研究者としてうまくやっていくには 組織の力を研究に活かす
長谷川修司(著)
/ブルーバックス
作品情報
研究室のボスは、あなたの何を評価しているのか? 理系の若者にとって「研究者」は憧れの職業。先輩や教授といった他人とうまく付き合い、研究室という組織の力を活かすのが、この職業で成功するコツだ。本書は、「学生」「院生」「ポスドク」「グループリーダー」と段階を追いながら、それぞれのポジションでどう判断し、行動すべきか、実例を交えて案内する。研究に行き詰まっている人も、読めばきっとヤル気が出る! (ブルーバックス・2015年12月刊)
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商品情報
- 著者
- 長谷川修司
- ジャンル
- サイエンス・テクノロジー - 数学・物理学・化学
- 出版社
- 講談社
- 掲載誌・レーベル
- ブルーバックス
- 書籍発売日
- 2015.12.17
- Reader Store発売日
- 2015.12.25
- ファイルサイズ
- 3MB
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この作品のレビュー
平均 4.5 (22件のレビュー)
-
相談相手が少ない「研究者」という独特な職業のこなし方を客観的にわかりやすく書いた本として、とても愛読している。
たまに「PIは飲み会で学生にビールを注げ」のような「?」のアドバイスはあるが、「研究の…独創性は自分で作る」「二番煎じでもいい」「レビューに備えて幅広い文献を引用する」など、申請書ではみられない、研究者の本音の部分が聞ける感じがとても良い。学生目線から教授目線まで網羅的に書かれている。基本的には「日本国内の」話に限っている。続きを読む投稿日:2023.09.17
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長谷川 修司
1960年栃木県に生まれる。東京大学大学院理学系研究科物理学専攻修士課程修了。理学博士。日立製作所基礎研究所研究員、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻助手、同助教授、同准教…授を経て、現在、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻教授。専門は表面物理学、とくに固体表面およびナノスケール構造の物性。著書に『見えないものをみる ナノワールドと量子力学』(東京大学出版会)、『振動・波動』(講談社)などがある。
研究も同じで、教授がある程度のアタリをつけて、この方向に研究を進めれば意味のある成果が出そうだと期待して研究を進めますが、必ずしもその通りになるとは限りませんし、むしろ、予想しなかった別の成果につながることが多いものです(それをセレンディピティといいます。)
ここで言えることは、自分の研究に関連する分野の知識を全部勉強したあとでないと新発見するための研究ができないのかというと、そうではないということです。よく大学生で、 「現状でどこまでわかっているのか、当該分野の最前線までを全部勉強しないと、その先の未知なことは研究できないのではないか?」 と心配する人がいますが、そんなことはありません。今までに得られた知識を最前線まで全部勉強していたら、それだけで人の一生は終わってしまいます。最前線を勉強するにしてもほんの狭い範囲で構いません。指導者や先輩はある程度広い範囲の知識を持っていますので、指導者のアドバイスに従い、 とりあえずはあまり大きな心配をせずに、自分の研究に関係する狭い範囲の勉強だけして、研究をどんどん進める ことを学生には勧めます。そして、必要なら、まさに「走りながら」もっと勉強すればいいのです。
「なーんだ、研究って結構いい加減なんだな」 「勉強では、立派に体系化された学問を順序よく学ぶけれど、それに比べて研究って結構行き当たりばったりなんだな」 と感じる読者もいるかもしれません。ある意味、その通りだと思います。
よく、科学行政や大学改革の新聞記事などの中で「研究の効率化」という言葉を見聞きしますが、ありえない自己矛盾した考え方だと思います。天才学者が一生かけてコツコツ 研究 して構築した学問体系を、わずか半年間の 90 分講義 15 回程度で 勉強 できてしまうのを考えると、「勉強と研究の違い」がわかるでしょう。天才物理学者アインシュタインが 10 年以上もかかって研究して作り上げた相対性理論を、わずか半年間の講義で勉強できてしまうのは、学生たちがアインシュタイン以上の天才だからではありません。
