日本の年金
駒村康平(著)
/岩波新書
この作品のレビュー
平均 4.1 (11件のレビュー)
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年金制度を俯瞰し具体的な提案もある。さて、実行はできるのか?
2025年団塊の世代が75才に到達し、2030年には65才以上が32%、75才以上が20%となると予測されている。人口は9%減少するが単独世帯は11.5%増加して全体の1/3超が単独世帯となる。特に都…市部の増加が目立つ。これまでの日本の住宅政策、教育システム、そして年金も正社員の一括採用、終身雇用と言う日本型雇用システムに合わせて設計されており「階保険・階年金」のしくみが成立した。しかし90年代後半から派遣労働などの非正規雇用が増加し厚生年金と健康保険の適用対象者から外れた非正規労働者は国民年金、国民健康保険に加入することになったが、これらの保険料に企業の負担はなく、おおむね定額負担であるため低所得者ほど負担感が高くなる。そのため、未納者が急増している。2013年国民年金(第一号)の未納率は39%、国民健康保険の滞納率は18%になっている。公的年金は2011年現在高齢者世帯の所得の68%を占めており高齢者の生活の柱となっている。
日本の所得代替率は60%程度とされているがこれは現役時代の年金の6割を受け取ると言う意味ではない。マクロ所得代替率は、現役世代と高齢者世代の所得比の目安でありかつては70%程度であったのがマクロ経済スライドにより60%程度まで下げられた。比率を維持するためには今後も保険料を引き上げ続けることが避けられなくなり、2004年の改革で政府は一定のマクロ所得代替率を維持することは諦めた。
年金制度の抜本的な改革は2009年に民主党が掲げた案がある。職業別に制度が統合されてこなかった年金制度を一元化する。保険料率は15%で固定し、所得が同じなら同じ保険料を負担し納めた保険額を基準にする「所得比例年金にする」。消費税を財源とする「最低保証年金」を創設し全ての人が7万円以上の年金を受け取れるようにする。そして、所得比例年金を一定額以上受給できる人には最低保証年金を減額する。悪くない案に思えるが所得の定義とその把握、財源確保、そして移行過程の作成で課題があり改革は実現されていない。
所得の定義については自営業は「事業収入ー必要経費」を賦課対象所得と考えるのが普通だろう。被用者も同様に「報酬ー給与所得控除=所得」とすると保険料率を上げる必要が出てくる。民主党案の15%では財源が足りなくなるのだ。定義をどう変えても必要な財源の額は変わらず国民負担が増えるわけではないのだが制度を一元化しようとすると被用者の所得控除額が大きいため所得税制の見直しが必要になり、自営業者の所得の把握をどうするかと言う点も課題が残る。自営業と被用者の賦課対象の所得が異なるアメリカやスウェーデンでは自営業の所得の把握を厳しくしている。徴税コストはかかるが公平で納得感のある制度を作るための必要経費とみているのだ。
民主党案の最低保証年金を確立するためには消費税を上げる必要が有る。最低保証受給者の前高齢者に対する割合を58.3%とした試算では元寇年金制度より消費税は1.4%高くする必要が有るが、現行制度では年金受給者の1/3近くが受給額が5万円を下回るのに対し1.4%増加で5万円未満の年金を受ける高齢者はゼロになる。
むしろ一番難しいのは移行期間をどうするかのように思える。どうやっても財源の確保や不公平感はなくせず、最も不公平でない方法は40年(=加入期間)かけて移行する方法だ。スタートが20年遅れてる様な気がするが。結局一気に改革しようとしてもなかなか上手くいかず連続的に手直しをし続けるしかなさそうだ。
いずれにせよ年金未納者は年金を受け取れないので財政破綻の要因になるわけではないのだが現在の加入者の負担は上昇する可能性が高い。それ以前に現在年金を払えない非正規雇用の低所得層は高齢になっても生活保障の対象になる見込みが高いのが問題なのだろう。金がないのが未婚率や少子化の原因になるのが人口のデフレスパイラルのように見えてくる。
