この作品のレビュー
平均 5.0 (2件のレビュー)
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このエッセイには、日本史的教養に裏打ちされた、作者の「物」に対する見方が書かれていて、しかもわりかし(ベタじゃないけど)女性的なたおやかな視線が感じられる。日本史に疎い私には、「物」を見に行くのは好き…だが今まで知らずにいた「物」の背景話が満載で、色々と勉強になった。その中に、後鳥羽上皇の書に関するエッセイがあった。
何事にも物怖じしない性格タイプの後白河天皇は、文武両道、あそびごとにも精力的。だがしかし、恐れを知らない元気なボンボン育ちであるばっかりに、ついつい野望を抱いて幕府に対し挙兵してあっさり負けて島流しに。
その島が、今年のツーリングの行き先。
なにやら俄然興味が湧いてきた。続きを読む投稿日:2018.03.21
飛鳥散歩 私がしきりに飛鳥へ通ったのは、戦前のことである。誰にすすめられたのでもなく、本で読んだわけでもない、ただ漠然と飛鳥がなつかしく、ひまさえあればさまよった。今憶い出してみても不思議な気持ちだ…が、それは私だけのことではなく、あらゆる日本人に、多かれ少なかれ共通な感情であろう。飛鳥は日本のふるさとといわれるが、もしかすると、求めていたのは、自分自身の魂だったかも知れ
Location: 30
岡寺の駅で電車を降り、 田圃 の中を歩いて行く
Location: 35
飛鳥は特別田圃がきれいな所で、春はれんげ、秋はこがねの波がつづいているが、「みずほの国」という言葉が、実感をもってよみがえるのはそういうときである。特に夏の夕暮れ、 葛城山 に日がかたむき、青田の上を涼風がわたる頃、長い影をひいて暮れて行く飛鳥の里は美しい。落日を礼拝する信仰、西方浄土への憧憬も、こういう景色の中から生まれ、人の心に深く刻まれて行ったのであろう。しきりにそんなことが想われる寂光のひとときで
Location: 69
それより一般の人々が、飛鳥を愛し、大切にすることが先決問題であろう。役人や学者だけに任せておくのは無責任だ。そう思って、知識に乏しい私が、こんな文章も書いてみるので
Location: 114
このあたりには、古い民間信仰も遺っている。一月十五日にはカンジョウ(勧請であろう)といって、川の向こうから此方側へかけて縄をはり、その真ん中に、藁で作った男性の象徴をつるし、地鎮祭を行なう。少し奥の
Location: 141
森 でも、こちらの方は女性を表したもので、同じような祭事をするが、古い信仰にはそういった種類のものが多いのである。いうまでもなく、生殖の秘密をまねぶことによって、治水と豊穣を祈ったのであるが、川の淵には大きな岩があって、そこへ神様が川を渡って降臨するというのは面白い。変遷常なき水の神が、おおむね女神であるのは想像にかたくないが、稲淵にはウスタキヒメ、栢森にはカヤナルミの 社 があり、両方とも滝のひびきを想わせる名前である。その社が、川が合流する地点に建っているのも、そういう所は水が出やすいのと、女体を連想させる地形であるからだろ
Location: 143
栢森から峠を越すと、向こうはすぐ吉野である。実際にも、このあたりの景色は、飛鳥より吉野に近く、 樵夫 を業とする生活も、吉野に似ている。持統天皇が度々吉野へ行幸されたのは、この道を通ったと想われるが、飛鳥の川上からさらに奥深く、みそぎの地を求めての旅だったのではあるまいか。度重なる行幸が、単に遊楽のためとは考えられ
Location: 150
折口さんほど飛鳥を愛し、骨肉化して現代に活かした人はないと
Location: 187
美術に見るさくら 源氏物語をはじめとし、平安・鎌倉期の絵巻には、桜を描いたものが多い。色と
Location: 222
特に桜の透彫は美しく、硬い金工と、柔かい織物が、しっくりとけ合っているのは、前者と同じく心にくい趣好で
Location: 229
大和絵に咲いた花は、やがて合戦の 巷 を
Location: 234
薩摩の守忠度は、この歌を遺して、都を落ち、一の谷の合戦に華々しく散って行った。この歌の美しさは、そのまま小桜威 の姿であり、桜の鞍の優雅である。日本に桜は少なくなっても、私達は美術品の上に、花も実もある武将を懐い、「昔ながらの山ざくら」を見ることが出来る。それはやはり平安朝の調和の上に開いた花であっ
Location: 236
