ゼノサイド(上)
オースン・スコット・カード(著)
,田中 一江(訳)
/ハヤカワ文庫SF
作品情報
エンダー・ウィッギンが死者の代弁者として植民惑星のルジタニアにやってきてから、30年が過ぎた。原住種族ピギーに殺された異類学者のために代弁をしたあと、エンダーは現地の女性と結婚し、そのままルジタニアにとどまっていたのだ。だが、人類に致命的な病気をもたらすデスコラーダ・ウィルスの蔓延を怖れるスターウェイズ議会が、ウィルスを惑星ごと殲滅しようと粛清艦隊を派遣。その到着が目前に迫っていた・・・・・・!
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商品情報
- シリーズ
- ゼノサイド
- 著者
- オースン・スコット・カード, 田中 一江
- 出版社
- 早川書房
- 掲載誌・レーベル
- ハヤカワ文庫SF
- 書籍発売日
- 1994.08.30
- Reader Store発売日
- 2015.06.05
- ファイルサイズ
- 0.4MB
- ページ数
- 480ページ
- シリーズ情報
- 既刊2巻
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この作品のレビュー
平均 4.0 (7件のレビュー)
-
できるだけゆっくりとお読みください
「エンダーのゲーム」「死者の代弁者」に続く、エンダーの物語です(邦訳のない「Ender in exile」は未読です)。
「ゲーム」と「代弁者」はもうお読みになりましたか。面白かった?グイグイ引き込…まれて一気に読みましたか。それは良かったです。
でも、本作と、次の「エンダーの子どもたち」については、同じ種類の面白さは、期待しないでください。そちらがお望みの場合は、同じ世界をビーンの視点から見た「エンダーズ・シャドウ」のシリーズ(シャドウ・サーガ)へとお進みください。
おっと、早とちりしないでくださいよ。本作が、面白くないというつもりはありません。ただ、読み方にはくれぐれも気をつけて。
本作には、心身を、深く傷つけられたり歪められたりした人々が、たくさん出てきます。彼らは知能が高く、辛抱強くて優しい人たちですが、その行動には制約があり、健康な人たちと同じようには動けません。頭の回転が早い彼らは、そのことにとても苛立っています。
ですから、慌てないで。彼らのペースに合わせて、ゆっくりゆっくり、美しい「ゼノサイド」の世界を味わってください。
(1)パス
読み始めるとすぐ、中華風の不思議な世界に連れていかれます。パスを支配する「神子」は、一度手を洗いたくなったら、それが我慢できない人たちです。
問題は、その理由付けです。彼らはこれを、選ばれた者が神の声を聞いているという物語に基づいて理解し、社会を組み立てているのです。
似たような強迫症状を体験された方には理解しやすいと思うのですが、物語は、病気など身体的な経験と結び付くことで、非常に強固になります。実体験すると、人はどんな戯言でも信じてしまうのです。
ハン大人やチンジャオの生活にリアリティーがないと感じた方は幸いですね。私には、自分の日常とほぼ同じように感じられます。単に、「神がみ」とは別の説明を信じているというだけです。
(2)ルジタニア
エンダーが放浪の末にたどり着き、異種族バガー再生の地に選んだのが、辺境の植民星ルジタニアです。
しかし、この地はデスコラーダという恐ろしいウイルスに支配された土地でした。ここに根を下ろし、家族を持つことを決意したエンダーに、大きな試練が降りかかります。
前作「死者の代弁者」で、動物から植物へと変態する奇想天外な生活環が解明されたペケニーノは、本作でも大きな役割を果たします。キリスト教に改宗した父樹が異端となり、人間の宣教師と教理問答をするというイベントは驚きの一言。
しかし残念ながら、この事件のせいで、エンダーと妻ノヴィーニャの関係は危機に陥ります。
(3)エンダーと妻
エンダーの夫婦関係は、本作の難所といえます。
「エンダーのゲーム」で、健気な少年指揮官エンダーにたっぷりと感情移入した読者は、妻ノヴィーニャの頑なさに、相当イライラさせられるのではないでしょうか。私も、初見のときは「よりによって、エンダーはなぜこのつまらない女性を選んだのか」と、疑問に思ったものでした。
ここでは、特にゆっくりと読むことをお勧めします。この夫婦は、多くの困難を抱えながらも大変よくやっていると思うのですが、どうでしょうか。
私は、結局この二人は、お互いのことがとても好きなのだと感じます。厳しい経験をしてきたノヴィーニャは、信頼が失われそうになると、「自ら引き下がって」回避行動に入ります。エンダーは彼女を裏切ったり見捨てたりはしないと知っているのですが、やっぱり怖いのです。
知的な能力が優れた人ほど、自己評価が低くなりがちです。このため、理想的な相手にはピシャリとドアを閉め、自分が見下せる相手に身を投げ出したりしてしまうことがあります。ノヴィーニャは、こうした人の特徴をよく表しています。
そして、エンダーが辛抱強く彼女の回復を待ち、なんとか関係を繋ぎ直そうとする様子も、味わい深いものです。「代弁者」という役割を選んだエンダーにとって、ノヴィーニャは、残りの人生を捧げて悔いのない相手であると、今では思うようになりました。
もっとも、これは私の個人的体験によるところも大きいので、「こんな女、やっぱり御免だ」という感想も、もちろんアリですね。ピーターなら、絶対に選ばない相手でしょう。
「ゼノサイド」は、色々な要素を詰め込み、じわじわと語っていく作品です。疑問点が満載ですが、何度も読み返すと、色々なところにその答えが書かれていることに気がつくでしょう。
そしていつの間にか、あなたもチンジャオやノヴィーニャが好きになってくれる…んじゃないかな。まあ、手強いですけどね。デスコラーダよりもずっと。続きを読む投稿日:2017.08.29
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ゼノサイド
かつて、第三帝国や大日本帝国は優性主義を奉じていました。
この作品には冷戦期に理想を掲げていた古き良きアメリカの戦後思想が残っています。
美です。美なるかな美なるかな美なるかな。
植民星は純真な…市民が登場できる中国やインドまでというのも当時の世界観を明瞭に示していると言ってよいでしょう。
刊行当時は中国やインドの経済力はまだまだアメリカの足元にも及ばなかったわけですし。
大日本帝国は1億総玉砕を掲げていましたが、どうにも…。
パスの韓非子の心の先祖は同名の法家の完成者ですが、彼が悲しくも政争に負けたのは有名な話です。その彼を登場させるわけで、スターウェイズ議会の権力、ルジタニアにおけるエンダーを中心とした宗教、科学論理、そしてパスにおける法という人類の発展史を深く掘り下げたような話が展開しています。
全てに通じていたローマ市民はゲルマン人に白旗をあげ退場し、世界を支配したモンゴル民族もモンゴル高原に退避するのみです…。
かつての第三帝国や大日本帝国の無謀さを思う時、当然の結果について考えます。
ゼノサイドが表す思想は戦勝国にとっては敵の思想ではあるわけですが、エンダーの決意が物語るように最後の最後には切られてしまうカードではあるわけです…。
この作者の作品は一時代を画する名シリーズでしょうね。
星5つ。続きを読む投稿日:2018.05.29
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