この作品のレビュー
平均 3.2 (47件のレビュー)
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村田沙耶香の小説は芥川賞受賞作の『コンビニ人間』から入ったのだが、そのコンビニで働く36歳で恋愛経験がない主人公の古倉恵子の人間性に度肝を抜かれ、続いて読んだセックスが無くなり、子供が人工授精で産まれ…る世界を描いた『消滅世界』の世界観に嫌悪感を突き抜けた先に見える無力感に打ちのめされた。
もうこの2冊で村田沙耶香の虜になってしまった。
ここまで彼女の描く世界の魅力に取り憑かれてしまったからには村田沙耶香の処女作に取り組まない訳にはいかない。
本書『授乳』は、群像新人文学賞優秀作を受賞した村田沙耶香のデビュー作である。
女子中学生と大学院生の男性家庭教師との倒錯した関係を描いた表題の『授乳』の他、ぬいぐるみを恋人として過ごす主人公の女性と同じくぬいぐるみを愛する小学生の女の子との関係を描いた『コイビト』、大学生の女性が自分の想像する理想の大学生に出会い、その男性を自分の望むままに支配していく過程を描く『御伽の部屋』の計3作品が収録されている。
『処女作にはその作家のすべてがある』とよく言われるが、恥ずかしながら僕の未熟な村田沙耶香小説の読書歴に照らし合わせても、この言葉は「至言」であると思う。
平成28年10月2日付の文春オンラインの瀧井朝世氏のコーナー『作家と90分』内での村田沙耶香へのインタビューで
瀧井 ― 「授乳」のなかには、家族や母親というテーマ、少女の性への目覚め、自分なりの価値観で世界を築こうとする主人公などと、その後も村田さんのなかで大事なテーマになるものが詰まっていますよね。
村田 ― 確かに短篇なのに、私の書きたいテーマが、あそこにギュッと詰まっている気が今でもしています。
と本人も話していることなので、当たらずとも遠からずといったところであろうか。
処女作の『授乳』、そして『コイビト』『御伽の部屋』の3作品の中には間違いなく『コンビニ人間』の主人公・古倉恵子も『消滅世界』の主人公・坂口雨音の姿も見つけることができる。もちろん彼女達がこの3作品に直接登場している訳ではない。その精神性がこの3作品の主人公達と共通しているのだ。
村田沙耶香の描く女性は、いずれもその『性』や『肉体』について我々の読者が普通に思い描く価値観とはかけ離れた考えを持っている。彼女たちは、上手く言葉で言い表せないが、自分の『肉体』を大切にしていないというか、もっと言うならば嫌悪感すら抱いている、とすら言えるのだ。
彼女達の一番重要なものは、自分の心や精神そのものであって、その『肉体』については、心や精神を縛る手枷足枷であり、むしろ心や精神を閉じ込めている監獄であると言ってもいいかもしれない。
村田沙耶香が描く性描写を読むと「愛し合う男女が愛を確かめ合う行為」だとはとても感じられない、むしろ昆虫や爬虫類の交尾を見せつけられているような「できればご遠慮させていただきたいと思います」と丁重にお断りしたくなるような居心地の悪い気持ちにさせられるのも、その理由の一つだろう。
そしてもう一つ。村田沙耶香は、自らの描くキャラクターの持つ女性にとっての「母」「妻」「娘」や、男性にとっての「父」「夫」「息子」といった性別上の役割を通常の価値観からは想像できないような方法で完全に崩壊させているというところだ。
本書の表題作である『授乳』では、主人公である女子中学生は自分の母親が父親の下着を分けて洗濯することに対して嫌悪感を抱き、あえて自分の下着と父親の下着を結びつけて洗濯カゴに投げ入れる。『消滅世界』においても主人公の坂口雨音とその母親との関係を描写するラストは激烈なイメージを読者に与える。
であるなら読者は村田沙耶香の描く『違和感しかない世界』に対して嫌悪感を抱かないのか?
少なくとも僕にとっては、この質問に対する答えは、完全に『否』としか言えない。
なぜなら、もうこの倒錯した既存の価値観のぶっ壊される経験はやみつきになるからだ。
トリップ感があると言っても良いかもしれない。
この倒錯した価値観を独特の美しい文書で強制的に追体験させられる。
この体験は極めて特殊であり、他の小説家からは得られない唯一無二の読書体験だ。
村田沙耶香の描くこの狂った世界を、読者にごく普通に当たり前のように感じさせるこの筆力の凄まじさ。
これが村田沙耶香を「クレイジー沙耶香」と呼ばせる所以の一つなのだろう。
この世界に取り込まれてしまいたい。
ずっと村田沙耶香の小説を読んでいたい。
ただ、そうすると、もう二度と「こちらの世界」には戻って来られなくなるので、その投与量については厳密にチェックしておく必要があることは言うまでもない。
ここまでくればもう立派な『「クレイジー沙耶香」にクレイジー(首ったけ)な読者』の完成だ。
僕はまだ彼女の小説を3冊しか読んでいない。
つまり、これからまだまだ「クレイジー沙耶香」を愉しめるということだ。
狂喜している僕の顔には、他人から見れば、歪んだ笑みしか浮かんでいないのだろう。続きを読む投稿日:2019.08.02
村田さん3冊目。これも昔一度読んだことがある本です。どのお話も強烈でした。
解説の、主人公がそれぞれ自分だけの王国を持っている、という部分に納得。自分が心地よく生きていける空間をなりふり構わず追求して…いる主人公たちが、少し怖かった。「御伽の部屋」の主人公の気持ちはわかる気がする。
村田さんの人間の描写の仕方はすごい。人間を外側から見ている感じ。あと何か食べているときの表現。命を奪うときの表現もそう。あまり気持ちのいい表現ではなくて、どちらかと言えば気持ち悪くて、私もその気持ち悪い生物なんだといつも思う。
3冊読んで、共通して蟻が出てきていることに気づいた。蟻好きなのかしら。「取り替えられるだけの存在」の象徴として扱われているのかな。続きを読む投稿日:2021.01.02
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