それに拍車をかけたのは、万事はで好みの秀吉であったろう。ぱっと咲いて散って行った秀吉の一生は、桜の花に似なくもないが、事実彼は稀代の桜好きであったらしい。吉野の花見、醍醐の花見など、永遠の語り草となって
Location: 247
今、吉野や醍醐が桜の名所になっているのも、彼に負う所が大きいので
Location: 253
お能には桜をうたった曲が多いので、能衣装にはたくさん作られた。時代が下ると、ふつうのきものにも盛んに用いられ、友禅にも、琉球の 紅型 にも、美しいものが残っているが、紙面の都合でのせられないのは残念で
Location: 259
桜が好きな日本人が、お手の物の陶器にもとり上げない筈は
Location: 269
乾山の
Location: 284
辻ヶ
Location: 293
秀衡
Location: 306
文化は日々の生活の中から生れる。
Location: 318
ものに毎日ふれていれば、志操もおのずから堅固になり、立居振舞も正されるであろう。真の繁栄がおとずれるのは、それから先の話で
Location: 319
桜の
Location: 320
花橘の
Location: 334
胡蝶の
Location: 351
紅
Location: 363
焼きものはほんとうに、自然と人工、或いは神様と人間の合作に他ならないと
Location: 368
松の
Location: 377
美しいものに値段はない。たとえ国宝でも、貰っても困るものがあるし、安くても二つとない逸品もある。無数にある日用品の中から、そういうものを見つける程たのしみなことはないが、私の経験では、むしろその方がむつかしい。掘出し物をいうのではない、同じようなものが沢山あって、区別がつきにくいのと、高価なものは、お金さえあれば手に入るが、安物の場合は、自分の眼だけが頼りだからである。 値段がないと同様、美しいものには時代もない。これなど徳川中期か末期か、私は知らないが、よほど人に使われたのであろう、底からにじみ出るような味わいがあり、程よい手ずれの跡も
Location: 381
紅葉の
Location: 405
遠山
Location: 417
鷺の
Location: 430
椿は天皇を祝福するおめでたい木であるとともに、力強い魂を身につける鎮魂の具であったのだ。二月堂のお水取りや、薬師寺の花祭りで、椿の造花を飾るのも、春を招く吉祥の花として、いわば復活の象徴と見られたのであろう。後世に至っても、きものや調度に好んで用いられ、松竹梅の梅のかわりに、椿をつけたのも沢山あり、首が落ちるために、不吉な花とされたのは、ずっと後世の徳川末期のことだっ
Location: 484
私は椿の種類がいくつあるか知らないが、一説には三千以上ともいわれて
Location: 500
室町時代に現れた若狭の 八百 比丘尼 ──これは人魚を食べたために、八百年も生きつづけ、罪業消滅のために、諸国を遍歴したという日本の「さまよえるオランダ人」の伝説だが、折口信夫氏によると、彼女もまた椿の枝を持って歩くと伝えられ、大和や熊野の神人にも、似たような風習があったと聞く。山伏の 笈 に椿の文様が多いのも、この比丘尼とか神人などの伝承が、山岳信仰と結びついたためだろ
Location: 510
きものに、絵画に、陶磁器に、しきりに椿の文様が描かれた。殊に辻ヶ花染めには多く、その他、能装束、漆絵、 蒔絵 などにも用いられ、永徳、山楽、光琳、乾山なども、椿を好んで描いて
Location: 517
秀吉も好きだったらしく、京都の椿寺の有名な「五色椿」は、加藤清正が朝鮮から持って帰って献上したと伝えられ、その他にも、茶道と関連して、桃山時代に作られた品種は
Location: 519
首が落ちる不吉な花とされたのは、してみると、彼等のはかない抵抗であったのか。椿のためには、思いもかけぬ濡れ衣といえよう。椿は、何も首から落ちる花ばかりとはかぎらない。周知のとおり、「散り椿」といって、桜のように一ひらずつ散る種類も多いので
Location: 529
椿の
Location: 538
熊野は椿の名所でも
Location: 549
樟は一字でクスノキと訓む。ふつうは楠と書くことが多いが、『牧野植物図鑑』によると、それは誤りで、「真品ハ日本ニ産セズ」と断って
Location: 579
たとえば京都の 新熊野神社にある樟は、後白河法皇の時代に、紀州の熊野神社から移植したと伝え、国道1号線の雑踏と塵埃のただ中にあって、八百年の緑をたたえて健やかにそびえて
