文学のプログラム
山城むつみ(著)
/講談社文芸文庫
作品情報
<書くこと>でいかに<戦争>と拮抗しうるのか――。小林秀雄、坂口安吾、保田與重郎の戦時下における著述を丹念に辿ることで、時局に追従する言説と彼らとの距離を明らかにし、保田の『万葉集の精神』を起点に、日本文を成立せしめた「訓読」というプログラムの分析へと遡行する。気鋭の批評家による<日本イデオロギー>の根底を撃つ画期的試み。群像新人文学賞受賞作を収めた第1評論集。
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商品情報
- シリーズ
- 文学のプログラム
- 著者
- 山城むつみ
- 出版社
- 講談社
- 掲載誌・レーベル
- 講談社文芸文庫
- 書籍発売日
- 2009.11.10
- Reader Store発売日
- 2014.03.28
- ファイルサイズ
- 0.2MB
- ページ数
- 256ページ
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この作品のレビュー
平均 3.8 (6件のレビュー)
-
戦争の緊迫の直下には、人間のせせこましい心理、小賢しい知恵は凍りつく。偉大な破壊への愛情、偉大な運命への従順、驚くべき充満と重量を持つ無心、素直な運命の子供となった人間、娘達の爽やかな笑顔。そこでは…、そうしたもののみが存在を許される。だからこそ、あまりにも純粋な心は、戦争を、それが修羅場であるがゆえに美しい理想郷とみなさずにはいられない。
(P.72)続きを読む投稿日:2010.06.02
批評とは「読み」そして「書く」ことである。「読む」ことと「書く」ことの連続と非連続、これが本書のテーマであり、批評家山城むつみの拘りである。「読む」とは己を空しくして対象に没入しようとする行為であるが…、「書く」とは対象を分析し、論理を介して対象を所有しようとする。「知への倒錯的な愛」に突き動かされた、人間の原罪とも言うべき強迫観念だ。批評家は「書く」ために「読む」が、対象から距離を置き「知」を志向する「書く」は、対象と一体化しようとする「読む」との間に常に既にズレを孕んでしまう。
小林秀雄は批評家としての初発からこのズレに自覚的であった。自覚的どころではない。「自意識とその外部」を主題とした彼の批評はまさにこのズレを巡るものだった。だが小林は最終的にこの問題を放擲した。「倒錯」を封印して「書く」ことを断念する。そして「読む」ことに徹することを自らの批評と見定めた。見えないものを見ようとせず、見えるものだけを見とどけようとした。その集大成が『本居宣長』である。小林の断念に限りない共感を寄せつつも、山城はなおこの「倒錯」を生きることに批評のかすかな可能性を見ようとする。
だがそれは徒労に終わるだろう。山城の問いは切口は斬新に見えるが、認識と行為の断絶という昔ながらのありふれた問題だ。問題が困難なのではない。問い方が間違っているのだ。小林に「アシルと亀の子」という文章がある。アシル(=アキレス)とは認識であり知である。亀の子とは行為であり現実である。アシルは亀の子を追い越せない。これはパラドクスではない。原理的に不可能なのだ。それに挑むのは「倒錯」である。倒錯に執着するのは勝手だが、「病気」を押し売りするのは見苦しい。こういう批評スタイルを確立したのは柄谷行人だが、その悪しき性癖を日本の文芸批評は未だ克服できずにいる。評者の勘だが山城は実は大して病んでもいない。その昔『批評空間』界隈を支配した柄谷的な「意匠」に媚びてるだけのような気がする。
戦争への態度を巡る保田と小林の比較もピント外れだ。策謀によって宮廷を壟断した藤原仲麻呂を東條英機に比する頓珍漢はご愛嬌としても、汚名を覚悟で文学者として戦争にコミットした保田は潔く、文学の純粋性を留保して戦争を美化する小林は裏口から体制に迎合したというのは、保田理解としても小林理解としても浅薄だ。政治と芸術を峻別する、しないは各々の選択である。芸術は結果として政治的機能を持つが、それは芸術が政治の婢女であることを意味しない。保田は政治を芸術化した。但しイロニーとして。小林は一国民として政治を受け入れ、芸術に徹した。各々のやり方で芸術の自律性を守っただけだ。ファシズムへの抵抗を文学の課題とするのは自由だが、その前に戦争=ファシズムという己の空疎な等式を反省した方がいい。
「訓読のプログラム」なるものもお為ごかしで新しさは全くない。イデオロギー批判の文脈で持ち出すのは無意味だ。そんな事を言い出せば、全て「文体」はイデオロギーだと言わねばなるまい。真っ当な文学的感性を持っているのだから、つまらぬ意匠をいじくり回すのはやめた方がいい。続きを読む投稿日:2023.12.30
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