駒崎氏の年金改革案は正社員と非正規雇用者が同じ年金制度に加入できるようにすることが一つで、単純に言うと非正規雇用者の厚生年金負担を企業に求めることだ。また高齢化が進展する以上年金給付水準の引き下げ、需給年齢の引き上げも必要になる。最低所得保証は税金など所得の再分配でまかなうしかなく、一方で市場メカニズムを重視したリバタリアン的なアプローチも併用すべきだと言うのが現実的な提案なのだろう。今後の社会保障全体を見渡すと、政府か市場か地域互助かという選択ではなく、三者の適切な連携と役割分担が必要になることがわかると締めくくっている。これからの重たい話を俯瞰的にみわたし、具体的な提案もある。続きを読む投稿日:2015.01.18
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日本の年金
社会保障制度の中で年金の理解度が低いと感じたので、本書を手に取った。本書では年金制度の過去から現在までの経緯や他国の制度との比較など、日本の年金制度を多面的に解説しており、非常にわかりや…すいと感じた。また、個人的に年金制度の理解度が低かったのは日本の年金が年金「保険」と呼ばれていたことに起因していることもよく分かった。保険会社出身の私としては、保険は応リスク負担の保険料の拠出により、トリガー要件に合致すれば、予め設定した保険金を受け取ることができる仕組みという理解であり、保険の原義としてはこちらが正しいだろう。しかし、日本の年金制度において年金保険と言う場合、そもそも応能負担と言う形で保険料はリスク量ではなく所得に応じて設定されており、年金に関しても予め約定したものではなく、年金の受給時期の財政状況によって検証された金額であるなど、いわゆる保険の原義からすれば別物であったことが明確に理解でき、年金制度への理解が深まった。
また、日本が採用している賦課方式の意義として、実際に年金を受給する際の物価や賃金の水準に合わせるために、定額ではなく、所得代替率と言う形で表していることもさらに理解できた。実際、老後2000万問題と言われているが、単なる貯蓄の場合、老後になって物価上昇した時点では、日本円の価値も異なる。いわゆる現在価値という金融の初歩的な概念だが、自助で老後資金をためるためには、少なくとも物価上昇と同レベルの資産運用が必要であるとも感じた。複利計算によって資産運用も年月を重ねれば大きな変化になる。少なくとも流動性の限界の範囲内で、老後資金をためるうえでは運用を強化しなければならないとも感じたし、その点、日本の年金制度は少なくとも今は所得代替率を指標としているため、よくできた仕組みであると感じた。マクロ経済スライドにより、年金制度自体はなくなることはないが、年金額は大きく少なくなると予想される分、やはり自助での老後資金の確保と、老後になったときのインフレに対応できるような資産運用の必要性を改めて感じた。また、年金の障害給付の要件に関しても海外では就業不能をトリガーにしている国もあるという記述があり、日本もこうした形で変化させた方が良いと感じた。実際に障害給付が必要となるのは就業不能状態に陥った場合であり、日本の障害給付の1~3級の認定の場合、少しずれが生じるようにも感じた。
なお、被用者には厚生年金という2階建ての年金制度があることは、自営業のように持ち家や土地などの資産が少ないことに起因しているという記述があったが、被用者が急増している日本では、改めて資産を持ち、資産を運用しているいわゆる資産家と、資産を持たず被用者として生活している労働者という構図の格差は拡大しているのではないかと感じた。昨今では、ほとんどのモノがサービス化している傾向があるが、少なくとも家などという生活の基盤になるものに関しては資産として持つことがベターであると改めて感じた。年金制度の前提にあるフローとストックの考えが明確に理解できたとともに、以前、広井先生の本に記載があったストックの社会保障の強化と言う観点も改めて重要であると感じた。
また、1980年代ごろから非正規雇用が拡大していき、厚生年金に入っていない人やジョブホッパー的な人で国民年金の受給要件を満たしていない人など、いわゆる下流老人と呼ばれる層は潜在的に存在しているという事実にはかなり危機感を持った。今後も厚生年金の被用者拡大等、年金にとっての延命措置を積極的に続けなければならないと感じた。続きを読む投稿日:2022.01.16
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