この作品のレビュー
平均 4.3 (3件のレビュー)
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▼(以下本文より抜粋)
唐代、東西文明の交流は、ほぼ平和のうちにすすんだ。ただ一度だけ戦争の形態をとった。唐の遠征軍とイスラム軍が大規模な会戦を演じた「タラスの戦い」(七五一)である。 タラスは、いま…はソ連領内(ソ連邦カザフ共和国)にある。この会戦では、唐軍が敗北し、得るところがなかったが、イスラム側は巨大な文明史的な利益をえた。紙を知ったのである。捕虜の唐人のなかに紙漉工がいたために、製紙はたちまち西へつたわった。
▼(以下、本文より抜粋)
いうまでもないことだが、日本漢音には、呉音と漢音がある。最初、呉音が渡来した。たとえば、「正月」 という。これは呉音である(漢音なら、むろんセイゲツ)。元旦も呉音で、ゲンタンとはいわない(ただし元日といったときは、呉と漢がまじっている)。「明けの明星」も呉音。大阪に明星高校というカトリックの学校があるが、メイセイは漢音である。明治のキリスト教は、呉音をきらった。理由は、呉音が主として仏教経典の音で「坊さんよみ」ともいわれていたからである。このためキリスト教は徹底的に漢音を用いた。聖書は、呉音──坊さんよみ──なら聖書だが、むろんセイショ。「関西」の西は呉音である。大阪の私学の関西大学はむろん土地の慣習音どおりカンサイだが、キリスト教系の関西学院大学にかぎっては、呉音をきらい、カンセイという。 呉音の呉は、揚子江下流の地域をさす地理用語で、必ずしも呉ノ国ということではない。
▼(以下、本文より抜粋)
隋・唐帝国の成立以前、中国はながく不統一状態がつづいていた。そのころ、揚子江流域に興亡したいわゆる六朝の文化が、もっとも高かった。この地方が「呉」である。だから呉音は、六朝時代の代表的な音だった。 当時、朝鮮半島は三国にわかれ、黄海に面した百済はさかんに六朝(呉地方)と交通し、その文化を吸収していた。五、六世紀のころ、日本は百済を通じてはじめて漢字を入れた。百済音だから、当然、呉音である。このため『古事記』の仮名も呉音が基調だし、万葉仮名もそうである。経典にいたってはすべて呉音だった。
ところが、隋・唐が中国を統一してから、日本はじかにこれと交流するようになった。このときはじめて、呉音が一地方音だったことを知った。 奈良朝の日本は、新音(当時正音といった)を学ぶようになった。それが、漢音(この場合の漢は、華北というほどの意味)である。そのくせ、聖武天皇などと呉音で諡名したのは、呉音の勢力がいかにつよかったかを思わせる。奈良朝のある時期、朝廷では「漢音で統一しよう」としたらしいが、興福寺などの大寺の僧侶団が反対しておこなわれなかった。僧侶たちの無意味な反対のおかげで、われわれはいまなお呉漢両用という言語上のわずらわしさをかかえているのである。
▼今回旅するのは、中国の南部の海沿いの方。福建省のあたり。なんとなく「呉」と呼ばれる地域です。船の話。文明の話。世界史と日本史。オモシロイ。僕は大好きです。続きを読む投稿日:2024.02.17
司馬遼太郎さんの中国への知識や歴史的文化的視点の深さは敬服するばかりです。
中国の閩は福建省の地域名です。以前に読んだ街道をゆくシリーズの蜀・雲南、江南とそれぞれ違った歴史や文化があって、中国は広く…面白いなと思いました。続きを読む投稿日:2024.03.04
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