クビライの挑戦 モンゴルによる世界史の大転回
杉山正明(著)
/講談社学術文庫
作品情報
13世紀初頭に忽然と現れた遊牧国家モンゴルは、ユーラシアの東西をたちまち統合し、世界史に画期をもたらした。チンギス・カンの孫、クビライが構想した世界国家と経済のシステムとは。「元寇」や「タタルのくびき」など「野蛮な破壊者」というイメージを覆し、西欧中心・中華中心の歴史観を超える新たな世界史像を描く。サントリー学芸賞受賞作。(講談社学術文庫)
もっとみる
商品情報
- 著者
- 杉山正明
- 出版社
- 講談社
- 掲載誌・レーベル
- 講談社学術文庫
- 書籍発売日
- 2010.08.10
- Reader Store発売日
- 2014.10.24
- ファイルサイズ
- 2.5MB
- ページ数
- 304ページ
以下の製品には非対応です
この作品のレビュー
平均 3.6 (10件のレビュー)
-
幻の大元・ウルスの大航海時代は訪れず、明は鄭和の大艦隊ではなく万里の長城を選ぶことになった。
1説によると4000万人を殺したというチンギス・カンや元寇からモンゴル帝国・元は「文明の破壊者」という野蛮なイメージがある。イランやイスラームの凋落、ロシアの「タタールのくびき」そして最も悪者イメージ…を持つのは中国史においてだ。しかし、どうやらこのイメージは多くが清の時代に作られた様なのである。満州族の清は漢人から夷狄と呼ばれるのを嫌がり少しの批判でも処刑した。その鬱憤が元の悪口に向かったと言うのだ。
1260年チンギスの孫の時代、第四代モンゴル帝国皇帝モンケの弟フレグがシリアに侵攻中にモンケの崩御の報せが届いた。モンゴル軍はマムルーク朝エジプトに破れモンゴルの西方への拡大はここでほぼ止まる。兄クビライの即位を聞いたフレグはイランにフレグ・ウルス(国)を立ち上げた。アフガンあたりにはチャガタイ・ウルス、中央アジアからロシアにかけてのジョチ・ウルスそしてモンゴルから華北に広がり南宋を滅ぼすクビライの大元・ウルスと書くとモンゴル帝国が分裂した様に見えるが元々遊牧民族は緩やかな連合国家のようなものでカンあるいはハンは王の称号でその王達の上に大カアン(皇帝)がいる。クビライは大元・ウルスのカンでありモンゴル帝国のカアンとなったのだ。
クビライについては37才で表に出るまで目立った記録が残っていない。しかし帝国を代表する姻戚集団と譜代集団の長が義兄にあたりこの集団を代表する形で力を持ったらしい。クビライの兄モンケは数カ国語を自在に操りユークリッド幾何学や古今東西の諸学に通じた才人であった。そしてクビライは科挙を廃止する代わりに実力主義でアラブ商人や江南の水軍、中華の官僚制度と何でもとりあげ世界貿易システムを作り上げた異才である。モンゴル騎馬軍団の武力、直轄する当時最も豊かな中華特に江南の経済力、そしてその富を循環させるムスリムの商業力がその力の源泉である。
大都(北京)を首都にしたのも明らかな理由がある。遊牧民らしく夏は北に上がり冬は南に降りるという2首都体制の大元なのだがクビライの最初の根拠地は西安でモンゴル全体からするとよほどこちらの方が中心に近い。中央アジアと中華の接点だけであれば北京と言う場所はあまりにも辺境によりすぎている。しかし西安になく北京にあるものが水運だ。北京と郊外の通州を結んだ運河は大都の中央の湖につながっている。また当時世界最大の都市だった杭州と通州を結ぶ京杭大運河を復活させたのもクビライだ。北京の直轄港としてこれも水運でつながった直沽(天津)を整備した。大元という国号も首都の大都、年号の至元とセットでテングリ(天)を表すものだ。クビライの構想では海上の通商網が重視されているだから北京が首都になったのだ。同時に陸上交通網も整備され中央アジアの全ての道と駅伝網は夏の都、上都につながっている。
戦争の手段もなかなか独創的である。一機に攻めると言うのではなく南宋攻略には非常に時間をかけており一度はこのため皇帝モンケから実権を奪われかけた。華北の地は北宋の時代に金と南宋の時代にすっかり荒れ果てており現地調達が兵站の基本になるので牧草地でないと騎馬軍団は役に立たない。黄河、長江等が障壁となる以上に華北地域の荒廃が万里の長城以上の大きな壁になっていた。クビライは黄河沿いの開封を根拠地として漢水上流の襄陽を包囲、しかしまともに城攻めはせずやっているのは土塁を築いて少数を残し、籠城側が攻めて来たら飛び道具で追い払うという黒田勘兵衛の様な戦だ。この間に漢水から長江に入り南京を攻めるために水軍を作り軍事演習を行っている。兵站については商人が集まってきている。南宋の水軍を討ち果たし、降伏した南宋軍や人民を優遇して自軍に取り込みなかでも襄陽の主将、呂文煥を見方にしたのが大きく長江中流の鄂州(現在の武昌)を落とすとその後もほぼ戦闘らしいものはなく南宋は滅びた。
