この作品のレビュー
平均 5.0 (1件のレビュー)
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狐が美男ではなく美女に化けるのはなぜ?
圧倒的に「男の世界」であった「中国古典文学」の世界に、比較文学・ジェンダー論・その他現代思想的ないろいろ(?)を武器に斬り込んだ張競。
『恋の中国文明史』、『中華料理の文化史』などに続く、張競の21世…紀最初の単著である。
骨子はすっきりしている。
「美醜」の判断は権力関係に依存している、ということ。
(全体にエドワード・サイードのオリエンタリズム論の影響を受けていると思う)
たとえば金髪碧眼の西洋人が、中国人や日本人にとって「美しい」と思われるのは、
近代に西洋が優れたもの・上位のものとして東アジアに登場したからであって、
昔は「醜い」ものだった、というようなことである。
それから、そのバリエーションが展開していく。
必ずしもストレートに「上位=善=美」にはならないのが人の世。
さまざまなねじれがおこり、そこに、「男女」という別のねじれが絡み合って面白いことになる。
たとえば中国には志怪小説というジャンルがあり、幽霊や狐が美女に化ける、とかまあ、そんな系統である。
が、何故美女なんだろう?美男じゃダメなのか?
著者はこう分析する。志怪小説の主な読者は男性である。
現実のなかでは、男は実力(権力や金銭)で思うままに美女を手に入れることができる。
なにも美男になりすまし、女に取り入ったり、だましたりする必要はない。
逆に女はその手を使わなければ、権力も金銭も入手できない。
男をたぶらかす美女という想像は、男尊女卑という現実のなかにこそ、その意外性と面白さがある。
言い換えれば、美女が男を惑わすという構造自体が、男女の権力関係を示している。
こういうの、ジェンダー論じゃ当たり前じゃないか?と思うのだが、
意外と中国文学でこういうことを言う人が少なかった。
だから、デビュー作である『恋の中国文明史』に大きな反響があったのだ。
もちろん、そうした理論面だけなら、少々社会学の知識のある日本人読者にはそんなに面白いものではないだろう。
が、やはり張競の本の魅力は、骨子がきちんとしていることに加え、肉付け・味付けが魅力的であること。
「気づき」のポイントも面白い。たとえば平安時代の女性の「黒髪」について。
中国と違い、髪を結わず服の上に自然にかけている。
それは一見自然のままだが、実は非常に手の込んだ細かいケアが必要なのだ。
このように「文化性」を「自然性」の裏に隠すのが、平安的な美学といえるかもしれない、と著者は感心する。
その発想、私にはなかった。しかもその後も黒髪ケアの方法についての考察と、そこに込められた社会学的な考察が続くのだ(笑)
「美女」は何歳か、というところで、「妙齢」といえば「「二八」、つまり16歳くらいを指すが、
「現代では16歳といえば、なんとなくガングロとルーズソックスが思い出される”妙な”年齢である」
というところには違う意味で笑ってしまった。
著者は20世紀末日本特有の(?)化粧法であるガングロにかなりのこだわりを持ち、
そこにまた深い意義を見出そうとしているのだ。あとがきでもガングロについて熱く語っている。
などなど、とにかく大胆なのに細やかで、時々ヘンで、機知にあふれた本。
たくさんの図版とともに楽しく読んでほしい。続きを読む投稿日:2014.10.06
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