弥生時代の歴史
藤尾慎一郎(著)
/講談社現代新書
作品情報
AMS炭素14年代測定に基づき、水田稲作の開始は従来よりも500年早かったとした国立歴史民俗博物館の研究発表は当時、社会的にも大きなセンセーションを巻き起こしました。発表時には当時の常識からあまりにもかけ離れていたために疑問を呈する研究者も数多くいましたが、その後、測定点数も4500点ほどまでにと飛躍的に増加を遂げ、現在では歴博説の正しさがほぼ確定されています。では、水田稲作の開始が500年早まると、日本列島の歴史はどのように書き換えられるのでしょうか。一言で言えば、「弥生式土器・水田稲作・鉄器の使用」という、長らく弥生文化の指標とされていた3点セットが崩れ、「弥生文化」という定義そのものがやり直しになったと言うことです。この3つは同時に導入されたものではなく、別々の時期に導入されたものでした。例えば鉄器は水田稲作が始まってから600年ほど経ってからようやく出現します。つまりそれ以前の耕作は、石器で行われていたのです。また水田稲作そのものの日本列島への浸透も非常に緩やかなものでした。水田稲作は伝来以来、長い間九州北部を出ることがなく、それ以外の地域は依然として縄文色の強い生活様式を保持していました。また東北北部のように、いったん稲作を取り入れた後でそれを放棄した地域もありました。関東南部で水田稲作が始まるのは、ようやく前3~2世紀になってからでした。とすると、これまで歴史の教科書で教えていたように、何世紀から何世紀までが縄文時代で、その後に弥生時代が来ると単純に言うことはできなくなります。水田農耕社会であるという弥生「時代」の定義は、ある時期までは日本列島のごくごく一部の地域にしか当てはめられなくなるからです。本書は、このような問題意識の元で「弥生文化」が日本列島に浸透していく歴史を「通史」として描く初めての本です。(講談社現代新書)
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商品情報
- シリーズ
- 弥生時代の歴史
- 著者
- 藤尾慎一郎
- 出版社
- 講談社
- 掲載誌・レーベル
- 講談社現代新書
- 書籍発売日
- 2015.08.20
- Reader Store発売日
- 2015.08.28
- ファイルサイズ
- 33.4MB
- ページ数
- 256ページ
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この作品のレビュー
平均 3.8 (10件のレビュー)
-
藤尾氏は国立歴史民俗博物館において、AMS炭素14年代測定で弥生時代の開始を500年遡らせた立役者であり、2014年にあったという「弥生ってなに⁉」展の中心人物である。それらの成果をコンパクトにまとめ…たのが、この一冊だと思う。
遠く岡山の地に居て、藤尾氏のこの10数年の研究をほとんど追ってこなかった身にとり、思った以上に刺激のある一冊だった。
以下、学んだ所、気になった所をずっとメモしてゆく。長くなるかもしれないので、とりあえず最初の頃の一部分だけ。
◯炭素年の測定方法を簡単に書いているが、文系の私にはどうも理解出来ない。ただ1950年を基準にするとは驚き。これ以降は核実験が広く行われたために、大気中の炭素14年濃度が大幅に上がったためしい。人類は、気候的にも、環境汚染的にも、たった100年で地球規模的な不可逆的な改変を行っている。
◯弥生時代開始年代は、2003年発表時から今まで3説に分かれた。(1)藤尾説の紀元前10世紀に遡る説(よって紀元前1000年では無く、950年ぐらいらしい)、(2)朝鮮半島や中国遼寧省の考古学知見を優先して紀元前800年まで遡る説(新発見があれば更に遡る可能性がある)、(3)従来の紀元前5世紀説である。その根拠が藤尾氏の説明通りだとすると、藤尾説を採るしかない。もう10年以上経ったのだから、考古学学会もハッキリして欲しい。そうしてくれないと、我々はホントに困る。
◯22pの土器形式ごとの太陽活動表は、面白かった。特にびっくりしたのは、二世紀初め(100-110)を「温暖」と規定し、二世紀中(130-150)を「冷涼化(大きな降水量の低下)」と規定し、190-230年を「温暖」としているのは、「倭国乱」の背景と考えれるように思うのだ。ところが、藤尾氏はかなり前半で気候との関係を書きながら、弥生後期では、全く言及していない。私はこの時期の急激な気候の不順化が、水を司る吉備の龍神信仰を成立させて、吉備を一大強国にしたてあげたのだと見る。
