この作品のレビュー
平均 4.0 (3件のレビュー)
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1.著者;江上氏は、大学卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)に入行。1997年「第一勧銀総会屋事件」に遭遇し、広報部次長として手腕を振い、コンプライアンス体制構築に貢献。「非情銀行」で小説家デビュー。…サラリーマンの悲哀を書いた「失格社員」や大企業をテーマにした小説も多く、リアルな社内事情を描いています。また、新聞連載やテレビ番組のコメンテーターとしても活躍。
2.本書;9章構成(第1章 非情~第9章 終章)。著者が、銀行支店長の時に書いたデビュー作。日本長期信用銀行が経営破綻し、新生銀行に生まれ変わる過程をモデルに書かれた銀行小説。企業との癒着・不透明な融資への対応等、経営者・中堅社員・現場の担当者の熱き奮闘を描いている。氏の銀行員時代の経験に裏打ちされたノンフィクションです。
3.私の個別感想(気に留めた記述を3点に絞り込み、感想と共に記述);
(1)『第1章 非情』より、「(中村常務)今は各行とも消耗戦です。果てしなきコスト削減しか生き残る道はありません。はっきり言って君たちはコストです。数字なのです。その数字を減らすことが私の仕事なのです」「(竹内)私たちは単なるコストですか。数字に過ぎないのですか。今まで必死に銀行を支えてきた生身の人間ではないのですか」
●感想⇒経営が上手くいかなくなると、人員削減を錦の御旗に掲げる会社があります。それでも、社員募集の時には、人間尊重や仕事のやりがいをPRします。経営哲学のない会社に魅力があるはずがありません。経営には、“3M(人・物・金)”が必要と言われます。そして、“人は石垣(武田信玄)”と言われるように、人が最も重要な資源です。私も会社で不況を経験しました。その際、全社で合理化策を検討し、人員削減については、一時的に定年社員の補充(新規採用)見送りで、難局を乗越えました。松下幸之助さん(故人;元パナソニック総帥)は、幹部社員に向けて、自著の中で、「どんな困難なことにも、さらにいい方法があるんだ、という自覚、信念に立って、“何事でもやればやれるんだ”という事を力強く社員の人達に訴えていく」ことが極めて大事だと書いています。人員削減の前に熟慮する事が重要なのです。傑出した経営者のメッセージに共感です。
(2)『第2章 仲間」』より、「多くの経営者や役員と呼ばれる人間たちは組織内での地位で部下の人間性さえコントロールできると思っている。思っているだけでなく現に支配出来ることも事実だ」
●感想⇒役員の中には、殿様然として部下の人間性を踏みにじる人もいると思います。会社では、社長が役員推薦に絶対的な権限を持っているので、その責任は重いでしょう。誤った人選は禍根を残します。田辺昇一さん(故人;経営コンサルタント)は、役員の本来の三つの仕事として、“①方針の決定 ②計画の理解活動 ③意見の調整”と言っています。仕事よりも社内政治に現を抜かしている経営者は自問自答すべきでしょう。
(3)『第9章 終章』より、「われわれ銀行員は支店などの現場を軽視し過ぎたから、銀行の本来の役割を忘れてしまった。役割ばかりでなくお客様を大切にする心も忘れてしまった。・・・広範な国民の信頼なくして銀行は存在し得ない。“信なくば立たず”だ」
●感想⇒私はメーカーで仕事をしました。QC(品質管理)の考えを徹底的に教育されました。3本柱は、“①品質第一 ②消費者指向 ③後工程はお客様”です。会社は、お客様第一に徹し、現場が元気になる施策を展開しなければ、存続できないと思います。伊藤雅俊さん(故人;元イトーヨーカドー総帥)は、自著の中で、「商売は自分の力だけで成り立っているのだと考えたら、必ず腐敗し、お客様やお取引先や商品を粗末にして、信用を失い、自ら滅んでいくに違いないと思います」と書いています。私も散々言われた事で至言です。
4.まとめ;露骨なリストラに反抗し、若手行員たちが目前に迫る銀行合併を前に活躍する小説です。書中の「不良債権を隠し、不正を隠し、自分たちの地位保全のための合併など許せない」という言葉に感動です。私は会社に入った頃、上司から“企業トンネル論”と言われました。「列車の先頭に役員が乗ってカジ取りしている。君達は将来、幹部になったら持論を展開しろ」と。私の読後感は、正義を貫く行動をするには、この考え(企業トンネル論)を鵜呑みにしてはいけないという事です。最後に、経済小説家の高杉良さんは、「リアリティーこそ、経済小説の生命」と言いました。江上氏の今後にも期待します。( 以 上 )続きを読む投稿日:2021.12.07
非情銀行
江上剛さんのデビュー作品だったのですね。
そんなこととはつゆ知らず、他の作品を沢山読んでましたよ。
ハラハラドキドキしながら読みました。
面白かったです。
仕事をする上で、職場の士気を高…める、部下を守るということは、とても大事なことですね。
職業人としての誇りを失わないことの大切さを再認識しました。
続きを読む投稿日:2023.01.17
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