この作品のレビュー
平均 3.7 (67件のレビュー)
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芥川賞を受賞した傑作『コンビニ人間』の原型が間違いなくこの本にはあります。
この作品は村田沙耶香さんの処女作『授乳』に続く長編2作目です。
そして、この『マウス』は『コンビニ人間』や『消滅世界』、処…女作の『授乳』に比べればかなり『普通』のお話です。
もちろんあの『クレイジー沙耶香』にしては『普通』ということですので、一般の目からみたらかなり「変わっている」お話であることは間違いありません(笑)。
このお話は、二人の少女、律と瀬里奈が主人公です。二人が小学校5年生になったところから物語は始まります。
主人公の一人、律は、いわゆるスクールカーストで言えば下から2番目くらいと言えば分かりやすいでしょうか。内気で真面目、そしてできるだけ目立たないように学校生活を過ごしている女の子です。律は、学校では目立たないようにしながらも、常に他人の目を気にして「良い子」でいようとします。
律の性格は家庭でも変わりません。母親から良く思われようと、母をねぎらい、母が疲れていると思えば「お母さん、疲れているみたいだから、夕飯は私が作るね」と言って母親を涙ぐませるような女の子です。
もう一方の主人公、瀬里奈は同じようにスクールカーストで言えば、最下層のさらに下の不可触民ということになるでしょうか。
瀬里奈は、他人とコミュニケーションがとれず、誰とも口をききません。そして授業中に突然泣き出したり、教室から勝手に出て行ってしまったりします。はっきり言って問題児です。
律はそんな自分勝手な行動ばかりする瀬里奈を許せません。
ある時、教室を出て行ってしまった瀬里奈を律はこっそりと追いかけます。瀬里奈は人気のない女子トイレに入ってゆきます。律も瀬里奈を追いかけて女子トイレに入ってみると、そこには瀬里奈の姿はありませんでした。個室はどこも空っぽです。
律は、もしかしたら瀬里奈がどこか遠い世界に行ってしまったのではないかと不安になり、最後に女子トイレの掃除用具入れの扉を開けてみました。すると、瀬里奈がモップなどを洗うための洗面台に腰をかけて座っているではありませんか。
律が声をかけても、瀬里奈は律を無視します。そんな自分の中に閉じこもっている瀬里奈を見て律は心底うんざりしてしまいます。
律は瀬里奈に外の明るく楽しい世界を知らないからそんな性格になってしまうのだと非難し、たまたま持っていた『くるみ割り人形』の本を瀬里奈に読ませようとします。
瀬里奈はそれも拒絶し、律を突き飛ばして掃除用具入れの中に再度閉じこもってしまいます。律は、そんな彼女に構わず『くるみ割り人形』を瀬里奈に聞こえるように朗読し始めるのです。
すると、信じられないようなことが起こります。
掃除用具入れから出てきた瀬里奈は『くるみ割り人形』のヒロイン・マリーになりきっていたのです。その口調から立ち振る舞いまで今までの瀬里奈とは別人です。それを見て怖くなった律は、本を瀬里奈に渡し、瀬里奈をおいて逃げ出します。
次の日から瀬里奈は人が変わったように明るく、朗らかな性格になっていました。そう、瀬里奈は次の日もマリーのままだったのです。
そんな律と瀬里奈の二人はこれからどうなってしまうのでしょうか。
この小説に登場する二人の少女は、私たち誰もが抱えている矛盾を象徴しているキャラクターです。
あくまでも『社会的な普通』を追求する律。
律は小学校の時の性格を残したまま大学生になり、学業以外の時間はファミレスでのアルバイトにほとんどの時間を費やします。
自分という個性を捨て、ウェイトレス用の『制服』を着て『ファミレスのウェイトレス』という役柄に入り込んだ時に律が感じる満足感と万能感。
これは、まさに『コンビニ人間』の主人公・古倉恵子が感じているものと同じなのだろうと思います。『自分』という個性を無くし、社会の歯車の一つになることで『自分』の存在意義を感じることができるのです。
一方、自我を守る為『くるみ割り人形』に依存する瀬里奈。
瀬里奈は、毎日学校に行く前に必ず『くるみ割り人形』を読み、外出する際も文庫本の『くるみ割り人形』を携帯します。
瀬里奈はヒロインのマリーになりきることでしか普通の人と同じような生活をすることができなくなってしまったのです。この瀬里奈の生き方についてもある意味『コンビニ人間』の古倉恵子と同じです。完全に仮面を被り、自分を殺して生きていくのです。ですから古倉恵子と同じように、マリーを演じる必要のないときは、瀬里奈は自宅にこもって何もしないのです。
大学生になった二人の生活を描きながら、二人の奇妙な友情が紡ぎ出されます。
律と瀬里奈の性格の対比や二人のそれぞれの人生の変貌を見ていくと非常に興味深く、この二人の生き方は非常に極端ですが、ある意味において、現代に生きる私たちの姿をそのまま表していると言うこともできるのではないでしょうか。
誰もが『律』のように他人の目を気にして、建前で生きている部分がありますし、また誰もが『瀬里奈』のように、誰かを模倣したり、完全に自分でない誰かを演じたりしていることがあると思います。
いったい『自分』とは何でしょうか。そして、本当の『自分』とはどこにあるのでしょうか。
そんな素朴な疑問がわき上がります。
自分とはなにか、自分らしく生きるとは。
自分の内面を鋭くえぐり出してくれるこの小説。
この本もまさに村田沙耶香さんが追い求める「社会の中での自分」というテーマを体現した傑作の一つだと思います。続きを読む投稿日:2019.10.02
このレビューはネタバレを含みます
今まで読んだ村田さんの本と比較して、割とクレイジーさが薄かった気がする。いつもは脳みそに真新しい考えを直接植え込まれる感じ。代わりに今回は主人公に共感できた。周囲の目を気にして合わせてしまう、臆病な自…分。合わせられない(合わせようとしない?)瀬里奈に興味、少しの苛立ちを感じるのもわかる。美人は人生イージーモードか……
レビューの続きを読む
瀬里奈は一見、「必死に自分の世界を守ろうとする女性」のように見えるけれど、マリーの状態が便利なだけで(そうやって生きていくことしか知らなくて)実はそんなに執着してないのもいい。続きを読む投稿日:2021.01.02
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