元寇自体が南宋攻略の一環であり、実際に主力となったのは江南の水軍である。当時人類史上最大の外洋大艦隊であったが純粋な戦闘部隊は高麗から来た東路軍でむしろ残りは移民船団だったようだ。3回目の元寇は内戦とその数年後にクビライがなくなり見送られることになった。しかし、もし元寇が成功していたらと想像してみるとおそらく日本の自治は守られていただろう。役立たずと見られた制度は廃止されたかも知れないが博多が世界との貿易港として栄えイスラム商人もやってきていたことだろう。大元ウルスの国家経営は塩の専売が80%で関税は撤廃され、最終売り上げ地で1/30の売上税(商税)がかかる。農業生産物の収入は地方政府のもので農本主義ではない重商主義の国は歴史上この後当分現れない。国税が3.3%だけでそれは銀の恩賜として配られその銀を元にした商人への貸付がまた商税として還流する。
続きを読む投稿日:2015.01.05
-
222
[通商帝国・大モンゴルが世界史の流れを変えた。本当に「野蛮な破壊者」だったのか? 西欧中心・中華中心の歴史観を覆す。13世紀初頭に忽然と現れた遊牧国家モンゴルは、ユーラシアの東西をたちまち統合…し、世界史に画期をもたらした。チンギス・カンの孫、クビライが構想した世界国家と経済のシステムとは。「元寇」や「タタルのくびき」など「野蛮な破壊者」というイメージを覆し、西欧中心・中華中心の歴史観を超える新たな世界史像を描く。サントリー学芸賞受賞作。(講談社学術文庫)]
「著者は、京都大学でモンゴル研究に取り組み、従来の定説を次々とくつがえす刺激的な議論を展開する気鋭の学者です。世界史の教科書に必ず載っている事項について、オゴタイ・ハンは存在しなかった、マルコ・ポーロは実在したか疑わしい、等新説を発表している。ー思い込みと伝説に彩られたモンゴル帝国の歴史を、新しい視点でズバズバと斬っていく杉山説は、読んでいるだけで楽しく、次から次へと新しい発見があります。みなさんもぜひそんな快感を味わってみてください。杉山さんの他の本もおすすめの力作。」(『世界史読書案内』津野田興一著 の紹介より)
第一部 あらたな世界史像をもとめて
1 モンゴルとその時代
モンゴルの出現/目に見えるユーラシア世界/モンゴル時代のイメージ
2 モンゴルは中国文明の破壊者か
奇妙な読みかえ/杭州入城の実態/政治ぬきの繁栄
3 中央アジア・イランは破壊されたか
チンギス・カンの西征と「破壊」/中央アジアでの「大虐殺」/中央アジアは駄目になっていない
4 ロシアの不幸は本当か
「タタルのくびき」/アレクサンドル・ネフスキーの評価/ロシア帝国への道
5 元代中国は悲惨だったか
抑圧・搾取・人種差別はあったか/科挙と能力主義のはざま/元曲が語るもの
6 非難と称賛
文明という名の偏見/極端な美化という反動
7 世界史とモンゴル時代
ふたしかなシステム論/世界史への視角
第二部 世界史の大転回
1 世界史を変えた年
アイン・ジャールートの戦い/戦いのあと/ふたつのモンゴル・ウルスの対立/モンケの急死
2 クビライ幕府
クビライの課題/混沌たる東方/なぜ金蓮川なのか/あるイメージ
3 クビライとブレインたち
モンゴル左翼集団/謎のクビライ像/政策集団と実務スタッフ/対中国戦略
4 奪権のプロセス
鄂州の役/クビライの乱/世界史の大転回
第三部 クビライの軍事・通商帝国
1 大建設の時代
なにを国家理念の範とするか/第二の創業/「首都圏」の出現/大いなる都/海とつながれた都/運河と海運、そして陸運
2 システムとしての戦争
おどろくべき襄陽包囲作戦/南宋作戦のむつかしさ/戦争を管理する思想/モンゴル水軍の出現/新兵器マンジャニーク/驚異のドミノくずし現象/中国統合
3 海上帝国への飛躍
南宋の遺産/世界史上最初の航洋大艦隊/海洋と内陸の接合
4 重商主義と自由経済
クビライ政権の経営戦略/国家収入は商業利潤から/銀はめぐる/ユーラシアをつらぬく重量単位/紙幣は万能だったか/「高額紙幣」は塩引/ユーラシア世界通商圏
5 なぜ未完におわったか
モンゴル・システム/早すぎた時代/記憶としてのシステム/ふりかえるべき時
あとがき
学術文庫版あとがき続きを読む投稿日:2023.08.16
新刊自動購入は、今後配信となるシリーズの最新刊を毎号自動的にお届けするサービスです。
- ・発売と同時にすぐにお手元のデバイスに追加!