Location: 585
が、何といっても人目を驚かすのは、伊勢から熊野へかけて点在する巨木であろ
Location: 589
だが、若い頃の私には、この仏像のほんとうのよさがわからなかった。法隆寺の百済観音や、中宮寺の弥勒菩薩の、あのロマンチックな魅力にひかれていたからで、ただ芸もなくつっ立っている仏像に、何の興味も感じなかったので
Location: 615
木と石と水の
Location: 642
それには帰化人の影響もあった。未だ帰化人とはいわなかったが、日本海を渡って、北陸経由で移住した外来人は、想像以上に多かったと思わ
Location: 660
景色を見るたびに私は、日本の自然と歴史のかかわりあいを、想ってみずにはいられない。時には景色のほうが、生半可な史料より、確かなことを教えてくれる場合も
Location: 710
それらの山に共通することは、必ず川に面しており、山上に神の降臨する 磐座 があって、神木が立っていることである。そういう形式を「 神奈備」といい、神のなびき依るところ、ひいては神の 在す山を指し、万葉集には、「神名火の 三諸 の山にいつく杉思ひ過ぎめや……」とか、「……三笠の山の帯にせる 細 谷川の音のさやけさ」などのように、そういう風景を 謳ったものが
Location: 727
山は生活に欠くことの出来ぬ水を与え、その水は田畑をうるおすだけでなく、山から伐り出す材木や石材を運搬する役目もし
Location: 736
私たちの祖先は、そうして何千年もの間、自然を神として敬い、畏れ、感謝しつづけて、その中から多くの芸術作品を生んだ。どれひとつとして自然の申し子でないものはない。彫刻は 木理 の美しさをたたえ、建築は 立木 に似、陶器は新鮮な土の香りを発散する。人は己が恋心を草木に託し、美しい乙女を花の 蕾 にたとえ
Location: 740
自然信仰から山岳仏教へ発展した道筋は、近江に一番遺っているような気が
Location: 767
何事の 在しますかは知らねども……」という西行の 詞 は、現在も生きており、ふとした時に私たちは古代人の心に還って、自然の中に母なる神を見る。この写真集
Location: 798
単に山紫水明の近江と、そこに秘められた文化財を紹介するためではなく、風景と歴史の微妙な調和、長い年月にわたって、自然と人間の間に交わされた言葉の数々を、カメラを通じてとらえたものに他なら
Location: 800
木と石と水の国、それが私たちの第一印象であった。これは近江だけでなく、広く日本の文化の根源をなすものであろうと私は思って
Location: 802
牧さんは土門拳氏の弟さんだけあって、ひどく凝り性なので
Location: 810
聖林寺から観音寺
Location: 825
女躰でありながら、精神はあくまでも男である。その両面をかねているのが、この観音ばかりでなく、一般に十一面観音の特徴といえるかも知れ
Location: 893
湖北の
Location: 1064
山桜
Location: 1169
東北の恐山、北陸の白山(この中には美濃と飛驒の白山社もふくまれる)、日光、伊吹山、吉野、熊野と、いずれも古い伝統のある神山で
Location: 1196
日本の
Location: 1249
京都の骨董屋さんで、うれしい買物をした。まだ表具もされていないうちわ絵で、暗緑色のバックに、白木の橋が描いてある。ただそれだけの単純な構図だが、さざなみの立つ水面を、さわやかな風が吹きすぎるような感じが
Location: 1250
先日、建築家の谷口吉郎氏にお会いした時、ふと思い出してうかがってみた。 先生の答えは極めて明快であった。ひと口にいえば、日本の橋は流れるように造ってある。というと、誤解を招くかも知れないが、何かの時に、流れてもさし支えないように出来ている。日本は国土がせまい上に、山が近く、そこから流れ出る川は急流であることが多い。したがって、あまり丈夫な橋をかけると、洪水をひき起すおそれがあり、昔の人は経験から、そういうことを知っていたというので
Location: 1271
だから日本には古い橋がない、歴史もないと、谷口さんはいわれた。専門家のいう歴史や資料には欠けるかも知れないが、橋を描いた美術品や文学は枚挙にいとまもない。このうちわ絵の作者も、無意識のうちに、源氏物語の「夢の浮橋」や、「宇治の橋姫」を胸に浮べて描いたであろ
