- 最終巻
ひばりの朝(2)
ヤマシタトモコ(著)
/フィールヤング
作品情報
"父親からの性的虐待"。学校中に広まった噂に日波里(ひばり)は完全に居場所をなくすが、彼女に恋する同級生・相川(あいかわ)はその手をとろうとする。また一方で、日波里の闇を知った富子(とみこ)は、女としての劣等感を抱えながら恋人・完(かん)との7年の歪みに対峙する瞬間を迎えていた。「息を止めていたので平気でした」少女の最も気持ち悪い噂。男は、女は、少年は、家族は、毒の渦中にたたずむ少女に何をもたらすのか―? ヤマシタトモコの怪作にして真骨頂、ここに完結!
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商品情報
- シリーズ
- ひばりの朝
- 著者
- ヤマシタトモコ
- 出版社
- 祥伝社
- 掲載誌・レーベル
- フィールヤング
- 書籍発売日
- 2013.07.08
- Reader Store発売日
- 2014.02.07
- ファイルサイズ
- 74.4MB
- シリーズ情報
- 全2巻
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この作品のレビュー
平均 3.9 (55件のレビュー)
-
美知花の「子育て、失敗、残念でした。」
が、私の中で一番ヒットしました。
分かるんだよな…親の子育ての何が悪かったのか。当の親は分かってないけど。
誰かが感じた事のある、何らかの怒り、逃れる事が出来…ない呪いなんかが分かりやすく描いてありましたねー。
ヤマシタ先生のおっしゃる「怒り」は、私の今感じている世の中への「恨み」にとても似ていて、代弁してくれたみたいで、仲間を見付けたようで、すっごい共感。
というか、ヤマシタ先生…ナチュラルに病んでるな…。うん、それが深いところまで根が張っていて、病院に通う程じゃないんだけど、常にちょっと暗いところから世の中を見てるというか。
さて皆さんが予想してるひばりの朝ですが、私は朝は来たと思ってます。
卒業するまで息を止めてやり過ごしたんだから、それなりの目標があったんだと思います。
例えば家出とか。
学校は卒業しないと就職も出来ないですからね。
計画的に、確実に、逃げる為の算段をしていたのではないでしょうか。
卒業式を一日ずらして母親に教えたってのも、一緒に卒業式に出て一緒に家へ帰るというシチュエーションを作らない為。
それまでは目を閉じて、息を止めて、口を閉ざす。
自分の小さい世界の全てを裏切る為に。
それは、ひばりの復讐で、解放なんだと思う。
私には出来なかった。
多分、ヤマシタ先生も出来なかったんじゃないだろうか。
もっと早くに気付いて、もっと早くに逃げ出せれば良かった。
静かな怒りを形にして復讐を遂げたひばりに、希望のようなものを感じる。
「私がわるい」と言っていたひばりが、「私はわるくない!」と叫んだ時に、彼女の世界の全てのものと決別したのだと思う。
心からの叫び。本当は自分ではなく、他の誰か、力ある誰か、ここから助け出してくれる誰かに言って欲しかった。並木がちょっと言ってたけど手は差し伸べてもらえなかったしね。
全部の拒絶。一人で生きていく決意。もう誰にも期待しない。死と同等の別れ。世界との別れ。そんなものがあの一言にあると思う。
良いラストだった。
私も世界を裏切る準備を始めたいと思う。続きを読む投稿日:2013.07.29
このレビューはネタバレを含みます
これは…… なるほど……
きのう、まだ2023年だった頃に作者の最新作『違国日記』を最後まで読み終えて、その翌日に、10年前、2021-2013年に連載・発行されたこの全2巻の作品を読んだのだけれど…、そのあまりのギャップに驚くとともに、最終的には、なるほど確かにこの『ひばりの朝』の延長上に(『さんかく窓の外側は夜』や『花井沢町公民館便り』などを挟んで)、『違国日記』が位置するのだと、そのひとりの作家の経歴の連続性に納得させられた。
Wiiリモコンとかガラケーとか、2010年前後の時代特有のものが色々と登場して、その ”古さ” に慄いた。富子がひばりに対して内心でしようとした、windows OS(XPかVista辺り)での「ゴミ箱へ削除」演出とかも、あの時代でないとまず書かれないだろう。
上巻を読んだ時点で、(ひばり以外の)登場人物のあまりの露悪的な造形、性悪説っぷりにゲンナリしていて、おいおいどうするんだこれ、ここからよくあんなにキャラ全員が善性を持って、少なくとも倫理を追い求める善人であろうとしている『違国日記』を書くようになったなぁ信じられへん……と思っていた。
それが下巻に入ると、本当にギリギリのところで露悪からなんとか善性のほうへと切り返して踏み留まれるかに思われる展開を見せ、期待が高まったが、最終的には、むろん単なる露悪でもなければ、安易な「救われ」展開でも「改心」展開でもない、また別の方向へと突っ走って着地/逃避していた。私の語彙でいえばG=マルケスの『エレンディラ』展開と表現される、ある種とても王道な結末ではある。”夜明け”のほうへとひとり行ってしまったひばりがその後、幸せに暮らせたのかどうかは宙吊りにされている。
「詩」で物語を締めるやり方は当然に『違国日記』を思わせるが、既存の古典を引いた本作に対して、あちらはオリジナルで勝負していて成長を窺わせる。
また、ひばりを死なせもせず、しかしひとりぼっちで逃げ出させた(=”社会”に放り出させた)『ひばりの朝』の結末は、ある意味でとても誠実であると同時に、無責任でもある。だからこそ、そんなひばりの逃避先として『違国日記』での槙生と”朝”との共同生活を描いたのではないかと思った。
上巻の時点で、ま〜たエロゲとかによくある、「ミステリアスな魔性のヒロイン」を中心に配置して、彼女を取り巻く人々の群像劇によって次第に多面的に真相が明らかになっていく(=撹乱されていく)系の物語か……と嫌気が差していたが、しかし上巻の最後の「talk.7」で早くもひばり視点のエピソードを入れてきてくれたので、やっぱヤマシタトモコ信頼できるわ〜〜〜となった。まったく入れないとか、最後に満を持して持ってくるパターンとかが全然有り得てしまうなかで、半分いかないうちにちゃんと彼女が「魔性の女」なんかではないことを、本人の内側から宣言してくれたことのうれしさ。
> 「助ける」ってさ …どうやんのかな
> …どうなったら …あたしって ………助かってるのかな
> …あたしって 助かんの……?
