クラウド 増殖する悪意
森達也(著)
/dZERO(インプレス)
作品情報
これが日本なのか、日本人なのか? 徒党を組み集団化することで凶暴化する日本社会、大勢でたった一人をバッシングする容赦なき人々の姿。そんな「日本の現実」へ、重い一石を投じる。2009~2013年に雑誌、新聞、WEBに掲載された原稿を加筆・修正し、書き下ろしを加えて書籍化。【目次】第一章 加害者と被害者――加速する厳罰化と発せられる罵声第二章 無知と無自覚――外なる「悪魔」、内なる「善」という思い込み第三章 憎悪と報復――加虐的に、とめどなく第四章 同調圧力――集団は敵を探し、強い管理統制とリーダーを求める第五章 覚悟――表現するということは対 談 蓮池透 + 森達也
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商品情報
- シリーズ
- クラウド 増殖する悪意
- 著者
- 森達也
- 出版社
- dZERO(インプレス)
- 書籍発売日
- 2013.12.21
- Reader Store発売日
- 2014.02.19
- ファイルサイズ
- 0.4MB
- ページ数
- 288ページ
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この作品のレビュー
平均 3.7 (10件のレビュー)
-
ドキュメンタリー作家 森達也が、様々な媒体に書いたエッセイをまとめたもの。
複数の媒体にまたがっているが、各章のタイトルとサブタイトルを見ると著者の意図がわかってくる。
第一章 加害者と被害者 - …加速する厳罰化と発せられる罵声
第二章 無知と自覚 - 外なる「悪魔」、内なる「善」という思い込み
第三章 憎悪と報復 - 加虐的に、とめどなく
第四章 同調圧力 - 集団は敵を探し、強い管理統制とリーダーを求める
第五章 覚悟 - 表現するということは
全体としてなかなかまとめづらいので、ここでは、いくつか印象的なフレーズを取り上げる。
・第一章で取り上げられた『苦界浄土』は高橋源一郎にも最上の敬意をもって取り上げられた。「要するに僕はまだ『苦界浄土』を語れるレベルにすら達していない」という『苦界浄土』は一度は目を通しておきたい。
・足利事件などの冤罪事件や死刑囚再審に対する論考の中で、「個人の場合に働くはずの摩擦が効かなくなる。なぜなら「赤信号みんなでわたれば怖くない」状態になるからだ。そしてこの状態が少し続くだけで、赤信号であることすら忘れてしまう」というのは、森達也が常に意識することだ。オウム以来、暴走する組織のロジックや、「しない」ことの冷酷さは著者の大きなテーマだ。
・精神鑑定について、「かつて精神鑑定は、被告人の権利を守るための重要な要素だった。オウム以降、加速する厳罰化の流れにおいて、その意味付けは逆転した。検察側の主張を補強する材料として、恣意的に使われることが多くなった」というのは『A3』での大きなテーマ。検察の恣意性というのは、組織として「しない」ことを選択することでさらに強化されている。拘留請求がほとんど裁判所で受理されるといのが、司法全体で熟考が働かなくなっている証左かもしれない。
・「遺族の感情が死刑の理由になるのであれば、もしも親類や知人をまったく持たない人が被害者となったとき、その犯人の罰は(応報感情を抱く遺族がいないのだから)軽くてよいということになってしまう」という著者はこの点で全面的に正しい。光市星殺害事件に対するメディアと一般市民の声を論じるに当たり大いなる違和感を発する。このテーマは、『「自分の子どもが殺されても同じことが言えますか」と叫ぶ人に訊きたい』にも通じるテーマだ。本書のタイトル『増殖する悪意』もこれを表現している。
・有名なミルグラムの実験を取り上げて、「人の自由意志はこれほどに危うい。簡単に操作される。そして操作されていることに気づかない」とする。また、ホロコーストを例に挙げて、「誰もがヘスになりうる。誰もがアイヒマンになりうる。もちろん僕も。そこからスタートしなくてはダメなのだ」という。オウムの件でいうと信者は「洗脳されていた」ということで済ませてはいけない。
・「メディアはうそをつかない ... 視聴率や部数を上げるために危機を煽り、悪と規定された存在の異常さを強調し、視聴者や読者が望む方向に誘導する(念を押すがメディアが望む方向ではない)」... 最後のところが重要。
「恣意的でありながらルーティン・ワーク。むしろこちらのほうがうそより怖い。なぜなら加工をしているとの自覚がない。後ろめたさや抵抗がない。だからつるつる滑る。こうして「凡庸な悪」が誕生する」というのが、組織の暴走に対する著者の認識だ。「人は普段着のままで買い物帰りに、取り返しのつかない間違いを犯す生きものだ。その意識をもう少しだけ多くの人が持てば、メディアはおそらく変わるはずだ。でも人々が変わるためにはメディアがかわらなければならない。救いのない堂々巡りだ」というのは著者が確信する、マスメディアが必然的に内包する問題だ。
・「恣意性のない編集など存在しない。虚を撮って(自分にとっての)真実を紡ぐ。表現として再構成する。これがドキュメンタリーの作法であり本質だ。事実と表現のあいだに生じる乖離に煩悶して当たり前なのだ」や「情報は常に誰かの意見や思いのバイアスがかかっている。意見や思いのフィルターを透過している。ニーチェが残した箴言である「事実など存在しない。ただ解釈だけが存在する」の意味を、メディアの人たちはもっと噛みしめるべきなのだ」というのは著者のドキュメンタリーとメディア批判に共通する姿勢だ。
・「第一に被害者と遺族の地位は、ほとんど聖域化しており、彼らに反対尋問をするとか、彼らの主張に疑問を差し挟むということはほとんど不可能であるということ。第二に、被害者と遺族が被告人に死刑を望むと発言することを、日本の裁判官が止めるということはなく、実際に多くの遺族は、家族や友人、さらには検察官からそのように後押しされているということだ」。これは著者の意見ではなく、オウム裁判に対する、日本の刑事司法の研究者のデビッド・ジョンソン氏の言葉になる。これは正論でもあるが、実際に通用しない少数派であることも確かだ。
・「宗教は生と死を転換する装置でもある。だから宗教は戦争や殺戮と相性がいい」というのが、著者の宗教に対する考え方。
・拉致被害者の会の蓮池透との対談が掲載されている。蓮池さんは、当初拉致被害者蓮池薫さんの兄で、被害者の会の事務局長を務めていたが、北朝鮮への対応が強硬派に流れるに至り、違和感を覚えて対立し、近年は互いに距離を置いているという。
著者の煩悶と熱意が伝わる。続きを読む投稿日:2015.01.01
いつもの森達也。すでにどこかで読んだ文章も入っていたような気もするし。
蓮池透さんとの対談には、すごく考えさせられた。投稿日:2016.01.10
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