この作品のレビュー
平均 4.7 (6件のレビュー)
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二井將光
1940年東京都生まれ。東京大学薬学部卒業。薬学博士。大阪大学名誉教授、岩手医科大学名誉教授。東京大学薬学部助手、岡山大学薬学部教授、大阪大学産業科学研究所教授・所長、微生物化学研究センター…(現:微生物化学研究所)特別研究員、岩手医科大学薬学部教授・部長を歴任。日本薬学会および日本生化学会名誉会員。生物がエネルギーを生産し使うメカニズムの解明に尽力。日本薬学会賞、藤原賞、日本学士院賞など受賞多数
https://www.evernote.com/shard/s469/sh/2da9dbab-c1cf-221b-ee8c-6e737e904bf5/SJfK0fYT5hNZxUpASRguzK5LS8DaylVEoMRXuFt9DAgRivqts45MTO2MpQ
『ロミオとジュリエット』『ハムレット』などシェークスピアの作品には毒薬が登場します。これはもっとも危険な使い方ですが、毒薬をクスリとして使うこともあります(第3章参照)。クスリを理解するうえでも重要ですので、毒薬と劇薬の違いについて見ておきましょう。
麻薬は、「痛み止めの王様」と言われます。麻薬に指定されているものはたくさんありますが、臨床で使用しているのはその一部です。臨床において使用の頻度の高いのはモルヒネ製剤であり、WHOや厚生労働省の指導から、緩和医療に使用される例が増えています。 残念なことに、麻薬は医療とは別の目的で違法に使用されており、「麻薬及び向精神薬取締法」によって厳しく規制されています。麻薬を処方できるのは医師、歯科医師、獣医師で麻薬施用者免許を持つ者であり、医療機関には麻薬管理者(医師あるいは薬剤師)を置かなければなりません。
プラトンは生理学や病理学を論じ、粘液、胆汁が精神に影響すると考えていました。弟子のアリストテレスは自然を研究する立場から、たくさんの動物を解剖し、比較解剖学の始祖と言われています。彼は、組織と体のそれぞれの部分は、道具と同じで「何かの目的」のためにあるという考えを述べました。「目的」という考え方は、細胞や生体分子の研究の中に現在も残っています。
漢方は中国の伝統医学が、江戸時代の日本で独自に変化し確立したもので、オランダから渡来した西洋医学「蘭方」に対して、「漢方」と呼ばれました。明治維新後に「漢方」は、西洋医学中心の日本の医学からは排除され、漢方薬の使用頻度は激減しましたが、四〇年ほど前に漢方薬に健康保険が適用されるようになり、現在は西洋医学の治療体系の中で使われています。中国では中医学を修めた中医と西洋医学を修めた西洋医がいますが、日本は西洋医学を修めた医師が漢方薬を処方できる世界でも珍しい国なのです。
このように、漢方薬は二〇〇〇年以上の歴史を持つ古いクスリですが、現在もさまざまな面から研究されています。
ペニシリンの発見は、セレンディピティ(serendipity)という言葉が当てはまる大発見ではないでしょうか。serendipityは「幸運な発見」という意味で、失敗の中から価値あるものを見いだす能力、別の表現をすれば、思いがけない発見ができる能力を言います。このような発見が科学を大きく進歩させました。
フグは福に通じると言われています。テッサに箸をつけながら、ヒレ酒を飲み、テッチリを味わう。まさに年末の日本文化です。酔いの中で、冒険しているような何ともよい気分になります。しかし、毒は注意しないと、「福」とともに極楽に行くことになります。毒は安定で、煮ても焼いても毒ですから、油断してはいけません。中毒は現在でも起きており、フグは免許を持つ人しか調理できません。