その通り。これは「ひばり」というひとりの少女の問題ではない。彼女を取り巻くこの現代社会の構造の問題である。だから、例えばひばりに想い(性欲と分離はできない)を寄せているクラスメイトの男子が「助ける」ことなどできない。彼が本当はそんなの「できないってわかってて言ってる」事実以上に、そもそも「彼女ひとりを助ける」ことで解決する問題ではないのだ。
だから、誰かの善意がひばりを助ける展開にしなかったことは誠実だと思う。同時に、彼女を取り巻く人々が、まったく善意を持ち合わせていないのではなく、あと一歩で、1クリックで、なんらかの実行的なアクションに繋がっていたところまで丹念に描いていることもまた、素晴らしい。クラスメイトの相川勇くんの勇気ある行動・発言だって、確かに「忘れない」ものを彼女のなかに残しはしたのだ。それはひばりを救いこそしないものの、彼女が「死なない」ための助けには、ほんの少しは貢献していただろう。
この物語の、この”問題”の核心にもっとも迫りながらも、同時に「きっと誰にも救えない」と諦めてニヒリズムに陥っていまっているのはひばりの担任教師・辻先生である。ひばりのはとこ?であり、彼女が一時的な逃避先として選ぼうとしていた「完ちゃん」と並んで、もっとも彼女の抱える問題に気付いて手を差し伸べるべきなのに、それをしなかった罪深い大人だが、辻先生自身が複雑に絡み合う女性差別の中で精神的に摩耗している様子が描かれるので、やりきれない。
> ありきたりの言葉であなたたちがその狭い世界を罵るたび
> あなたたちが世界にどれほど美しく強堅で信ずるべき 善いものを求めているか
> いつも思い知らされるようです
> 敵と味方以外にも人間はいること
> きれいときたない以外のものごともあること
> 生と死以外の選択肢もあること
> 大人と子供以外の人間もいること
> 誰もきっとあなたたちに教えてはくれません
> 私も
> 大人は
> 自分がかつて子供であったことを忘れないと生きてゆけないのです
> だから私はあなたたちを助けません
辻先生のこの言葉を、生徒である未知花は屋上のシーンですでに見通しているのが良かった。
> あたしか ひばりか
> …カガイシャか …ヒガイシャ?
> …どっちか死んだら超ドラマチックであんたたち 皆 超スッキリするよね そうなんでしょ?
だからこそ、誰も安直に死ぬ展開にはしない。極端なバッドエンドでもハッピーエンドでもなく、この物語は終わっても、ひばりの、未知花の、彼女ら彼らの人生は続くのだと。そう思わせてくれる物語で良かった。「息を止めていたので平気でした」……まったく「平気」ではないそれを、このようにひばりに言わせてしまっているそれを私たちは深く痛感して恥じなければいけないが、同時に、それでも彼女は生き残ってくれたのだと、この言葉をまじない(呪い/祈り)のようにしてか、耐え抜いてくれたのだと、絶望と希望で両面を固められたそれそのものを呑み込まなければいけない。この漫画を読むとは、私にとってそういう体験だった。
子供に接する大人こそが、教師こそが、そして本当は親こそが、「そこから逃れる方法」を教えてやるべきだ。逃してやるべきだし自身が逃避先になってあげるべきだ。それは正論だが、同時に社会を構成するひとりひとりの大人という”個人”に責任を鋭く委ねるのではなく、個人の善意と勇気に賭けるのではなくて、あくまで社会構造の問題であると、きわめて政治的な次元の問題であると認識して向き合うべきだ、私たちひとりひとりが。無論、漫画という物語作品のメディアで、どこまで政治・社会を具体的に扱うことが出来るか、というのはまた個別的に難しい課題である。少なくとも、この『ひばりの朝』という漫画では、自身が広げたその範囲で出来ることをかなり誠実に描き切っているとは思う。が、同時に、これだけでは限界がある。それを作者も読者も認識しているから、『違国日記』という作品が書かれ、広く読まれるようになったのだろう。私は、この列島(極左フェミニスト高島鈴さんからの受け売りの言い方)の大衆の政治的状況に深く絶望すると同時に、それでも『違国日記』のような作品が広く読まれているのは本当に素晴らしいことだと思う。
昨日と今日で連続して読んだために、膨大なヤマシタトモコ作品の中でどうしてもこれら2作品のみをナイーブに結びつけてしまう思考になっていて申し訳ない。もっと、ヤマシタトモコ作品の全体像のなかでの位置付けや、そして他の作家の作品との関連も見通してこれからも読んでいきたい。
続きを読む投稿日:2024.01.01
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