◯韓国遺跡を西暦で表現してくれていて、参考になる。実際韓国の博物館に行くとわかるが、韓国の考古学は日本ほど緻密ではない。ひとつひとつの遺物が何世紀のモノかさえも特定できないのである。(東三洞貝塚 紀元前4000年、南部の稲作の始まり 紀元前11世紀、検丹里遺跡 紀元前10世紀)特に検丹里の環壕は重要だろう。藤尾氏は、日本の弥生化は朝鮮南部の「農耕社会化」により、矛盾で「迫害」から逃れるために海を渡った「メイフラワー号」タイプの人々が担ったのだろうと見る。そういう見方をすると、早期北九州弥生遺跡に支石墓が点々とあるのが合点がゆく。しかし、彼らは直ぐに支石墓祭祀を放棄し、放棄したところほど大きなクニを作る。それは何故か。この頃の北九州の大きな変動について、この本では十分にはわからない。
◯「魏志倭人伝」に最初のルートとされている壱岐対馬に、10世紀の支石墓がないのが不思議だと著者は云う。その通りだ。最初のメイフラワー号は、大陸のみを目指したのか。福岡沿岸の小平野ごとに支石墓内の棺の形式が異なるのは、彼らが先着の居る場合は、やり過ごして東へ東へと船を進めたからではないかという説を紹介している。興味深い。
◯やっと第一章「弥生早期前半(前10世紀後半~前9世紀中ごろ)」である。北九州の在来民は、ことごとく海沿いではなく少し川を上ったところで、半分稲作、半分狩猟の生活をしていた。在来民が渡来人交流して下流域に稲作を始めるまで、下流域に住む在来民は全国的に6000年以上いなかったそうだ。
◯最初期の板付遺跡は、最初から給排水施設があった。畦畔は土盛りなので、大量の杭、矢板、横木で補強する。その数何百、何千。鉄器を持たないので、すべて大陸系の磨製石器で作った。しかも大区画水田。500平方メートルを水平に保つ造田技術も持っていた。
◯(これは私の仮説)これだけの大自然改造。自然をそのまま受け入れる縄文人の価値観と相対したことは間違いない。最初は数十人の渡来人が何年も、ひとつの田んぼを経営して実績を作り、やがて好奇心旺盛な縄文人が参加していったのだろう。板付遺跡で大きな洪水が二回、それでも弥生人は稲作をやめなかった。自然そのものが「神」なのではなく、自然に恵みをもたらす更に超越的な存在が「神」になる土壌が、その頃から育まれるだろう。最初期は、それは遥か彼方からやってくる「鳥」に象徴されたのかもしれない。弥生文化に、全国的に分布する鳥の呪術遺物は、それを裏付けている。鳥は祖先の知恵の象徴だったのかもしれない。しかしやがて1人の英雄が、蛇の生産性と鹿の顔を持ち、しかもそれらの姿と全く違うオーラを持つ「龍」を招致する。龍は、雨をもたらすと同時に、嵐をももたらす、恵みと力を持った神だった。この神を手に入れるかどうかで、その国の盛衰が決まる、と言い伝えが広まっていたのが、実は弥生後期なのではないか。
○橋本一丁田遺跡の最古の弥生土器(福岡市埋蔵文化センター蔵)を見てみたい。縄文土器に、弥生の稲作文化の背景を持っていれば、弥生土器ということを提唱したのが、佐原真「岩波講座日本歴史(1)」(1975)だったらしい。
○弥生早期後半(前9世紀後半)から前期後半(前世紀)。
○日本最古の環濠集落は、のちに三世紀に奴国となる比恵・那珂遺跡南西部の村に前9世紀後半に現れる。直径150mの壕を二重。150年経営。おそらく洪水で廃絶。その後500m離れた春住遺跡に移る。那珂遺跡よりも1キロ上流の板付遺跡(前9世紀)は、長径110mの中に10ー15軒の竪穴住居。既に階層差の痕跡あり。糸島町新町遺跡(前9世紀後半)では最古の戦死者。稲作文化の始まりと同時に出現したのは、おそらく稲作文化と水や土地を獲得する手段としてパッケージで入って来たためだろう。つまり縄文人の世界観には、戦いはなかった。
○稲作文化は、最初北九州からは250年かけてゆっくり広がった。
前10世紀後半、玄界灘沿岸部。
前8世紀終わり、九州東部・中部。
香川以西の瀬戸内沿岸。
前7世紀前葉、鳥取平野。
前7世紀、神戸市付近。
前6世紀、徳島市。奈良盆地。
前6世紀中ごろ、伊勢湾沿岸。近畿日本海沿岸北上。
前4世紀前葉、青森県弘前市。
前4世紀、仙台平野、いわき地域。
前3世紀、中部高地、関東南部。
以下略。
2017年3月12日記入続きを読む投稿日:2017.03.29
弥生時代に出土された土器、青銅器、鏡を基にその時代の様子を考えていくところはとても面白く感じられた。歴史の醍醐味だと思う。水田耕作、農耕社会、鉄器、吉野ケ里遺跡、原の辻遺跡、糸島、くに、祭祇的、政治的…、板付遺跡、登呂遺跡、縄文時代も弥生時代も出土するものが少ないからそこから想像していくところがとても面白いと思う。続きを読む
投稿日:2018.09.15
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