生きて帰ってきた男-ある日本兵の戦争と戦後
小熊英二(著)
/岩波新書
作品情報
戦争とは,平和とは,戦後日本とは,いったい何だったのか.戦争体験は人々をどのように変えたのか.徴兵,過酷な収容所生活,経済成長と生活苦,平和運動への目覚め・・・・・・とある一人のシベリア抑留者がたどった人生の軌跡が,それを浮き彫りにする.著者が自らの父・謙二の語りから描き出した,日本の20世紀.
もっとみる
商品情報
- 著者
- 小熊英二
- ジャンル
- 教養 - ノンフィクション・ドキュメンタリー
- 出版社
- 岩波書店
- 掲載誌・レーベル
- 岩波新書
- 書籍発売日
- 2015.06.19
- Reader Store発売日
- 2015.09.17
- ファイルサイズ
- 8.2MB
- ページ数
- 396ページ
以下の製品には非対応です
この作品のレビュー
平均 4.4 (68件のレビュー)
-
著者の父である小熊謙二に対し、2013年5月から12月に行われた聞き取りからなる民衆史・生活史であり、出版時点で89歳の謙二氏の来歴を辿るものである。タイトルからすれば戦争体験に焦点を当てた内容を予想…させられるだろう。戦争・捕虜体験も本書の重要な要素ではあるのだが、約380ページのうちその時期に該当するのは第2章から4章の全体の三割弱であり、けっして戦争体験だけを切り取る意図で綴られたものではない。戦前と戦後から高度経済成長にいたるまでの日本の社会や風俗を、自らを「下の下」と称する謙二氏の記憶を通して鮮やかに映し出す。
戦争に関する一人の兵士の記録を期待していたが、早い段階でそのような著書ではないことに気付いた。だからといって当てが外れて裏切られたかといえば全くそんなことはなく、謙二氏が入営するまでの家族の来歴や庶民生活を読んだ時点でも期待以上で、戦争にまつわる情報だけを得たいという意識は早々に薄れた。とくに戦記ということに関しては、戦争末期の1944年11月に召集された謙二氏には実戦の機会は一度もなく、当人が言うようにシベリアに抑留されるためだけに満州に送りこまれたような結果となっており、明らかに戦記を期待するような読者に向けられた内容ではないため、その点は改めて注意したい。
あとがきにあるように、高学歴中産層による各種の記録は多く残されていても、著者の父のように貧しく学歴もコネもない民衆による記録を読む機会は限られており、あったとしても短い証言を集成したアンソロジーのようなもので、一生涯を貫くまとまった形の生活史は貴重ではないだろうか。本書は一人の名もない平凡な民衆が見た、昭和元年から戦争を経て豊かな時代に至る日本社会を知る格好の内容である。謙二氏の記憶と比較すれば、一般に知られている個々の時代の日本社会の様子は、やはり高学歴であったり公的組織や大企業に属する人々の「高い」視点からもたらされた偏ったものだと改めて思わずにいられない。
著者自身が指摘しているとおり、何といっても謙二氏が終始淡々としており、思い入れによってフェアな視点を崩されることがないうえに、優れた洞察力と記憶力を兼ね備えた人物であることが本書に資するところが非常に大きい。そのような人物は先述の通り、往々にして高い立場にあったり学歴を備えているケースが多く、結果的に地に足のついた民衆の視点から社会を見渡したような記録は残りにくいはずだが、謙二氏の人間性によって本書ではそのことが可能となっている。そんな謙二氏の視点で語られる80年ほどの日本社会を身近に感じ、抑留と結核療養でフイにした20代の十年間も、その後の高度成長期を背景にした仕事や家庭生活の様子にも強く引きつけられた。
生涯を語るということでは多くの伝記作品などが残されているが、功績が偉大すぎたり、環境の隔たりの大きさによって、結局は別世界の人間のお話だと鼻白むことが少なくなかった。その意味で本書は伝記作品の対極に位置する。語り手はあくまで一人の民衆であり、違う時代にありえた等身大の自分としてまさに身近に感じることができた。偶然から、私が求めていた生活史に出会えたという思いである。続きを読む投稿日:2021.08.09
古本屋で何気なく手にして読み始めた。
小熊英二が社会学の英知を傾けて描いた父親の『自分史』である。社会状況や経験した事実を丹念に聴き取り丁寧に書いている、視点や文調が独特で新鮮だ。
戦争に明け暮れた昭…和の混乱期、逆境を這いながら地道に生きた父親の人生を口承で辿った一人息子の計らいに共感を持って読むことができた。
