線
古処誠二(著)
/角川文庫
作品情報
飢えとマラリア、過酷な山越えのための想像を絶する疲労の中、困難な道を進む兵隊たち。摩耗する心と体。俺はこのニューギニアの地に捨てて行かれるのか――。味方同士で疑心暗鬼に陥る隊では不信が不正を招き、不正が荒廃をはびこらせる。そんな極限状態で人間が人間らしくあることは果たして可能なのか。第二次大戦の兵站線上から名もなき兵隊たちの人間ドラマを冷徹なリアリズムであぶりだす傑作小説。
もっとみる
商品情報
以下の製品には非対応です
この作品のレビュー
平均 3.4 (5件のレビュー)
-
太平洋戦争下の兵士たちの姿を描いた作品を9編収録した短編集。
古処さんの戦争小説は単なる戦争下での悲劇を描いた反戦、厭戦の小説ではないことが大きな特徴であるように思います。
もちろん作中では…飢えやマラリア、死体や傷病兵など戦争の悲惨さを描いた表現も出てくるのですが、決してそれらを感傷的に描かずあくまで冷徹に、戦争の中の日常として古処さんは描くのです。
そして古処さんが問いかけるのは、そうした極限状況の中での兵士たちの姿から浮かび上がる人間性です。不信や絶望が混沌と渦巻く中でそれぞれの状況に置かれた兵士たちは何を思うのか。
特に印象的だった短編は「銃後からの手紙」「蜘蛛の糸」「豚の顔を見た日」の3編。
「銃後からの手紙」は敵兵の死体から見つかった母親の手紙によってある一部隊の兵士たちの心中にきしみが走る短編です。
敵兵の母親の手紙から内地の家族を思う心情というものがとてつもなく哀しく思えた短編でした。そして一方でそうしたものを弱さと切り捨てつつも、そこにすがらなければならない兵士の姿もまた哀れを誘います。
「蜘蛛の糸」は戦闘中の怪我により片足を切断し、戦闘地から後送されることが決まった兵士が主人公。
この後送というのは怪我だけでなくマラリアなどにかかった病兵も送られるわけなのですが、戦闘中の怪我と病兵ではどうしても扱いが違うわけでそこから生まれる嫉妬や差別の思い、
また死を覚悟していたはずが、名誉の片足切断の負傷ということで内地で幸せに暮らせるのではないか、と考える主人公が野戦病院で過ごすうちに何を思い始めるのか、
そうしたことがとてもリアルに書かれていました。
「豚の顔を見た日」この作品の豚とは敵兵のことです。
この短編の主人公の沢井は豚である敵兵と向かい合いある恐怖を感じます。その恐怖の内容というのも戦時での状況でしか感じようのない恐怖で、そうした心理を描く古処さんのすごさを感じます。
インタビューによると古処さんは戦争関連の資料を1000冊以上読み込んでいる一方で、戦争体験者に対しての聞き取りは一切行っていないそうです。その理由は直接話を聞けば、その話の内容を否定しきれず縛られてしまうからだそうです。
豊富な資料と想像力、冷徹な視点で紡ぎあげられた古処さんの作品は、現代の小説界においてどんな作品とも被りようのない場所にいるような気がします。続きを読む投稿日:2015.08.23
購入済み
2021.12.10.読了
古処さんの作品は基本的に太平洋戦争を題材にしたものが多い。
この作品もそう。開戦後1年くらいのパプアニューギニアを舞台にした短編集。
食糧不足。マラリア。兵士同士…の軋轢。
太平洋戦争の悲惨さは言うに及ばずだが、後世に生まれた私たちにできることは目を背けずに向かい合うことだとつくづく感じさせられる。
古処さんの作品はミステリーを絡ませるなどして若者から高齢者までが太平洋戦争が実際に行われた地獄の戦いだったことに知識を深めやすいように構成されている。
本作はミステリーではない。
ニューギニアの過酷な環境下において最悪の食糧事情のもとマラリアに罹患し負傷してもなお故国に焦がれながらも戦いを余儀なくされた兵士達の物語。
開戦80年の今年、ひとりでも多くのひとに読んでもらいたい作品。続きを読む投稿日:2021.11.23
新刊自動購入は、今後配信となるシリーズの最新刊を毎号自動的にお届けするサービスです。
- ・発売と同時にすぐにお手元のデバイスに追加!
- ・買い逃すことがありません!
- ・いつでも解約ができるから安心!
※新刊自動購入の対象となるコンテンツは、次回配信分からとなります。現在発売中の最新号を含め、既刊の号は含まれません。ご契約はページ右の「新刊自動購入を始める」からお手続きください。
※ご契約をいただくと、このシリーズのコンテンツを配信する都度、毎回決済となります。配信されるコンテンツによって発売日・金額が異なる場合があります。ご契約中は自動的に販売を継続します。
不定期に刊行される「増刊号」「特別号」等も、自動購入の対象に含まれますのでご了承ください。(シリーズ名が異なるものは対象となりません)
※再開の見込みの立たない休刊、廃刊、出版社やReader Store側の事由で契約を終了させていただくことがあります。
※My Sony IDを削除すると新刊自動購入は解約となります。
お支払方法:クレジットカードのみ
解約方法:マイページの「予約・新刊自動購入設定」より、随時解約可能です続巻自動購入は、今後配信となるシリーズの最新刊を毎号自動的にお届けするサービスです。
- ・発売と同時にすぐにお手元のデバイスに追加!
- ・買い逃すことがありません!
- ・いつでも解約ができるから安心!
- ・優待ポイントが2倍になるおトクなキャンペーン実施中!
※続巻自動購入の対象となるコンテンツは、次回配信分からとなります。現在発売中の最新巻を含め、既刊の巻は含まれません。ご契約はページ右の「続巻自動購入を始める」からお手続きください。
※ご契約をいただくと、このシリーズのコンテンツを配信する都度、毎回決済となります。配信されるコンテンツによって発売日・金額が異なる場合があります。ご契約中は自動的に販売を継続します。
不定期に刊行される特別号等も自動購入の対象に含まれる場合がありますのでご了承ください。(シリーズ名が異なるものは対象となりません)
※再開の見込みの立たない休刊、廃刊、出版社やReader Store側の事由で契約を終了させていただくことがあります。
※My Sony IDを削除すると続巻自動購入は解約となります。
お支払方法:クレジットカードのみ
解約方法:マイページの「予約自動購入設定」より、随時解約可能ですReader Store BOOK GIFT とは
ご家族、ご友人などに電子書籍をギフトとしてプレゼントすることができる機能です。
贈りたい本を「プレゼントする」のボタンからご購入頂き、お受け取り用のリンクをメールなどでお知らせするだけでOK!
ぜひお誕生日のお祝いや、おすすめしたい本をプレゼントしてみてください。※ギフトのお受け取り期限はご購入後6ヶ月となります。お受け取りされないまま期限を過ぎた場合、お受け取りや払い戻しはできませんのでご注意ください。
※お受け取りになる方がすでに同じ本をお持ちの場合でも払い戻しはできません。
※ギフトのお受け取りにはサインアップ(無料)が必要です。
※ご自身の本棚の本を贈ることはできません。
※ポイント、クーポンの利用はできません。クーポンコード登録
Reader Storeをご利用のお客様へ
ご利用ありがとうございます!
エラー(エラーコード: )
ご協力ありがとうございました
参考にさせていただきます。