- ・買い逃すことがありません!
- ・いつでも解約ができるから安心!
※新刊自動購入の対象となるコンテンツは、次回配信分からとなります。現在発売中の最新号を含め、既刊の号は含まれません。ご契約はページ右の「新刊自動購入を始める」からお手続きください。
※ご契約をいただくと、このシリーズのコンテンツを配信する都度、毎回決済となります。配信されるコンテンツによって発売日・金額が異なる場合があります。ご契約中は自動的に販売を継続します。
不定期に刊行される「増刊号」「特別号」等も、自動購入の対象に含まれますのでご了承ください。(シリーズ名が異なるものは対象となりません)
※再開の見込みの立たない休刊、廃刊、出版社やReader Store側の事由で契約を終了させていただくことがあります。
※My Sony IDを削除すると新刊自動購入は解約となります。
お支払方法:クレジットカードのみ
解約方法:マイページの「予約・新刊自動購入設定」より、随時解約可能です続巻自動購入は、今後配信となるシリーズの最新刊を毎号自動的にお届けするサービスです。
- ・発売と同時にすぐにお手元のデバイスに追加!
- ・買い逃すことがありません!
- ・いつでも解約ができるから安心!
- ・優待ポイントが2倍になるおトクなキャンペーン実施中!
※続巻自動購入の対象となるコンテンツは、次回配信分からとなります。現在発売中の最新巻を含め、既刊の巻は含まれません。ご契約はページ右の「続巻自動購入を始める」からお手続きください。
※ご契約をいただくと、このシリーズのコンテンツを配信する都度、毎回決済となります。配信されるコンテンツによって発売日・金額が異なる場合があります。ご契約中は自動的に販売を継続します。
不定期に刊行される特別号等も自動購入の対象に含まれる場合がありますのでご了承ください。(シリーズ名が異なるものは対象となりません)
※再開の見込みの立たない休刊、廃刊、出版社やReader Store側の事由で契約を終了させていただくことがあります。
※My Sony IDを削除すると続巻自動購入は解約となります。
お支払方法:クレジットカードのみ
解約方法:マイページの「予約自動購入設定」より、随時解約可能ですReader Store BOOK GIFT とは
ご家族、ご友人などに電子書籍をギフトとしてプレゼントすることができる機能です。
贈りたい本を「プレゼントする」のボタンからご購入頂き、お受け取り用のリンクをメールなどでお知らせするだけでOK!
ぜひお誕生日のお祝いや、おすすめしたい本をプレゼントしてみてください。※ギフトのお受け取り期限はご購入後6ヶ月となります。お受け取りされないまま期限を過ぎた場合、お受け取りや払い戻しはできませんのでご注意ください。
※お受け取りになる方がすでに同じ本をお持ちの場合でも払い戻しはできません。
※ギフトのお受け取りにはサインアップ(無料)が必要です。
※ご自身の本棚の本を贈ることはできません。
※ポイント、クーポンの利用はできません。クーポンコード登録
Reader Storeをご利用のお客様へ
ご利用ありがとうございます!
エラー(エラーコード: )
ご協力ありがとうございました
参考にさせていただきます。