小熊謙二の自分史であると同時に、日本が太平洋戦争に向かう時期から、敗戦、戦後の高度成長へ、そして現在までの推移を、一国民の目を通して語り表現した『社会史』でもある。
彼は敗色濃い満州に徴兵され、敗戦になり捕虜でシベリアに抑留され、帰国して結核で隔離病棟生活を経てスポーツ用品店の経営者となり、結婚し四人家族の長男に死なれ、残った一人息子の英二を育てる。
貧困と不運が重なり、人に迷惑をかけず補償など国には頼らず、波乱のなかを実直に生きた父の生涯を感情を抑えて冷静に描写している。
あの時代を生きた生活者への讃歌である。
小林秀雄賞の受賞は宜なるかなであり、自分も星五つの評価をした。
読みながら、地方の没落家系に育ち大企業の技術者から出征後零細事業者になり、妻や祖母と貧困に苦労し一人の娘を失い、事業税を払い続け軍人恩給の受給を拒み、子供たちを大学まで出した自分の父の切実な人生を思い胸を締め付けられた。続きを読む投稿日:2024.02.06
新刊自動購入は、今後配信となるシリーズの最新刊を毎号自動的にお届けするサービスです。
- ・発売と同時にすぐにお手元のデバイスに追加!
- ・買い逃すことがありません!
- ・いつでも解約ができるから安心!
※新刊自動購入の対象となるコンテンツは、次回配信分からとなります。現在発売中の最新号を含め、既刊の号は含まれません。ご契約はページ右の「新刊自動購入を始める」からお手続きください。
※ご契約をいただくと、このシリーズのコンテンツを配信する都度、毎回決済となります。配信されるコンテンツによって発売日・金額が異なる場合があります。ご契約中は自動的に販売を継続します。
不定期に刊行される「増刊号」「特別号」等も、自動購入の対象に含まれますのでご了承ください。(シリーズ名が異なるものは対象となりません)
※再開の見込みの立たない休刊、廃刊、出版社やReader Store側の事由で契約を終了させていただくことがあります。
※My Sony IDを削除すると新刊自動購入は解約となります。
お支払方法:クレジットカードのみ
解約方法:マイページの「予約・新刊自動購入設定」より、随時解約可能です続巻自動購入は、今後配信となるシリーズの最新刊を毎号自動的にお届けするサービスです。
- ・発売と同時にすぐにお手元のデバイスに追加!
- ・買い逃すことがありません!
- ・いつでも解約ができるから安心!
- ・優待ポイントが2倍になるおトクなキャンペーン実施中!
※続巻自動購入の対象となるコンテンツは、次回配信分からとなります。現在発売中の最新巻を含め、既刊の巻は含まれません。ご契約はページ右の「続巻自動購入を始める」からお手続きください。
※ご契約をいただくと、このシリーズのコンテンツを配信する都度、毎回決済となります。配信されるコンテンツによって発売日・金額が異なる場合があります。ご契約中は自動的に販売を継続します。
不定期に刊行される特別号等も自動購入の対象に含まれる場合がありますのでご了承ください。(シリーズ名が異なるものは対象となりません)
※再開の見込みの立たない休刊、廃刊、出版社やReader Store側の事由で契約を終了させていただくことがあります。
※My Sony IDを削除すると続巻自動購入は解約となります。
お支払方法:クレジットカードのみ
解約方法:マイページの「予約自動購入設定」より、随時解約可能ですReader Store BOOK GIFT とは
ご家族、ご友人などに電子書籍をギフトとしてプレゼントすることができる機能です。
贈りたい本を「プレゼントする」のボタンからご購入頂き、お受け取り用のリンクをメールなどでお知らせするだけでOK!
ぜひお誕生日のお祝いや、おすすめしたい本をプレゼントしてみてください。※ギフトのお受け取り期限はご購入後6ヶ月となります。お受け取りされないまま期限を過ぎた場合、お受け取りや払い戻しはできませんのでご注意ください。
※お受け取りになる方がすでに同じ本をお持ちの場合でも払い戻しはできません。
※ギフトのお受け取りにはサインアップ(無料)が必要です。
※ご自身の本棚の本を贈ることはできません。
※ポイント、クーポンの利用はできません。クーポンコード登録
Reader Storeをご利用のお客様へ
ご利用ありがとうございます!
エラー(エラーコード: )
ご協力ありがとうございました
参考にさせていただきます。