酒井 邦 嘉 著『科学者という仕事』には、 「研究もまた自分らしい個性の表現なのである。このように考えれば、研究者のめざすものは芸術家がめざす自己表現と何ら変わらない」 と書いてあります。芸術とはおよそ縁遠いと思われる自然科学やテクノロジーの研究で、それによって「自分らしい個性を表現する」とか「自己表現する」とか、突然言われても研究者でない人にはほとんど理解できないでしょう。しかし、ここまで本書を読んできた皆さんには、もう、この言葉に同意いただけるはずです。なんの研究をどんな方法でするのか、どこまで研究するのか、課題設定と課題解決のためのアプローチや求める答えは、研究者個人によって違います。基本的には、研究者の心の中から湧き上がってくる好奇心や探究心が原動力になります。他の研究者から見ると価値のない研究テーマであっても、自分にはとても重要なテーマだったりします。そこに、その人の個性や価値観が反映され、自己表現の手段となるのです。
研究者の大きな魅力の一つは、 毎日コツコツ研究室で続けている自分の研究がひょっとして世の中を変えるかもしれないという夢 を抱けることでしょう。人間が今まで持っていたものの見方や考え方を根本から覆したり、空想だにしなかった技術が実現したりするかもしれないと考えると、夢が広がります。研究者は、 自分こそがそれを成し遂げるんだという大志 を持っているので、毎日、困難にぶつかってもへこたれずに研究を続けられるのです。
私は、数学と理科が大好きで、図画工作や技術家庭科も大の得意でした。ですので、なんのためらいもなく理科系に進み、「将来は科学者か技術者になるしかない」とはっきり意識するようになりました。ロゲルギストという物理学者集団が書いていたエッセイ集の『物理の散歩道』というシリーズ本などを、高校2年生のときから背伸びして読み始めたものでした。湯川秀樹や 朝永振一郎というノーベル賞学者の名前が出てくる本に出会うのもまったく自然の成り行きで、次第に物理学への憧れを感じ始めました。自然界の仕組みを奥深いところから考えている学者が、私の目にはとても格好良く映ったのです。
教養とは自分の専門や考え方を相対化できる能力 のことです。
しかも図画工作や技術家庭科が好きだったこともあり、迷わず理論ではなく実験研究を志望しました。でも本当の理由は、素粒子・原子核物理学のような難しい分野は、前述した超優秀な同級生たちがこぞって目指している人気の分野なので、自分は彼らと競争してやっていく自信がとても持てなかったというのが本音です。
私が学部4年生のときに原子核物理学という講義を担当していた有馬 朗 人 教授(後に東大総長、文部大臣、科学技術庁長官になった先生) が授業中に言った一言がいまだに忘れられません。 「俳句を勉強するといいよ。研究での不連続的なジャンプを生み出す直感力がつくよ。君たちは式を変形して論理的に考えていると新しい発見にたどり着けると思っているだろうが、実際はそうじゃない。不連続的な発想の飛躍が必要なんだよ」 という趣旨の言葉です。有馬教授は理論原子核物理学者としてだけでなく、俳人としても有名な先生です。講義でその言葉を聞いたときには、試験問題のように、与えられた問題に対して式を立てて、それを変形して解けば新発見につながると思っていましたので、この言葉に対して非常に違和感を覚えた記憶があります。
論理的に一歩一歩考えて研究を進めるだけでは限界があります。そこでブレイクスルーを生み出すには、論理では説明できない何かが必要なのです。しかし、その不連続的な飛躍は、あとになって振り返ると論理的に説明できるものだったりします。なぜこのような論理で考えなかったのか、とあとから思うことが多いものです。 誰でも知っている芭蕉の俳句「古池や蛙飛び込む水の音」。春の草に覆われた古池の周りの静寂を表現するために、一匹のカエルが池に飛び込んだ時の「ポチャン」という音を持ち出すことによって、かえって静寂を際立たせるという発想の飛躍が、物理学の研究での飛躍にも通じるという有馬教授の言葉は、今になってみるととてもよくわかります。
