ぼくはいかにしてキリスト教徒になったか
内村鑑三(著)
,河野純治(訳)
/光文社古典新訳文庫
作品情報
武士の家に育った内村は、進学した札幌農学校で半ば強制されるようにキリスト教に入信する。しかしその懐の深さに心を打たれた彼は、仲間たちとともに自分たちの教会を建てるにいたる。やがて真のキリスト教国をその目で見ようとアメリカへと単身旅立つが・・・・・・明治期の青年が異文化と出会い、自分自身と国について悩み抜いた瑞々しい記録。(解説・橋爪大三郎)
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商品情報
- シリーズ
- ぼくはいかにしてキリスト教徒になったか
- 出版社
- 光文社
- 掲載誌・レーベル
- 光文社古典新訳文庫
- 書籍発売日
- 2015.03.01
- Reader Store発売日
- 2015.09.25
- ファイルサイズ
- 0.7MB
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この作品のレビュー
平均 4.3 (5件のレビュー)
-
このレビューはネタバレを含みます
自分には本当はどれだけのことができるのか、それを知っているのは、己を頼みとする方法を知っている者だけだ。他者に依存する者は、この宇宙で最も無力な存在である。
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独立は自己の能力を意識的に理解することである。そしてそれは、人間活動の領域における他の多くの能力を理解する端緒になるはずだ。
これは、どんな性質の独立に対しても適用できる最も寛大で最も哲学的な見方である。独立に対して、反逆だとか、一部の野心家が思慮のない会衆を煽動したと言って汚名を着せるのは、ことにキリスト教徒の紳士らしからぬ不寛容さだ。キリスト教徒は「恨みを抱かない」のがその特質であるはずなのに。(pp.129-30)
とにかく、真空は存在し、どうにかしてそれを何かで埋めなければならない。この茫漠たる宇宙には、ぼくに幸福と満足を感じさせてくれる何かがあるはずだと思った。しかし、その何かがいったい何なのか、まったく見当もつかなかった。生理学者のメスによって大脳を奪われたハトのように、理由もなく行き先もわからぬまま、ぼくは旅立った。ただとどまることができなかったからだ。このときから、この真空を埋めるという一つの仕事に全精力が注がれた。(p.135)
ああ、幸いなる無知が懐かしい。無知のままでいれば、ぼくは善良な祖母が満足していたもの以外の信仰を知らずにすんだだろう!祖母は無知だったからこそ勤勉で、辛抱強く、誠実だった。最期の息を引き取るときも、祖母の顔が良心の呵責で曇ることはなかった。祖母が手にしたのは平安であり、僕がいま手にしているのは疑念だ。(p.184)
中国の賢人の名言に「山にとどまる者は、山を知らない」というのがある。じっさい、遠くから眺めると、より美しく見えるだけでなく、より広範囲に観ることができる。山の本当の大きさは、遠くからでないとわからない。
自分の国の場合も同じである。住んでいるあいだは、国のことはあまりよくわからない。国の本当の状況、すなわち、大きな世界全体の一部として、その良いところと悪いところ、強みと弱みを理解するには、離れたところから見なければならない。(p.186)
異国での生活ほど、自己を見つめるのに適した環境はない。逆説的に聞こえるかもしれないが、自分のことをもっとよく知りたければ、世界に飛び出すことである。他の民族、他の国々に接する場所ほど、自分のことが明らかになる場所はない。内省が始まるのは、目の前に別の世界があらわれるときである。(p.190)
真の寛容さとは、ぼくの考えでは、自分の信仰にはゆるぎない確信を持ちつつ、あらゆる正直な信念を許し、認めることである。何らかの真理を知ることができるという信念と、すべての真理を知ることはできないという疑念を持つことこそ、真のキリスト教的寛容さの基礎であり、あらゆる善意とすべての人々との平和的関係の源である。(p.204)
神学が、現実のもの、実際的なものをいっさい含まない学問だとしたら、学ぶ価値はない。だが真の神学は現実的なものだ。そう、他のどの学問よりも現実的だ。医学は人の身体的苦痛を和らげる。法学は人と人との市民としての関係を扱う。しかし神学は、身体の病気や社会の混乱の原因そのものを探求する。真の神学者は当然、理想化だが夢想家ではない。彼の理想が実現するのは何百年も先のことである。彼の仕事は、巨大な建物を建てるのに煉瓦を一つか二つ積むのに似ている。建物が完成するまでには無限の歳月がかかるのだ。彼がその仕事をするのは、正直に、まじめに働いた成果は、けっして失われないと、ただ信じているからだ。(p.278)
ぼくらがキリスト教を必要としているのは、悪をより悪に、善をより善に見えるようにするためである。キリスト教だけがぼくらに罪を確信させることができる。罪を確信させることによって、ぼくらが罪を超越し、征服する手助けをすることができる。ぼくはいつも、異教とは人間の微温的状態だと考えている――あまり温かくもないし、あまり冷たくもない。無気力な声明は弱い生命である。苦痛をあまり感じないので、喜びもあまり感じない。(pp.336-7)投稿日:2015.08.24
このレビューはネタバレを含みます
題名だけ知ってて読んでみたかった本。訳のおかげもあって思ったより平易で読みやすく、面白かった。
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強制的な改宗から始まったものではあったが、その清廉な信仰のよろこびと苦悩、熱意には胸を打たれた。武家の息…子として八百万の神と儒教思想の中で育ってきた人間が、自分の根本・世界の原理としてキリスト教を受け入れるために格闘する。ごりごりの儒教思想の御父上も改宗させたというのは本当にすごい。しかし日本では信仰の渇きを満たすことができず、アメリカにわたって様々な宗派と出会い、キリスト教国に対する幻滅も味わい、神学に疲れ、それでも自分なりの真理と呼べるものはつかみ取って帰国した。
終盤にある、真理の話がとてもよかった。キリスト教は真理だ、と言い切りながら、真理を定義することはできない、とも繰り返す。
「生命についての真の知識はそれを生きることによってしか得られない。メスと顕微鏡でわかるのはメカニズムだけだ。──真理もそうだ。ぼくらは真理を守ることによってのみ、真理を理解できるようになるのだ。理屈をこねたり、些細なことにこだわったり、こじつけをしたりしていては、真理から遠ざかるばかりだ。真理はそこにある。まぎれもなく、堂々と。そしてぼくらは自らそこまで行くしかない」
自分で生き抜くことによってしか得られない、とはいかにも東洋的な哲学に感じるが、真理を得るためには自ら近づくしかない、というのはとてもキリスト教的だなと思う。儒教はいまだ自分の中で生きているというようなことを内村は言っていて、日本のこうした思想的土壌の上でキリスト教が豊かに育つことができるはずだという確信もあった。それを見事に示したのがこの真理についての話ではないかと思う。
しかし解説の人が、定義と教義についてきっちり議論することなしに正統派キリスト教徒を気取るなぞおかしい、内村はキリスト教徒になり損ねたのではと書いていてこの本の何を読んだのかとびっくりしたが、あの悪名高い「ふしぎなキリスト教」の人だと気づいてなるほどねと思った。解説だけ取り替えてほしいなあ。続きを読む投稿日:2022.03.22
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