さらには、美容整形の場でも使われます。眉間や目尻のシワなどの表面のシワは顔面の表情筋が収縮すると生じます。顔面の表情筋に微量のボツリヌス毒素Aを注射すると、筋肉が一時的に麻痺して、表面のシワが目立たなくなります。効果は注射後二~三週間で現れ、半年間くらいは続きます。「毒を使ったアンチエージング(抗加齢)」です。いつまでも美しくありたいという女性の願望に応えるには、毒素も使うことになります。
第4章と第5章で少し触れましたが、薬剤耐性とはクスリが効かなくなる現象です。これを研究者が初めて経験したのは抗生物質が効かなくなった菌(耐性菌)を見つけたときでした。抗生物質の乱用によって現れた菌です。耐性菌は抗生物質を化学的に修飾したり、化学結合を切ったりします。さらには細胞内に入った抗生物質を吐き出してしまう耐性菌もいます。研究者は耐性菌のメカニズムを検討し、抗生物質の構造を変え、耐性菌に対抗してきました。
誰でも四〇歳を超えると、白髪が増えたり、シワが出てきたり、筋肉にも衰えを感じます。また、人の名前が思い出せなくなったり、記憶力も悪くなるなど、脳の働きも低下します。これは病気ではありません。神経細胞は、四〇歳を超えると一〇年で一〇パーセントも死んでいくと言われていますが、高齢になると急激にたくさんの神経細胞が死ぬ病気になることがあります。かつてはこれを痴呆症と呼んでいました。「痴」「呆」は、ともに「愚か」という意味で、呼び名があまりにも差別的であるため、二〇〇四年から認知症と名称が改められました。
「飲み合わせ」は、クスリだけではありません。クスリを飲むときには、食品との相互作用も考えて、食事や嗜好品にも注意を払う必要があります。よく知られている例ですが、クスリを服用するときにグレープフルーツジュースを飲んではいけない場合があります。グレープフルーツに含まれるフラノクマリンという成分は、小腸の細胞から吸収されます。細胞には、いろいろなクスリの分解に役割を果たす薬物代謝酵素が存在しますが、フラノクマリン類は、CYP3A4という薬物代謝酵素の働きを妨害(阻害)します。これによってクスリの代謝が進まずに、「投与量を上げすぎた」状態と同じことが起こります。
クスリを飲んでいるときにはコーヒーにも要注意です。コーヒーに含まれるカフェインが薬物代謝酵素を阻害するので、クスリの作用が強く出ることがあります。逆にクスリによってはカフェインの作用が強く出て、不整脈などが起こったり、血圧が上昇したりします。これは医薬品食品相互作用(食薬相互作用)と呼ばれます。他にも例がありますので不安があったら、医師や薬剤師に相談しましょう。
どんなクスリにも主作用と副作用があり、期待される作用を主作用、期待されない作用を副作用と言います。 たとえば、花粉症の治療薬を服用すると、鼻水が止まったり、目のかゆみがなくなります。これは、花粉症(鼻水が出る、目がかゆくなる)の治療のための主作用です。服用後、のどが渇いたり眠くなったりして困ったことがあるでしょう。このような期待しない作用が副作用です。
はっきりと目に見えるもの、すぐに役立つものにだけ価値を見いだすことを教える、そのようなところは大学ではありません。 大学の講義と実習を通して学んでほしいのは、「疑問を持ち、解決に向けたアプローチを考えて、新しい発見をする喜び」です。これは薬学にとどまらず、理工系の教育の基本です。
何世代にもわたって使われているクスリ、幸運な発見から得られたクスリ、いずれも何億、あるいは、何十億の人を癒してきました。創薬のすばらしさとその威力を実感されたと思います。一つ一つのクスリの知識だけではなく、薬学という学問の概念や、新しい考え方を理解できたでしょうか。「クスリを知る旅」を通して、薬剤師の仕事、薬学の教育にも理解を深め、薬学とクスリ、そして薬学の研究者や薬剤師を身近に感じていただけたと思います。続きを読む投稿日:2023.09.16
【学内】
https://elib.maruzen.co.jp/elib/html/BookDetail/Id/3000057384
【学外】
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