別のタイプの学生の例。高校や大学での勉強をするように、毎朝決まった時間から夕方決まった時間まできっちり実験したり論文を読んだりして研究に励んでいるのはいいのですが、研究室のコンパやスポーツ大会、あるいは午後のお茶の時間などで研究時間が削られてしまうと、それだけで、何か自分は怠けてしまったと、いたく落ち込んだり不機嫌になったりする学生もいます。研究は、言ってみれば100m競走ではなくマラソンのような長丁場の戦いなので、几帳面すぎたり生真面目すぎたりすると途中でへたばってしまいます。よく研究には「強い心」が必要だといいますが、そうではなく、心に余裕を持って、適当に息抜きしながら続ければ、「強い心」で頑張らなくてもそれなりの成果を残すことができると思います。
私は修士課程のあと博士課程進学をあきらめ、電機メーカーの㈱日立製作所に就職する道を選びました。
私が学校推薦書を書いた学生の一人に、素粒子物理学の理論で博士号をとる予定だが、ある電機メーカーから内定がとれそうだ、その会社では新しい電子デバイスの開発研究をやりたい、と言ってきた博士課程の学生がいました。理論素粒子物理学から電子デバイスというかけ離れた分野にチャレンジするというので最初は驚きましたが、じっくり話をしてみると、非常に頭の柔軟な学生だとすぐにわかる話しぶりで、感心させられました。会社の人事課での面接でもきっと高く評価され、専門がまったく違うけれど彼の大きな可能性を高く買われたのだろうな、と感じさせる学生でした。最後はやはり人間としてのトータルな可能性が勝負なのでしょう。研究で身につけた専門知識やスキルは二の次で、 研究で身につけた総合的な「人間力」が買われる のです。
博士課程に進学して、一つのテーマで徹底的に研究を突き詰めてみるという体験が非常に貴重だという感想を、 40、 50 歳代になってから、同窓会やいろいろな機会で聞きます(私は上述のように博士課程を経験していないので、ただ相槌を打つだけです。
逆に言うと、日常的にたくさんの論文を見て読んでいる研究者こそ、よく読まれる論文の特徴を知っていることになります。ですので、よく読まれる論文を書ける人は、たくさんの論文を「見て」読んでいる人だと言えます。人気の小説家は驚異的な読書家であることが多いと言われるように、多くの論文を読むことが良い論文を書く出発点でもあります。毎日、論文を、熟読しないまでもたくさん見ましょう。
ですので、古い論文を図書室で探し出しては読みあさるという時期もありました。そのテーマは、表面物理学の研究の流行が別の方向になってしまって、いつの間にか忘れ去られてしまったものでした。図らずも、それを私が現代的なスタイルや良質の試料を使ってリバイバルさせたのです。
研究テーマは大学院生たちにとって最も重要なことですが、それに関してときどき起こる問題は、「テーマの重なり」です。同じ研究室で同じ研究設備を使って、しかも似たような関心を持っている大学院生たちが研究していると、最初は離れたテーマで研究していた2人の大学院生の研究内容が、時間が経つとだんだん近づいてきて、テーマの重なりが出てきてしまうことがときどきあります。そのときの世の中の研究の流行や傾向にどうしても影響されますので、そのような事態になってしまうことがあるのです。
目立った成果が上げられなかったとはいえ、その過程で学んだ論理的・分析的思考、情報収集と 咀嚼 力、プレゼンなどのコミュニケーション力、状況に応じて戦術を変えられる戦略性などなどを研究体験から学んでくれて、それらを就職後の仕事に活かしていると信じたいものです。 目標に達しなかった、失敗した、という経験ができるのは大学だけの特権 であって、社会に出てからは失敗は許されません。ですので、もし、研究がうまくいかなかった場合にも、その失敗からたくさんのことを学んで卒業してほしいと願っています(が、これは開き直りに聞こえるでしょう。
2014年あたりから、プロテニスプレーヤーの 錦 織 圭選手が活躍して、テレビでもよく見かけるようになりました。彼は、松岡修造やマイケル・チャンとの出会いによって大きく成長したと言われています。 研究者の世界でも同じように、恩師との出会いが決定的に重要だと思います。私の場合、まさに指導教員であった井野教授であり、日立にいたときの研究グループのボスであった外村さんです。続きを読む投稿日:2023.09.18
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