黒い迷宮 ルーシー・ブラックマン事件15年目の真実
リチャード ロイド パリー(著)
,濱野 大道(訳)
/早川書房
作品情報
あの蒸し暑い夏の夜、彼女は東京の路上から永遠に消えた――2000年7月、六本木でホステスとして働いていた元英国航空の客室乗務員ルーシー・ブラックマン(21)が、突然消息を絶った。失踪当初から事件を追い続けた英紙《ザ・タイムズ》の東京支局長が、日英豪関係者への10年越しの取材で真相に迫る。滞日20年、日本を知り尽くした著者にしか書き得なかった底知れぬ闇とは? 複雑に絡み合う背景を丹念に解きほぐして「文学」にまで昇華させ、海外で絶賛を浴びた犯罪ノンフィクション。著者が事件現場のその後を訪ねる日本版あとがき収録。
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商品情報
- 著者
- リチャード ロイド パリー, 濱野 大道
- ジャンル
- 教養 - ノンフィクション・ドキュメンタリー
- 出版社
- 早川書房
- 掲載誌・レーベル
- 早川書房
- 書籍発売日
- 2015.04.25
- Reader Store発売日
- 2015.06.05
- ファイルサイズ
- 3.9MB
- ページ数
- 528ページ
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この作品のレビュー
平均 4.1 (38件のレビュー)
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外国人として日本で生きる独特の感覚を追体験する
一読すればいかにこの事件が、内に型通りの報道では収まりきらない「迷宮」を抱えているかがよくわかる。
「非常に入り組んだ」「異様で不合理な展開の連続」は、被害者の殺害を起点にも終点にもとらず、いまも解き…ほぐせぬ謎を残し、事件に関わった人たちの関係を分断する力となって伝播していった。
著者は、フィクションで用いられる物語の手法を駆使しながら、悲劇的な最期を迎えるまでのルーシーの人生を丹念に描く。
冒頭のカラスの鳴き声によって呼び起こされる「異邦感」が印象的で、読者は知らず知らず「ガイジン」の視点から事件を振り返る。
注目度の低くありふれた事件とならず、ルーシーが一人の不運な若い女性から、いかにしてある種の"被害者"の象徴となり得たか?
そのキッカケの1つに、彼女の父親ティムの存在が大きかった。
記者や周りの人たちが求める役割を超越し、冷静で淀みなく悠然と受け答えする彼の挑戦は、イギリス人に自分たちの純真無垢な娘が被害に遭ったと感じさせることに成功し、やがて日英のみならず全世界の報道に影響を与えはじめる。
結果的に彼は、事件の構図のコントロールには成功したが、自身のイメージのコントロールには失敗している。
単なる事件ルポにとどまらず、日英の比較文化論とも読める本書は、犯罪報道に興味を持つ読者だけでなく心理学や社会学を専攻する読者にも必読の書。
ただ日本の警察に対するやや厳しすぎる見方には意見が分かれるかもしれない。
事件が起こる前に織原の蛮行を立件していれば彼女は死なずにすんだかもしれないという著者の見方に異議はないが、日本の犯罪率が低いのは、警察の能力が高いからではなく、日本人の遵法精神のおかげと見るのはいかにも一面的だ。
事件に至るまでのルーシーの行動は、著者の大胆な推理も加えて、ミステリー小説風に実に細部まで再現されているが、肝心の殺害から隠蔽までの経過は十分な裏付けが得られず、再現を断念している。
ひとつ疑問に思ったのは、織原の「征服プレイ」を映したビデオで、あれほどの汗かきでハンカチを手放させない彼が、覆面したまま何時間も休まず動き回わるというのは、何らかの注釈があっても良かったのではと感じた。続きを読む投稿日:2015.06.24
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六本木が知らない街に見えてくる
六本木、日本で唯一ガイジンであることを忘れられる場所。外国人と遊びたい外国人、外国人と遊びたい日本人、そして日本人=外国人目当ての女性と遊びたい外国人の男が集まる街。客引きのアフリカ人、六本木ガールズ…と呼ばれる外国人狙いの日本人女性そしてダンサーやストリッパーやホステスとして働く若い白人女性たち。行方不明になり後に遺体が発見されたルーシー・ブラックマンも短い間だったがその中の一人だった。
