この作品のレビュー
平均 4.0 (1件のレビュー)
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・渡辺保「歌舞伎 型の魅力」(角川文庫)を 読んでゐる。読み終はつたわけではない。半分ほど読んだところである。それなのに書いてゐるのはなぜか。それは、この先、最後まで読んでも同じことであら うと見当が…つくからである。さう、基本的な書き方がどこも同じやなもので、失礼を承知で敢へて言つてしまへば、この書はつまりは金太郎飴なのである。歌舞 伎の型を説明する時、誰々の型がどうこうで……この繰り返しが続く。最初の陣屋の熊谷に始まり、御殿の政岡、十種香の八重垣姫等々、歌舞伎の16人の登場 人物の型が説明される。これもまた失礼を承知で言つてしまへば、本書の内容はそれだけ、それだけの書なのである。歌舞伎の型と言はれたところでほとんど何 も分からない人間には、結局本書を読み終へようが途中でやめようが、そんなことはほとんど関係ない。正直なところ、本書で指摘される型の細かい動きについ て、私にはほとんどそれを想像することしかできない。具体的なことは分からないのである。もしかしたらごく曖昧に思ひ浮かぶことがあるかもしれない。ただ しこれは少なく、大半は私には分からないことである。逆に、この書の内容をある程度具体的に理解できる人もゐるに違ひない。歌舞伎を日常的に観てゐるか、 歌舞伎を研究してゐるか、そんな類の人であらう。では、一般の歌舞伎ファンは型をきちんと理解できてゐるのであらうか。「あとがき」にかうある、「今日、 歌舞伎の型は危機に瀕している。(原文改行)一部を除く大抵の役者も先人の型を研究しないし、劇評家も型について論じないし、まして観客も型に関心を持た ない。」(325頁)。だから「今やその伝統も絶えようとし、古い型を知る人も少なくなりつつある。」(同前)そんな状況であるといふ。つまり、著者の認 識によれば、現在は歌舞伎の型の危急存亡の秋なのである。そこで筆者はこの本を、「そういふ状況を少しでもくい止め、型の面白さに関心をもって貰いたいた めに書いた。」(326頁)のであつた。つまり、私のやうな型を知らない人間が増えたから、それを少しでも食ひ止め、改善したいといふ思ひの結晶が本書な のであつた。これに対して、歌舞伎の熱心でない観客の私は、それはやはり必要だとは思ふのである。ただし、思つても日常的に歌舞伎を観ることができないか らには、熊谷を続けて何度も観るなどといふことは不可能である。きちんとノートに記録しても写真は撮れないから、その状況を頭に刻みつけねばならない。こ れも難しい。つまり、一般の観客にはまづ型を覚えることが難しいのである。だからこそかうして本書を書いたのだと言はれさうである。さうなのである。だか ら私は読む。次に観る機会のための参考にしようと思ふ。本書は「これまでの私の本のなかでももっとも手間のかかった本の一つである。」(「文庫版あとが き」327頁)といふ。「型の正確な記録が少ないためである。」(同前)あの金太郎飴的記述の背後にはこんな事情が隠されてゐたのであつた。いかな渡辺保 もすべての型を実際に見て知つてゐるわけではないのである。だから調べ、尋ねて書いた。それだけの魅力が型にはある。
・では型とは何か。広義の型は「その役を表現するためのシステム全体をいう。」(7頁)所作や段取りはもちろん、衣裳や大道具、小道具等を含む。狭義には 「型全体の中でのエッセンス。たとえば義太夫狂言ならば、義太夫の音楽に乗って様式的に動くハイライトの動きをいう。」(同前)しかし、「狭義の型の背後 には広義の型が広がっている。」(9頁)のである。本書はこれを詳細に分析している。私には正に猫に小判であるが……。 続きを読む投稿日:2014.01.26
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