信する都度、毎回決済となります。配信されるコンテンツによって発売日・金額が異なる場合があります。ご契約中は自動的に販売を継続します。
不定期に刊行される「増刊号」「特別号」等も、自動購入の対象に含まれますのでご了承ください。(シリーズ名が異なるものは対象となりません)
※再開の見込みの立たない休刊、廃刊、出版社やReader Store側の事由で契約を終了させていただくことがあります。
※My Sony IDを削除すると新刊自動購入は解約となります。
お支払方法:クレジットカードのみ
解約方法:マイページの「予約・新刊自動購入設定」より、随時解約可能です続巻自動購入は、今後配信となるシリーズの最新刊を毎号自動的にお届けするサービスです。
- ・発売と同時にすぐにお手元のデバイスに追加!
- ・買い逃すことがありません!
- ・いつでも解約ができるから安心!
- ・優待ポイントが2倍になるおトクなキャンペーン実施中!
※続巻自動購入の対象となるコンテンツは、次回配信分からとなります。現在発売中の最新巻を含め、既刊の巻は含まれません。ご契約はページ右の「続巻自動購入を始める」からお手続きください。
※ご契約をいただくと、このシリーズのコンテンツを配信する都度、毎回決済となります。配信されるコンテンツによって発売日・金額が異なる場合があります。ご契約中は自動的に販売を継続します。
不定期に刊行される特別号等も自動購入の対象に含まれる場合がありますのでご了承ください。(シリーズ名が異なるものは対象となりません)
※再開の見込みの立たない休刊、廃刊、出版社やReader Store側の事由で契約を終了させていただくことがあります。
※My Sony IDを削除すると続巻自動購入は解約となります。
お支払方法:クレジットカードのみ
解約方法:マイページの「予約自動購入設定」より、随時解約可能ですReader Store BOOK GIFT とは
ご家族、ご友人などに電子書籍をギフトとしてプレゼントすることができる機能です。
贈りたい本を「プレゼントする」のボタンからご購入頂き、お受け取り用のリンクをメールなどでお知らせするだけでOK!
ぜひお誕生日のお祝いや、おすすめしたい本をプレゼントしてみてください。※ギフトのお受け取り期限はご購入後6ヶ月となります。お受け取りされないまま期限を過ぎた場合、お受け取りや払い戻しはできませんのでご注意ください。
※お受け取りになる方がすでに同じ本をお持ちの場合でも払い戻しはできません。
※ギフトのお受け取りにはサインアップ(無料)が必要です。
※ご自身の本棚の本を贈ることはできません。
※ポイント、クーポンの利用はできません。クーポンコード登録
Reader Storeをご利用のお客様へ
ご利用ありがとうございます!
エラー(エラーコード: )
ご協力ありがとうございました
参考にさせていただきます。