普通の女の子だったルーシーは一般的な美人ではないがかなりの長身と見事なブロンドで目立つ存在だった。お嬢様学校になじめずシティの銀行で働くと儲けた金は使うことと言うシティの掟に染まり、カードでの買い物で 借金生活が始まる。おそらく使わなければ返せる額だったのだが、世界を旅したいと考えたルーシーが選んだのは英国航空の客室乗務員だった。国際線乗務で給料は上がったが借金は増える一方で、深夜の長距離便は重労働だった。どの国に行ってもホテルの部屋の景色は同じで時差ぼけに苦しみ現地の文化や食事を楽しむことはできなかった。そしてルーシーは日本行きを計画する。
ルーシーの親友であるルイーズがルーシーの借金を返すために計画したのだがルイーズの姉のホステス時代の友人クリスタがルーシーとルイーズのために代々木ハウス、ルーシーが言うところの豚小屋を予約しておいた。実はこのクリスタもルーシー同様に薬の入った酒を飲まされ被害にあっている。日本についてわずか数日後ルーシーとルイーズは小さなナイトクラブ「カサブランカ」で働きだした。仕事は酒を作り日本人の退屈な話を聞き、笑顔を作り楽しいふりをすること。そして白人女性が提供するのは物珍しさにすぎないと実際にホステスとして働いたデューク大学のアン・アリスン教授は論じている。多くの日本人男性は西洋人女性とのセックスを妄想するが、実際に妻や愛人にするには恐怖心がある。
この本の主役はルーシーと言うよりは父親のティムと犯人の織原城二だろう。浮気が原因でルーシーの母と別れたティムは東京の生活を楽しんでいるように見えた。娘を誘拐されて悲嘆にくれる父親と言うステレオタイプには当てはまらず、積極的にマスコミに出て駆け引きをした。支援者の金で六本木で飲み歩いていると言う批判もあれば、後には独断で織原からのお見舞い金約1億円を受け取っている。織原が責任を認めたわけではなく、悲嘆にくれる家族を助けたいと言うのがその主張だが実際にはティムを寝返らせるための賄賂だ。
犯人の織原は自主的に日本に移住し戦後そのまま日本に残った在日コリアンの二世で生まれた時には金聖鐘、後に通称を使い星山聖鐘と言う名前だった。父親は駐車場、タクシー会社、パチンコ屋を経営して成功し当時の大阪の大富豪のひとりだった。織原はカトリックの幼稚園、教育大附属天王寺小から慶応附属高に進学し田園調布の家政婦付きの1軒屋で暮らし始めた。高校では友達を作らず一人で横浜のディスコに遊びに行くような学生だった。20代で仕事をした気配はなく30代で不動産開発に相続した金を突っ込んで大きく利益を上げたらしい。妄想だけの多くの日本人とは違い織原は実際の行動に出たがこれも薬を使ってというあたりかなり歪んでいる。
織原は数十台のプリペイド携帯を持ち、ナイトクラブで働く白人女性を葉山のリゾートマンションに誘い出しては薬入りの酒で眠らせ陵辱を繰り返した。被害者のほとんどはノービザで働いていたため警察には届けなかった。届けた場合も今度は警察がまともに取り合わなかった。
六本木のクラブのオーナーによると1時間で帰る客のことは気にしない。1万の勘定からホステスに3千円払うと店の儲けはほとんどない。最初に来た客には店で一番の子をつける。もし客が気に入っていないようなら2番目の子に変わりここで延長に持ち込むかが勝負。延長に持ち込むことができれば別の子をつける。そしてさっきの子と話をしたければ指名料を払えということだ。彼は外国人女性を愛し同時に軽蔑した。一方でクリスタはなぜ東京が社会不適合者を惹きつけるかに気がついた。この街ではみんな等しくガイジンで共通の疎外感で括られるため個人として抱える疎外感が吹き飛んでしまう。ジロジロ見られることに慣れるとどうせ変なガイジンだからと逆に自由になれたという。
ルーシーはなぜ織原について行ったのだろうか。ロンドンであれば見知らぬー特に好意を持っていないー男性の家に一人で上がり込みはしない。しかし初めて見た日本人男性たちはかわいく、シャイで時には退屈だったのかもしれない。いかにも安全そうな男にドライブに誘われ携帯をもらい、そしてシャンパンを一口。多くの外国人ホステスはそのまま何事もなく家に帰る。
続きを読む投稿日:2016.01.23
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