Location: 1280
谷口さんは、日本の橋はお箸と同じもので、ナイフとフォークと比べてみたら判るといわれたが、使い捨ての文化は、すでに上古から存在したのであり、こわれやすいから私達は大切にし、消え行くものの中に美を見出し
Location: 1285
それは天上と地上を結ぶ橋、神と人との仲立ちであった。昔の人々は、空にかかる虹を見て、「天の浮橋」という言葉を創造したのかも知れ
Location: 1291
日本三景の一つ「
Location: 1302
その時私は、 天 と 海 がひとつづきのものであることを、実感をもって知ることを得た。籠神社も、海人部の人々が祀った神で、大陸と自由に交通していた時の記憶が、このような伝承となって遺ったのであろう。天と海とがつづいていたように、橋と船の間にも、さしたる区別はなかったと
Location: 1312
夢の
Location: 1325
吉野山を詠んだわけではないが、花か雲か定かならぬしののめの空に、きぬぎぬの別れを惜しむ人の想いがたゆたう。ためしに角川版の古語辞典をひらいてみると、「夢の浮橋」は吉野川の名所で、夢の 淵 にかかる橋としてある。それだけを頼りに、私が吉野をおとずれたのは、つい先週のことであった。町役場の桐井さんという方が案内をして下さっ
Location: 1348
英語には、自殺という言葉はあっても、心中はない。だからダブル・スイサイドなどと
Location: 1462
石の豊富な近江では、日吉神社の大宮川に、みごとな石橋が三つもかかっている。やはり秀吉が寄進したものだが、いずれも石材を用いたというだけのことで、実質的には木造の橋と何の変りも
Location: 1480
謎ときの
Location: 1509
魯山人ほど琳派の精神を適確につかんでいた作家はいないと思う。琳派の真似をしている人々はいても、自分のものにしている画家も陶芸家も、現代にはいないので
Location: 1634
私たちの祖先が、古典文学の教養と知識をかたむけ、工夫を凝らして造りあげた日本の文化の伝統は大切にしたい。私が切に願うのはそれだけで
Location: 1656
そこには麗しく保存された京都の石庭とは、また趣のちがう素朴さと、戦国武将のきびしさが現れており、武家の庭園とは、正にこうあらねばならないという感じが
Location: 1680
木立に囲まれた庭園の、安曇川に面した側だけが開けて、比良山を望めるように造型されているのは、私にそういうことを考えさせる。そして、これ見よがしに借景風に造った庭よりも、かえって深い趣があるように思わ
Location: 1726
そこで私は再び日本の庭というものが、いかに自然をよく模しているか、よく見ていることか、感動をあらたにし
Location: 1731
考えてみれば、日本の庭ほどはかないものはない。一年といわず、半年も放っておけば、自然に還元してしまう。だからこそ日々の手入れが大切であり、美しい庭というものには、持ち主の愛情だけではなく、人格のよしあしまで現れるように
Location: 1767
西行の書 この春、私は 河内 の 弘川寺 にある西行法師の墓にお参りした。ちょうど桜の盛りの頃で、山にも谷にも花が満ち、お墓の前にも大輪の桜が供えてあっ
Location: 1878
花と
Location: 1961
院政時代に入ると、「熊野 詣」が盛んになる。熊野三山の信仰を、ここに詳しく述べることはできないが、大ざっぱにいうと、先史時代からの自然信仰に、仏教の浄土思想が結びついて発展したもので、修験道の山伏によって全国へ普及して行っ
Location: 2079
桜を愛した西行は吉野の奥に庵室を造り、高野山で修行をしていたが、その間に大峯山も踏破したらしい。熊野の山中で 詠んだ歌が、「西行物語絵巻」その他に見えて
Location: 2085
桜の花には何となくそういうことを想わせる寂しさがつきまとう。豪華であって、しかも物の哀れを感じさせる桜こそ、桃山文化を象徴する花といえるかも知れ
Location: 2195
木と
Location: 2243
日本の百
Location: 2780
牧さんは土門拳氏の弟さん���けあって、ひどく凝り性なので続きを読む投稿日:2023.07.21
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